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地球温暖化が緑を増やす? 環境問題は一筋縄にはいかない

田中淳夫森林ジャーナリスト
化石燃料が二酸化炭素を増やし地球温暖化を進める一方、緑を増やした(写真:アフロ)

暑い。とにかく陽射しが強い夏。これも地球温暖化の影響か……。

その原因の一つに、地球の森林の減少がある。緑が失われているから二酸化炭素が増えたのだ……と思ってしまう。だが。

ここに面白い調査結果がある。

NASAの地球観測衛星を利用した地球の植生調査をしたところ、35年前と比べて植物に覆われている面積が拡大していることがわかったそうだ。つまり緑が増えているのだ。その面積はアメリカ合衆国の面積(985万7000平方キロメートル)に匹敵するというからすごい。おかげで陸上の植物に保存される炭素量も増えたようなのだ。

植物の生長がよくなった主な原因は二酸化炭素濃度の上昇だという。植物は、太陽光エネルギーと水と二酸化炭素によって光合成を行うが、大気中の二酸化炭素が多くなれば光合成も活発になり、生長もよくなるからだ。

地球温暖化を引き起こすのは、大気中の二酸化炭素の増加である。しかし、その二酸化炭素が一方で緑の増加をもたらしているのだ。

加えて化石燃料の燃焼では、酸化窒素も放出しているが、その窒素化合物が土壌に移行した後に植物の栄養となる面もあるという。

意外や地球温暖化を進める要因が、一方で植物の増加を助けているのだ。

そして植物がさかんに光合成で二酸化炭素を吸収してくれれば、大気中の二酸化炭素を減らす効果も見込めるかもしれない。

もちろんこの程度の緑の増加では、地球温暖化を止めるには微力すぎるだろう。とても喜んでいる余裕はない。しかし、森林破壊が地球温暖化を進めていると言い切るのは一面的すぎるのだ。

そういえば、地球温暖化が海面の上昇をもたらして、太平洋の島国が沈没する危機が叫ばれている。

たとえば南太平洋の島嶼国家ツバルは、国土のほとんどが海抜1~2メートルしかない。そのため地球温暖化により盛り上がる海面によって水没の危機にあるとされている。

だが、このツバルの面積を調べたところ、驚いたことに増えていた。

この100年間の海面上昇は約17センチとされている。ところが1984年から2003年までの20年間で17の島の面積の合計は、3ヘクタール近く増えたというのだ。ツバルの面積は約26平方キロメートルしかないから少なくない増加だ。

海面が上昇しているのに、面積は減らずに増える?

増えた理由は、波によって運ばれた砂が堆積して浜が広がったためだ。もともとツバルの国土である島は、珊瑚礁の上にできている。砂が吹き寄せられ、また珊瑚礁が成長すれば、国土は広がるわけである。

もちろん、波によって砂浜が広がり面積を増やす場所がある一方で、砂が流されて海岸浸食が起きている地点もある。その差し引きが、どうやらプラスだったことになる。

ただ海岸浸食も、汚水などを垂れ流したために砂浜を作っている有孔虫やサンゴなどが死に絶えたことが促進した面もあるらしい。どうも地球温暖化とは別の要因が大きいようだ。

これをもって、森林は減少していないとか、地球温暖化による海面上昇を嘘だというつもりはない。たしかに由々しき事態が進行しているのは間違いない。

だが、環境問題とは一筋縄で行かないことを感じざるを得ない。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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