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aikoが17年間愛され続ける理由

田中久勝音楽&エンタメアナリスト

フリーライヴに3万6千人が集結

8月30日、夏休み最後の日曜日、神奈川県・茅ヶ崎は早朝から人であふれかえっていた。多くの人の目的は、この日サザンビーチちがさきで行われるaikoのフリーライヴ『Love Like Aloha vol.5』だ。

このフリーライヴ『Love Like Aloha』(LLA)は2003年神奈川・片瀬海岸西浜海水浴場で第1回目が行われ、2006年、2008年、2012年は場所を移し、サザンビーチちがさきで行われ、今年で5回目になる。この日は、なんと3万6千人ものファンがビーチに集まった。砂浜に組まれたステージは、まるでどこかのアリーナでライヴをやるかのような大きさで、50メートルもの花道、さらにその上にやぐらも設営され、少しでもファンに近づきたい、近くで観てもらいたいという気持ちの表れだ。映像、照明そしてセットリストも、フリーライヴだからといって一切の手抜きなし。少しでもいいライヴを観せたいというaikoとスタッフの“想いと心意気”を、隅々にまで感じることができた。

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終演後は1500発もの花火が派手に打ち上げられたが、ちなみにこの『LLA』、協賛などのスポンサーはついていない。今年も協力してくれたのは「お~いお茶」でおなじみの伊藤園で、参加者全員にお茶とお水を無料配布した。まさにチームaikoの心意気でこのフリーライヴは成立している。こんなところからも、aikoがデビューから17年、女性シンガー・ソングライターシーンのトップランナーとして、愛され続けている理由が垣間見えてくるが、今年40歳を迎える彼女が、なぜ他の追随を許さずにシーンを独走できているのかを探っていきたい。

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椎名林檎、宇多田ヒカルらと同じ"花の98年組"

aikoは1998年デビュー、今年で17年目を迎える。"同期"のシンガー・ソングライターには椎名林檎、宇多田ヒカルなどがいる。シンガーでは浜崎あゆみ、MISIAもこの年のデビューで、98年という年がいかに“豊作”だったかがわかる。年間約150組ものアーティストがメジャーデビューするといわれている。その中で10年目を迎えることができるアーティストはほんのひと握り、15年になるとさらにその数は減り、片手にさえあまる。そう考えると’98年組の活躍は素晴らしい。中でもaikoは17年間毎年コンスタントにCDをリリースし、同じく毎年ライヴツアーを行い、全国を回っているという稀有な存在だ。それだけファンに求められているということだ。aikoがキャリアを重ねれば当然コアファンも一緒に年を重ねていくわけだが、毎年全国ツアーを行っていることで、ファンの新規開拓、若年層の開拓がしっかりできていることが彼女の強さである。

ファンとの会話を楽しむ、"距離"を感じさせないライヴと、誰もが"共感"できるラブソング

女性アーティストの多くがライヴでやっているコール&レスポンス。ファンとの距離をより近いものにし、一体感を求めるために「男子!女子!そうでない人!」、「メガネ!コンタクト!レーシック!」などと呼びかけるが、aikoのそれを参考にしているアーティストも多い。その中で「10代!20代!30代…」とaikoが年齢をコールすると、どの会場でも10代、20代のファンが元気よく声と手をあげる。時には60代、70代のファンも見かける。彼女が老若男女から愛されていることがよくわかる。お客さんとの距離の近さがaikoのライヴの特長でもある。お客さんはaikoにどんどん話しかける、aikoもそれに応え会話を楽しむ。これがaikoのライヴの真骨頂だ。こんなことができるアーティスト、他にいない。大きな会場でも小さな会場でもそのスタンスは変わらない。アリーナクラスの会場では2階、3階のファンとも会話をする。まるでお互いの親友に会いに来ているかのような、そんな空間が作り上げられ、距離を感じさせない。だからまた来ようと思う。ライヴの面白さを誰かに教えたくなり、誰かを連れて来たくなる。

