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三重課税? 環境を旗印に狙う大増税

田中淳夫森林ジャーナリスト
「地球温暖化対策」のためなら、乱暴な間伐にも税金を投入?

このところ、政府は森林整備に使う目的税として「森林環境税」の創設が報道されている。

与党は、来年度の税制改正大綱に盛り込むというが、実は今に始まったことではない。2年も前から林野庁が要望を出していた新税構想だ。それに与党が食指を動かしたらしい。

与党内の議論では、個人の住民税に上乗せして徴収し、それを国が市町村に分配する形式を検討中と伝えられる。金額や実施時期は未定だ。一方で使い道は、地球温暖化対策の二酸化炭素削減に、森林吸収分を含めるため森林整備に当てたいという。

ちなみに府県独自の森林環境税は、すでに広く課税されている。全国35府県が独自に導入(京都府と大阪府は来年度より予定)しているのだ。その総額は約280億円ほどになる。2003年に高知県が導入した後、次々と“参入”した結果だ。

だが、今話題になっているのは、それとは別の国税だ。つまり全国民に課税されるわけである。言い換えると、すでに府県の独自課税されているところにとっては、二重に課税しようというのだ。

いや、それどころではない。実は、環境省も新たな課税を考えているのだ。

今夏、環境省は「環境新税構想」をまとめた。

構想では、森林環境税と同じく住民税への上乗せ方式で一人1日1~2円。つまり年間365円~730円ということになる。一方、企業にも課税して、年1000億円程度を確保しようという考えだ。

こちらは里山や干潟の保全に使いたいという。里山なら森林も対象になるから、国と県の森林環境税と重なることになる。

もし、これらの新税が全部実現したら、地域によっては同一目的による三重課税になるのだ。

……なんだか、森林とか環境を持ち出せば、反対するまいと国民の足元を見ているかのようだ。

実際、各県の森林環境税が実施される過程を追いかけたことがあるが、あまり大きな反対運動は起きていない。むしろ「森林のためなら」と賛成する声が強かったと記憶している。

もちろん、森林面積が広く、林業が重要な産業となっている自治体の場合は、住民に森林を守るための増税という考え方にも理解が生まれるだろう。しかし、国税となれば、全国一律である。しかも森林面積が少なく人口の多い都会からほど多く徴収できる。

さらに肝心の使い道は、どうも不明確だ。自治体の森林環境税の税収を何に支出しているのか怪しいということは、すでに記した。(2015年5月25日)。

'''知ってる? 森林環境税の使い道'''

国税の使い道となると、いよいよ不明確になる可能性は高い。ようするに林野庁も環境省も、単に自前の(好き放題使える)財源を持ちたいだけなのではないか。

しかも、京都議定書を締結するために、森林を整備(林野庁は、単に間伐すればよいと解釈している)したら二酸化炭素を吸収するという考え方は、科学的にかなり無理がある。そもそも伐採や搬出に消費される化石燃料だって馬鹿にならないし、むしろ乱暴な間伐で森林を荒らしているケースも少なくない。

ちなみに林野庁は、今やすべての木を伐り尽くす皆伐を推進しているのだ。そこにも森林環境税の金を注ぎ込む可能性だってある。このままだと環境を旗印に税金ではげ山づくりを進めかねないだろう。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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