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輸入菌床のシイタケは国産か

田中淳夫森林ジャーナリスト
培養中のシイタケ菌床

シイタケ栽培、と言えばコナラやクヌギの原木(ホダギ)に種菌を植え付けて……というイメージを持っている人は多いかもしれない。

実は,私も家で、趣味的に原木シイタケを栽培しているのである。

しかし、現在市場に出回っているシイタケの9割以上は、原木ではなく菌床シイタケである。菌床とは、オガクズに米ぬかやふすまなどを栄養素として添加し、20センチ程度の立方体に固めたものに植菌したものだ。そして屋内で湿度や温度も管理しつつ栽培する。国産シイタケの多くは原木でつくってきたが、それが菌床に置き換わろうとしている。

原木は調達が大変(山から太さや長さを考えて伐り出し、種菌を植え付ける)なうえに、シイタケが栽培できるまで300日くらい、つまりほぼ1年かかる。その点菌床だとつくるのも簡単な上に3か月で収穫できるのだ。しかも量は原木の4倍以上も可能だという。

味は原木シイタケの方が圧倒的に美味しいと言われるが、生産者からすれはコストや手間、そして収量の差は大きいだろう。

加えて、日本の原木の主要産地だった阿武隈山系が原発事故の影響で放射性物質をかぶってしまい、生産が難しくなった。おかげで全国のシイタケ産地でも原木の調達に困っているという。広葉樹資源は各地にそれなりにあるのだが、伐り出して出荷する生産流通体制をつくるのが大変なのだ。

ただ菌床の材料であるオガクズも、実はコナラやクヌギなど広葉樹からつくらないとシイタケ菌は繁殖しにくいという。

そこで近年伸びているのが、主に中国から輸入される菌床だ。オガクズだけでなく、ちゃんと菌床の形にして、そこに種菌も植え付けたものの輸入が増えているのだ。

2013年の統計で、8918トンと中国からの菌床輸出量の約3分の1を占める。一番多い輸出先は韓国だが、実は韓国産シイタケも、かなり日本に輸入されている。こうして生産されたシイタケは、価格も安いし、消費者にとっては嬉しいかもしれない。

だが、単純に喜べない現実がある。まず、菌床材料の産地がどこであろうと、種菌が中国産であろうと、日本でシイタケが生えたら、それは国産シイタケとなる。国産のオガクズを使った菌床シイタケとの区別がつかないのだ。

中国は、そんなに広葉樹資源が豊富な国ではなく伐採制限も強めている。そのためロシアの家具用材に頼ったり、針葉樹チップを混ぜたり、建築廃材をオガクズにして菌床をつくっているという声もある。となると、建築廃材の塗料や防腐剤が混入するかもしれない。栄養素として添加する米ぬかやふすまの残留農薬は大丈夫か。あるいは水が重金属や雑菌に汚染されていないだろうか。仮に放射性物質が付着していてもわからないだろう。

かつて中国産シイタケから高濃度の農薬が検出されて問題になったが、菌床は大丈夫だろうか。菌類は、薄く存在する有毒物質を吸収して濃縮する作用がある。

重大なのは、日本の菌床は、ちゃんと検査を受けてセシウムなど放射性物質はもちろん、重金属や化学物質、雑菌が混ざっていないか確認されているが、輸入菌床では、そんな検査は行われていないことだ。

中国産をすべて危険というつもりはないが、検査していないことと、消費者へ原料の産地情報が伝わっていないというのは、また一つ食の不安材料になるだろう。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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