aikoが書き、歌うラブソングは誰もが共感できる。彼女は写真をあまり撮らないという。日記を書いたりもしないという。感じたこと、目に映る風景、情景、その一瞬を切り取り、それを歌にしている。だから写真も、日記も必要ない。写真や日記よりもリアルで、時には現実的すぎて聴く人によっては痛みさえ伴うような、そんな、aikoが感じた切なさが純度100%で伝わってくる。だから、彼女の曲を聴いた人は、誰もが例え同じ経験をしたことがなくても、同じ風景を見たことがなくても、どこかで感じたような、体験したような気持ちになるのではないだろうか?色褪せないメロディと、どの世代からも支持される普遍的な詞。特に彼女が紡ぐ詞は、「唇」「頬」「瞳」「口」といった、自分と相手の体の部分を示す言葉が多い。だから、登場人物の顔や性格、表情を瞬間的に想像、映像化でき、詞の世界がより具体的になり、広がっていく。そしてより印象的なものとして、聴き手の心に残る。

圧倒的な"生産力"と、あなたへの私の想いを伝える「変わらない強さ」と

aikoは現在(9月25日現在)までにシングル32作、アルバム13作をリリースしている。全ての詞・曲を手がける、シンガー・ソングライターにとっての生命線でもあるその"生産力"の高さは、特筆すべきものがある。数多くのシングルヒット曲を作り出し『NHK紅白歌合戦』への出場も12回を数える。「花火」(99年)「カブトムシ」(99年)「ボーイフレンド」(00年)「アンドロメダ」(03年)「キラキラ」(05年)「シアワセ」(07年)「KissHug」(08年)「milk/嘆きのキス」(09年)「戻れない明日」(09年)「Loveletter/4月の雨」(13年)「あたしの向こう」(14年)etc……数多くの映画やドラマの主題歌、CMソングに起用され、キャリアのポイントポイントでヒット曲を送り出し、その存在感はより強くなっている。さらにシングル曲だけではなく、アルバム『時のシルエット』(12年)に収録されている「くちびる」(この曲で『NHK紅白歌合戦』にも出場)について、ジャズミュージシャン/プロデューサーの菊池成孔氏に「この曲を聴いた瞬間に身動きが取れなくなった」と言わしめるほど、クオリティの高い楽曲、アルバムを作り続けている。

aikoの作品全てに貫かれているのは"あなたへの私の想い"。愛おしくてしかたなくて、苦しくて、哀しくて、そしてせつない想い。ここは彼女がデビュー以来というより、シンガー・ソングライターを志した時から変わらない。そう、"変わらない強さ"がaikoの強さだ。様々なものが、時代の"気分"で流行り廃りを繰り返す中、常に多くのファンから支持されるためには、やはり"変わらない強さ"は不可欠。それはやがて"ブランド"となる。つまり、進化や成長を遂げつつも、変わらない想いを常に胸に抱き続けることが強さであり、だからこそ幅広い世代のファンから共感を得ることができるのだ。

その才能と引き出しの多さ、楽曲、ライヴを通して感じることができる“変わらない強さ”、そしてファンがどうすれば喜んでくれるのかを徹底的に追求する――それがaikoが女性シンガー・ソングライターシーンの先頭を走り続け、牽引している理由だ。

【ライヴPhoto/岡田 貴之(Takayuki Okada)】
【ライヴPhoto/岡田 貴之(Takayuki Okada)】

【INFORMATION】

aikoの新曲「合図」(発売未定)が、映画『先輩と彼女』(監督:池田千尋、10月17日(土)全国公開)の主題歌に決定。

『先輩と彼女』は、南波あつこ原作の同名コミックを実写化。主人公・都築りかを芳根京子が、りかが想いを寄せる先輩、美野原圭吾役を志尊淳がそれぞれ演じる。

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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