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スギ花粉は世界中に舞っていた!

田中淳夫森林ジャーナリスト
スギは日本の固有種。だから杉の花粉が飛ぶのも日本だけ?(写真:アフロ)

スギの花粉散布は今が最盛期、つまりスギ花粉症も盛りのようだ。

そのためスギのない北海道や沖縄、さらに海外まで“避難”する人もいるとかいないとか。

そこで現在スギは、どこに植えられているのか、ちょっと調べてみた。

まずスギは、日本では屋久島から青森までたいていの山に生えている(植えている)。だから身近に感じるが、実はヒノキ科スギ亜科スギ属に属する日本だけの固有種である。その点からは、スギ花粉症は日本だけの現象なのだ。

また最近はヒノキ花粉症も増えているが、ヒノキもヒノキ科ヒノキ属に属して、分布するのは日本と台湾だけとされる。タイワンヒノキは、若干ヒノキと違っているので、果たしてタイワンヒノキの花粉で花粉症になるかは知らない。ただ、台湾では花粉症そのものがあまり認知されていないそうだし、ヒノキ花粉症も日本特有に近いと言えるだろう。

そのように見ると、意外とスギ(とヒノキ)花粉症は、世界的にはごく狭い範囲でしか起こっていない珍しい症状のようである。日本の中でも、北海道と沖縄を除く地域だけなのだから。

もっとも北海道も、厳密に言えば戦前戦後に道南一部に植林されたので、それなりにスギはあるはずだ。ただ花粉症と感じるほど多くないだけである。

スギと名のつく樹木は世界中にあると思う人もいるかもしれない。。有名なのはレバノンスギやヒマラヤスギだろう。ほかにも正式名称ではないが、ベイスギと呼ぶ木もあり、英語のシーダー(シダー)はスギと訳されている。

しかし、ヒマラヤスギやレバノンスギは、マツ科の樹木である。ベイスギとも呼ぶウェスタンレッドシダーは、ヒノキ科クロベ属。ちなみに中国で杉と記すとコウヨウザンを指し、日本では中国杉と呼ぶが、これはヒノキ科コウヨウザン属だ。

単に日本人が「~スギ」と名付けただけなのだ。当然、花粉もスギとは全然違う。

だからヒマラヤスギやレバノンスギ、コウヨウザンの花粉症などはないはずだ(多分)。

ところが、実は日本のスギは、意外と世界各国に植えられていた。

まず台湾と朝鮮半島がある。これはかつて日本の植民地だったからだが、戦後はほとんど植えていないから、現在まで残っているのはごくわずかだろう。

しかし、ちゃんとスギで林業をしている地域があった。大西洋のアゾレス諸島と、インド洋のレユニオン島である。

どのような経緯で大西洋やインド洋の孤島に植えられたのか詳しくはわからないが、数万ヘクタールものスギ林が造成されているらしい。ちゃんと計画的に苗を生産して植林し、育ったら伐採もして木材を出荷する、つまり林業を行っているという。

ほかにもインドやネパールにもスギ林はつくられている。意外や海外ではスギは人気なのだった。

どうやら具体的に林業を行うために世界中の樹木を検討して、もっとも適した種としてスギが選ばれたようだ。真っ直ぐ伸びる幹は建築材に向いており、生長も比較的早いと、海外では杉の評価は高いのである。

それらのスギ林が造成された地域にスギ花粉症があるかどうかはわからない。しかし、少なくても花粉症を理由に目の敵にされることはなさそうだ。 

むしろ海外ではシラカバなどカンバ類や、ポプラ、クリ、そしてブタクサなどの花粉による花粉症が問題になっているらしい。

スギばかりを悪役にするのではなく、なぜ自然物である花粉が、人体(とサル)に花粉症を引き起こすのか、そのメカニズムに眼を向けた方がよさそうだ。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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