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CLTビルの建設現場を見てきた。

田中淳夫森林ジャーナリスト
側壁が7層のCLT。梁は集成材で、鉄骨も目立つ。

CLTで建設中のビルを見学してきた。

CLTとはクロス・ラミネイティド・ティンバー、直交集成板のこと。木材を板(ラミナ)にして繊維方向を交互に替えつつ張り合わせたパネル建材だ。強度が上がるうえ寸法安定性が増す。また分厚いことで断熱性・遮音製なども高まり、使い勝手がよくなる。これを使えば木造ビルを建てても耐震・耐火などにも威力を発揮する。また鉄筋コンクリートに比べて軽いうえ、施工日数が格段に短くできるのだ。

欧米ではすでに広く出回っているが、日本ではこれから。建築基準法が適合するよう現在改訂作業が行われていて、政府はCLTの開発を成長戦略の一つに取り上げている。これまで木造といえば低層の住宅ばかりだったが、CLTを使えば高層のオフィスビルなどにも使えるからだ。これで新しい建築需要を喚起しようというのである。

そして木材の需要を増やして、日本の林業を再生し、山村振興にもつなげるという期待の声が上がっている。

ぷろぼのビル
ぷろぼのビル

さて、視察に訪れたのは、奈良市の社会福祉法人ぷろぼのが建設する5階建てビルだ。1階は鉄筋コンクリートで2~5階をCLTによる木造にするという。使われるCLTは7層だ。厚さは21センチ程度。これまでCLTビルの建設は、国交省の認可を受けつつ全国に少しずつ建っているが、いずれも3階まで。4階分をCLTで行うのはここが初めてということだ。

そのためか視察者は多く、1日4回に分けて行われたか、近畿圏だけでなく、遠く高知や宮崎、東京などからも訪れていた。

またCLTに使われる木は、奈良県産材にこだわり、十津川村のスギ材を県内でラミナにしてから、CLTを製造している岡山県の銘建工業に運んで仕上げ、それを再び奈良に搬送するという手間をかけている。これも地元林業への貢献を意識したからである。

現在は2階までできたところだ。つまりCLTの部分は1階分なのだが、その方が天井もなく構造がわかりやすかった。パネル工法なので、建てだすと1階分を組むのに1日とかからないそうだ。コンクリートの1階と地下を建設するのに数カ月かかったことを思えば、いかに早く建設できるかわかる。

まず現場に入って目に飛び込んだのが、木の壁というのは気分的に悪くない。

ただ目についたのは、鉄骨の柱である。どうやら全部CLTで構造を支えているわけではなさそうだ。

また梁の部分をよく見ると、CLTではなく通常の大面積集成材(繊維方向を平行に張り合わせたもの)だった。これは外材製だ。

CLTも板方向を交互になっているものばかりではなく、縦方向、あるいは横方向に二重に張り合わせた部分もある。これらは強度計算上を考慮したものだという。

さらに言えば床はCLTではなく合板を使うとのことだった。またCLTの面をそのまま壁にするのではなく、内装材・外装材で覆う。一部見える部分をつくるということだが、基本的にはCLTは人の目に触れない構造だ。

CLTと鉄骨
CLTと鉄骨

なるほど、CLTビルとはいうが、建材すべてがCLTではないわけだ。

CLTは建材の一つなのだ。ほかの多くの建材と組み合わせて使うのが現実的なのだろう。

岡山県の銘建工業の人にいろいろ質問した。

現在、技術製造面からは、CLTは従来の集成材と変わらないレベルになっているという。むしろ法律などの縛りが、CLTを十分に使えない理由になっているようだ。

ただ、生産における原木の歩留りは約15%だった。

これは、ちょっとショックだった。従来の集成材も2割前後とはいうが、やはり製材して、張り合わせるために都合の悪い部分を外し、さらに表面をカンナがけを繰り返すと、ここまで歩留りは落ちるのか。

これもラミナの厚さを厳密に揃えようとするために歩留りを悪くしている面があるというが……。

ちなみに山に育っている樹木の場合、出せるのは全体の3~4割である。細い梢に近い部分や曲がっている根元部分、さらに枝などを切り捨てるからだ。こうして丸太で出された原木の15%ということは、全体の数%しか利用できないことになる。残された部分を、バイオマス発電などに利用するのならよいのだが。

そして現在の価格は、立米単価10万円だというが、政府のCLT普及ロードマップに沿って、今後7~8万円まで下げる方針とか。さもないと輸入CLTと戦えないからだ。

本当にそれが可能なのだろうか。製造コストの合理化だけでは無理だろう。しかし価格を下げるために原木価格をたたくことになれば、林業振興にならない。木を伐って利益が出なければ、逆に山村は疲弊する。

さらに肝心の銘建工業の中島社長は、「国産材ばかりでCLTはつくれない」と発言している。国産材は安定供給が難しいことや、スギ材の強度が弱いことを理由に上げているが、外材のラミナを輸入してCLTを製造したのなら、林業再生にも山村振興にならない。

さて、これからCLTは普及するだろうか。そして、それが山村や林業のためになるのだろうか。CLTを普及させれば成長戦略が成功して、日本の林業も山村も元気になるというほど単純ではないのだ。CLTという一建材に頼るのではなく、林業から建設業まで総合的に目を配った政策を立てていただきたい。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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