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国際熱帯木材機関、不透明な投資失敗で巨額損失

田中淳夫森林ジャーナリスト

横浜に本部のある国際熱帯木材機関(ITTO)の理事会が、7日より開催されている。

ITTOは、熱帯林の保全と熱帯木材の持続可能な取引等々を扱う国際機関として1986年に設立され、現在73の加盟国がある。

つまり今年は設立30年の記念すべき年なのだが、そこに驚くべき事件が表沙汰になった。

7日の理事会で、ジェニファー・コンジェ議長が「過去の経営者が2年以上前に行われた決定や行動の結果として、ITTOはその財務の健全性に巨額の損失を経験している」と告げ、重大な危機にあると延べた。

具体的には、12の加盟国から拠出された1820ドル(約19億円)が失われたのだ。

前事務局長のエマニュエル・ゼメカ氏(カメルーン出身)と彼のスタッフが、資金をハイリスクなオフショア・ファンドへ投資したものの、回収不能に陥ったからである。結果として、ITTOは今年6月から同資金によるプロジェクト活動を止めてしまっている。

失われた1820万ドルの内訳は、日本が1140万ドル、アメリカ合衆国130万ドル、スイス100万ドル、オーストラリア90万ドル、欧州委員会50万ドル……。つまり、6割以上が日本の拠出した資金であった。

これまでの経緯を調べると、まず2012 年から2015 年2 月にかけて、ITTO 事務局幹部は、承認された投資先の範囲外であるファンドに対して、プロジェクトの原資として拠出された資金を投資していた。

2013 年3 月、投資先の一つLM Fundが破綻したため、600 万ドルの投資の全部又は大部分が失われる見込みとなった。

2015 年末に、600 万ドルの欠損に加えてケイマン諸島に所在するArdent というファンドグループに1220万ドルの投資がプロジェクト資金から行われていたことが判明した。2016年初頭にArdent ファンドへの投資の償還請求を行ったものの、同年4 月末にITTOは、同ファンドが清算手続きに入ったことを通知されたのである。

両方を合わせて1820万ドル。これらの投資を斡旋したのは、いずれも東京に本拠を置く投資アドバイザーである。

エマニュエル・ゼメカ前事務局長は、投資失敗に関する情報を理事会が知る前の2015 年11 月に退職しており、別の2名の幹部職員については解雇された。現在、事務局長の席は空席で、スティーブン・ジョンソン氏が事務局長代理を務めている。

理事会では、投資損失への対応及び改善・是正措置を提案するための調査監視委員会が設立された。Ardentファンドの清算における法的対応も進められており、投資アドバイザーに対する法的対応も進められている。

しかし、未だに、誰がどのように、なんのために怪しげなファンドに投資したか……など事件の全容は明らかにされていない。

スイスのNGO、ブルーノ・マンサー基金は、前ゼメカ事務局長に対して完全な調査報告と法的措置を要求しているが、どうなるかまだ不透明だ。

ITTO設立当時は、熱帯雨林の伐採反対運動が世界的に展開されていた。なかでも日本は世界一の熱帯木材輸入国として攻撃の矢面に立っていたこともあり、ITTOの本部を日本に誘致したことは国際世論に対して大きなアンサーであったはずだ。実際、資金の拠出の面からも、日本が最大の支援国であるのは間違いない。

それなのに、なんとも不名誉な事件が起きたものである。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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