新国立競技場の知られざる不安。デザイン案にある木材は調達できるのか?

ここに建てられる新国立競技場には、どんな木材が使われるのか?(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

2020年の東京オリンピックに向けて新国立競技場のデザインが2案発表された。

新国立競技場に関してのゴタゴタは改めて言うまでもない。莫大な建設費のかかるザハ案が撤回されて、工期も限られる中で出された建築デザインだが、ここで注目されているのは、どちらも「杜のスタジアム」という名称で、木材を豊富に使うことだ。

もともと基本要項の中に「日本らしさ」「木の活用を図る」ことが入っているためだろうが、2案とも木材の使用が目立つ。加えて環境を意識した結果だろう。

実は、この要項には林業・木材関係者からの強力なプッシュがあったと聞く。新国立競技場の建設を通じて林業振興を図りたい意図があったのだ。

おかげで日本の林業界には歓迎の声が上がっている。これを機に木造(正確にはRC造と併用)が見直されれば、長期低迷する林業にも薄日が射す……と期待しているのだ。

だが、新国立競技場が日本林業の後押しに本当になるかどうかは、微妙である。まだどちらのデザイン案になるかも決まっていない中で先走った指摘をするのは心苦しいが、問題点を上げておこう。

まず、どちらのデザインでも使われる木材は、エンジニアードウッド、つまり張り合わせたり耐火・耐腐朽性を得るために薬剤注入などを行った木材になるだろう。

とくにB案は、72本の巨大な柱を立てるが、これは大断面集成材だ。だが、現在の集成材の多くが外材製である。国産材で集成材をつくっている工場はそんなに多くないし、生産規模も小さい。

A案には、「国産スギを多用」という文言があるが、求められる質の材を、十分に調達できるのか、加えて価格はどうなるのかという心配がある。

そして、これが最大のネックなのだが、オリンピックに使われる木材は、森林認証を取っていることが世界標準になっていることだ。全森林が認証を受けている国さえある。

ここで森林認証制度について説明しておく。

森林認証制度とは、林業は自然破壊だとする世論を受けて、1990年前後から各地で設けられた環境認証の一種だ。森林の経営方針や管理・作業方法などを第三者機関が審査し、合格したところに認定するのである。

そして、認証を受けた森林から出された木材は、製材や流通過程でも区別するよう認証された機関を通さないといけない。エンドユーザーの手元に届くまで認証はつながっていることが肝だ。そして認証を受けた木材には、ロゴマークがつけられる。

すでに世界的には非常に大きな広がりを持ち、世界標準化している。木材貿易のパスポートと言われるほどなのだ。

世界的には森林管理協議会FSCの認証のほか、各国の認証制度を相互認証する組織PEFCがある。また日本には、独自のSGEC(「緑の循環」認証会議)がつくられている。ただしSGECは第三者認証ではなく業界認証なので、国際的には完全な森林認証と認められていない。現在PEFCへの加盟準備中だ。

つまり森林認証のロゴマーク付き木材なら、環境に配慮して生産された木材であることが証明されるシステムなのだ。

そして、オリンピックでは森林認証木材を使うことが標準化されている。義務ではないが、環境に配慮する一環で認証材を使うのが潮流となった。とくに前回のロンドンオリンピックは、使われる木材や紙類をすべて認証材由来のものだった。来年のリオでも、認証材を使う努力がされている。にもかかわらず、東京で使われねば世界中から不評の声が上がるだろう。

ところが、日本に森林認証を取得した森林はごくわずかなのだ。

FSC認証の森林は、日本で39万4186ヘクタール、SGEC認証でも126万1159ヘクタールしかない。日本の森林面積の約6,6%である。しかも日本の場合、認証森林で必ずしも木材生産しているとは限らないため、現在出荷される認証木材の量はそんなに多くない。そこに紙類となると絶望的になる。

つまり、今のままでは新国立競技場に認証を取得した国産材を使いたくても結構厳しいのである。さらに競技場以外のところでも木材は使われるだろうから、それらを全部、国産認証材にするのは絶望的だ。もし認証木材・認証紙にこだわれば、多くが外材になる可能性だってある。

オリンピック会場で(外材使用であっても)木造建築が目立てば、日本人も木造の良さに目覚めて後々国産材の需要も増えるよ……そんな淡い期待の声も業界には出ているが、それだけでは少々寂しい話である。日本の森林も、もっと積極的に森林認証を取得するべきだろう。また安定供給できる体制をつくるだけでなく、使用する木材の素性がすぐわかるトレーサビリティを流通に確立させる必要がある。消費側が積極的に認証材を求めることで、供給側の変化を求めたい。

残念ながら日本の林業界は、そうした動きに鈍いままである。