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木の柱はもういらない? 木材は建築材から撤退しよう

田中淳夫森林ジャーナリスト
一ミリ以下の薄さに加工したツキ板。これを張れば、なんでも“木造”だ。

林業振興のため、木材需要を増やそうという声が高まっている。公共建築では木造を優先するような法律もできた。

だが、そこで気づくのは、木材の需要イコール木造建築物というステロタイプな前提だ。

たしかに建築材(とくに柱や梁など構造材)はボリュームがあるので、木材の消費量を底上げするには有効だ。とくに住宅は木造率が高い。だから林業側も、常に住宅に使われる木材を生産することを想定してきた。

それは今に至るまで続き、木材の利用法で思いつくのは、まず建築物だった。それが量的にもイチバン多かったのだ。

木の柱を建てるのが、建築の基本
木の柱を建てるのが、建築の基本

しかし現実の住宅を見ると、いくら木造と言われても木肌が見えない家が少なくない。柱も梁も見えない。壁も新建材のクロス。それが大壁工法と呼ばれる現在主流の建築法だからだ。逆に畳に代わるフローリングは一応木製(合板が多い)なのだが、その上にカーペットを敷く。

もしかして日本人は木が嫌いなのか?と思わせる。

しかも木材価格は下落の一途で、林業家はいくら量を売っても利益が出ないと嘆いている。

そこで仮説を立ててみた。林業の主要な目的を、建築材の生産とすることが間違っているのではないか。言い換えると、木材の主な使い道は建築、とくに住宅だという思い込みが、林業を衰退させているのではないか……と感じたのである。

いっそ木材の使い道として建築材から撤退したらどうか。見えないところに無理やり木材を使う必要はないではないか。住宅も、みんなコンクリートと鉄骨で建てる。数寄屋造りの茶室も鉄の床柱にコンクリートの框にする。その方が火事にも地震にも強い。

現在の建築では、コンクリートや鉄骨などの建材が多用され、合成樹脂など新建材もどんどん登場してきた。もはや木材の建材としての優位性は薄れている。

建材としての鉄や銅、アルミなどの金属やセメントやガラスなどの鉱物資源、石炭石油系の化石資源から生み出されるプラスチックなどは大量生産・安定供給が可能で、強度、耐火性や耐腐朽性などでも木材より優位だ。そして価格が圧倒的に安い。

逆に木材は、寸法は基本的に限られてしまうし、強度もイマイチだし、加工できる形にも制限がある。何より生産に長時間かかって供給が安定しない。乾燥なと加工も難しい。そして何より価格が高い。両者が張り合うと、木材に勝ち目はない。

少なくても建築の構造材としては、木材をコンクリートや鉄骨や合成樹脂素材などと同じ土俵に乗せたらダメだ。

では、どうすべきか。

構造材ではなく、内装・外装材として木を使えばよい。コンクリートや鉄骨の表面に薄板か、ツキ板と呼ばれる紙のように薄くした素材を張れば、見た目は木肌であるから木造に感じるだろう。

さらに進んで、ありとあらゆるコンクリートを木で包み込む。ビルディングもダムも堤防も、表面に木の板を張れば、人の目に写るのは木肌だ。ならば「木造建築物」と思えるだろう。

そうなれば木目が町に溢れて、常に木に触れるようになる。木の魅力いっぱいだ。

木の外装に包まれたビルディング
木の外装に包まれたビルディング

木材を使うのは、木材が得意な、木材しかできないような用途の分野に特化すべきだ。それは、おそらく五感と情操面に関わる分野、そして環境への影響にこだわる分野だろう。

これらの木製品は、高付加価値だから価格は高くなり、山元に利益は還元しやすくなる。そして伐採する樹木の量は少なくて済む。

木材消費を量で計るのではなく、林業家が手にする収益で考えるのである。山村に住み続けられる収入があれば、林業従事者も減らないだろう。森林はしっかり管理され、林業も振興できるだろう。

……そんな夢想をしてみる。木材の使い道を見直すことで、林業の自縄自縛から解き放たれるのだ。そして建築構造材から木材が消えたとき、初めて世間は木材の建材としての本当の価値に気づくのかもしれない。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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