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東京オリンピックが熱帯林を破壊する!

田中淳夫森林ジャーナリスト
スイス・ローザンヌで東京五輪に警告する環境NGO

12月6日スイスのローザンヌで、国際オリンピック委員会(IOC)のジョン・コーツ副会長(東京2020調整委員会委員長)に、44の国際環境NGO代表が公開書簡を手渡した。

それは、2020年の東京オリンピックのために建設される新国立競技場やそのほかの会場施設に、違法で持続不可能な熱帯雨林木材が使われる可能性が高いと警告するものだ。

直接手渡したブルーノ・マンサー基金の代表によると、「コーツ副会長は、非常に興味を示し、本当に懸念を抱いているようでした。組織委員会や日本政府等の2020年東京大会関係者にNGOの懸念と提案を伝えること、そして関係者に報告を求め、NGOにも共有することを約束してくれました」

コーツ副会長とNGOメンバー
コーツ副会長とNGOメンバー

これは何を意味しているのだろうか。

オリンピック会場となるいくつかの施設の建設はすでに始まっており、メイン会場となる新国立競技場も今月1日に本体工事を開始した。しかし、これらの建設に関して重大な問題が潜んでいることが訴えられたのだ。

これまでも伝えてきた通り(新国立競技場に違法木材)、オリンピックに関する施設や設備には、持続可能な材料を使うというレガシー(遺産)がある。それは北京で一部、ロンドンで完全に実現し、リオでも引き継がれたものだ。

とくに木材に関しては、トレーサビリティが確保され、環境に配慮していると証明された森林認証材を使うことが求められている。大会組織委員会が今年の6月に採択した木材調達方針でも、環境に加えて、先住民族の権利、労働者の安全に配慮して伐採された合法木材を調達すると誓約している。それは建築物の建材だけでなく、事務機器や家具、紙のパルプまで及ぶ網羅的なものだ。

コンパネは見えない木材消費

ところが、この方針にコンクリート型枠は含まれていないことがわかった。例外として方針に従わなくてもよいことにしたのである。

建築に使われる木材とは、木質の建材だけではない。コンクリート部分も、その施工時に型枠(いわゆるコンクリートパネル)として合板が多用される。建設途上に使われ、コンクリートが固まった時点で用なしになるから、いわば見えない木材消費だ。しかし、その使用量は、時として建材よりも多いほどである。それを除外しては、持続的な木材だけで建てました、とは言えないだろう。

日本は世界最大の熱帯合板の輸入国で、とくに日本の輸入合板の約半分、その9割はマレーシアとインドネシアから輸入したものだ。なかでも建設現場で使われるコンクリートパネル用の合板の大半は、マレーシアのサラワク州から供給されている。サラワクは、世界でも急激に森林の減少が進んでいる地域の一つであり、違法伐採が行われている可能性が高いと指摘される。それは森に住む先住民の人権も蹂躙していることを示す。

疑わしいのは型枠だけではない。組織委員会が定める基準も、東京オリンピック関連の施設建設のすべてに適用されるわけではないのである。東京都が整備する恒久施設には適用されない。恒久施設は「オリンピックにも」使用するだけで、オリンピックのための施設ではないと見なされるからである。必要とされるのは、持続性や合法性の証明が不十分なグリーン購入法を満たすことだけ。ここに違法な熱帯木材が使われる可能性は高いだろう。

新国立競技場の施工を担当する大成建設は、技術提案書で「持続可能性を含めた合法性を認証機関が認めた木材を使用する」としているが、一方で「全ての木材を認証材にするかどうかは確定していない」と答えている。

「東京オリンピックの会場建設に違法で持続不可能な木材を使うことになれば、持続可能性を堅持するとのオリンピック関係者の誓約に反し、とんでもないレガシーが残されることになる」と国際環境NGO FoE Japanの三柴淳一氏は話す。

ちなみに小池百合子東京都知事もこの問題を認識をしており、「発注者として声をあげていく」と発言している。

現在、競技会場施設をどこにするか、そして建設費をいかに削減するかで騒がれているが、どうやら問題はそれだけではないようである。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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