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10代、20代の若いファンを魅了するback numberの“魔法”の歌詞と人気の秘密とは?

田中久勝音楽&エンタメアナリスト

発売から4年経っても歌詞検索ランキングで常に上位、2ndシングル「花束」がロングセールスに

前々回ここで書いた、「売上げだけでは見えてこない、時代の”気分”を捉えた歌詞検索ランキングが面白い」(http://bylines.news.yahoo.co.jp/tanakahisakatsu/20151014-00050431/)という記事の中でも取り上げた、back numberというアーティストを今回はクローズアップしたい。10代、20代を中心にファンを増やし続けていて、ライヴの動員も右肩上がりで、来年1月からは26公演のホールツアーと9公演のアリーナツアーを行うことが発表された。彼らの人気の秘密はどこにあるのだろうか?――曲と詞がいい。最もシンプルかつ最高の評価をしているファンが多い。特にその歌詞の素晴らしさに魅了されているファンが多い。彼らの歌詞がなぜそこまで若い人たちの心をつかむことができるのか、そこを探ってみたい。

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back numberはボーカル・ギター、作詞・作曲も手掛ける清水依与吏(写真中)を中心に群馬県で2004年に結成。幾度かのメンバーチェンジを経て2007年に清水、ベース・コーラス小島和也(同左)、ドラム栗原寿(同右)の現在のメンバーになり、2011年にメジャーデビューを果たした。その年の6月にリリースした2ndシングル「花束」が全国のFM局のパワープレイを50局以上獲得、さらに番組のエンディングテーマ等にも起用されるなどスマッシュヒット。オリコンシングルランキングでも18位となり、その後ロングセールスになった。

その要因はもちろん曲の良さもあるが、ずばり歌詞だ。歌詞検索サイト大手「歌ネット」の“歴代人気曲ランキング”では、表示回数が322万回を超え、3位にランクインしている。ちなみに彼らの楽曲では、「高嶺の花子さん」が8位、「わたがし」が24位、「青い春」が26位、「恋」が41位と、TOP50位内に7曲ランクインしている。1位はGReeeeN「キセキ」の約384万回、2位はSEKAI NO OWARI「RPG」の約335万回となっている。

「花束」は今、結婚式の定番ソングになっていて、そのため頻繁に歌詞が検索される。

僕は何回だって何十回だって

君と抱き合って手を繋いでキスをして

思い出すたびにニヤけてしまうような思い出を君と作るのさ

さらに以前にも書いたが、その歌詞をイラスト化した「歌詞画」や、歌詞の内容に合わせてテイストやデコレーションを作ったプリクラ「歌詞プリ」、さらにカップルがLINEで歌詞を送り、反応を楽しむ「歌詞LINE」を行い、そのやりとりをTwitterに投稿するという遊びの際に使用される機会が多いのも、この曲が歌詞検索サイトで強い秘密だ。つまりback numberの“いい詞”がどんどん拡がっていき、それまで彼らのことを知らなかった人達が彼らの楽曲に触れ、back numberというバンド自体に興味が向いてきている状況だ。

そして2014年は、フェスへの出演やテレビでの露出が多くなり、知名度が急激に上昇し、若者たちから圧倒的な支持を集めるようになった。ちなみに「歌ネット」の2014年の年間ランキングのアーティスト別では、1位の嵐(約816万アクセス)に次いで2位(約800万アクセス)にランクインしている。楽曲別では「花束」が年間3位、「高嶺の花子さん」が6位、「fish」が15位、「わたがし」23位、「恋」も27位と、2014年は年間ランキングTOP50位内に4作品も送り込んでいる。

そして今年、2015年は1月に注目の女優・広瀬すずが出演し、話題を集めたCM「JR SKI SKI」のCMソングとして、10か月ぶりのニューシングル「ヒロイン」が起用され、大量オンエアもあって、さらに勢いを増した感がある。

日本を代表するプロデューサ―陣からも注目を集める

「ヒロイン」はプロデューサーに小林武史氏を迎えて作り上げた作品で、イントロから売れ線感満載で、曲にこれまでにはない“彩り”を与えている。だが、清水が書く詞とメロディは決してそのスタンスを変えることなく、いつものback numberだ。彼らの作品が持つ“センチメンタル”な部分をより強調するアレンジになっている。“雪”という言葉が何度も出てくるが、<思えばどんな映画を観たって どんな小説や音楽だって そのヒロインに重ねてしまうのは君だよ>というback numberならではの、必殺のフレーズが心に響く。稀代のヒットメーカーと上昇一途のバンドのコラボ作品は大きな注目を集めた。

さらに、 5月に発売された「SISTER」は、大塚製薬「ポカリスエットイオンウォーター」CMソングに起用され、こちらもプロデューサーには、YUKIやエレファントカシマシ等を手掛けるヒットメーカー・蔦谷好位置氏を迎え、スマッシュヒットした。

ちなみに前出の「花束」は、aikoやいきものがかりのサウンドプロデューサー・島田昌典氏のアレンジだ。亀田誠治氏ともタッグを組んでおり、日本を代表するプロデューサー陣も注目しているのがback numberだ。

″普通”の視線の高さ=等身大=人間味あふれる歌詞がリアルな感情を伝える

そして歌詞である。ボーカル・ギター・清水依与吏が書く歌詞である。その詞は、世代、性別を問わず聴いた人の心に突き刺さり、メロディと相まって切なさを感じさせてくれる。ひと言で言うと「人間味溢れる歌詞」。恋愛の情景、心模様を上からでも下からでもなく、多くの人が感じているであろう視線、視点から描いているから、より“普通”なのだ。だから共感できる人の絶対数が多い。例えば好きな人が出来ても、相手の気持ちを確かめることもできず、確かめるすべさえわからない、どうしようないもどかしさなどは、誰もが一度は感じることだろう。当然男性の目線なので男性からの共感が多いとは思うが、女性もやはり恋愛におけるもどかしさというものは、男性と同じぐらい感じているのだろうし、男性が女性に対してこんな風に思っているんだ、ここまで想ってくれているんだ、ということを改めて感じることができるのが、back numberの言葉であり、歌なのだ。“等身大”というとなんだか収まりのいい、よく使われる、困った時にはめこむ言葉という感がなくもないが、等身大というのはその人の年齢や経験値が剥き出しになって、よりその人らしい、人間らしさを感じるということ。酸いも甘いも多くの経験をしてきた清水だからこそ紡ぐことができる言葉達だ。

彼らの詞を“女々しい”という人もいる。“女々しい”感傷に浸っているという人もいる。

では“女々しい”とはどういう意味なのか?調べてみると「意気地がないこと、柔弱なこと、愚痴ることや弱気なこと」らしい。どちらかというとマイナスイメージとして捉えられている言葉ではあるが、反義語は雄々(おお)しい。女性としては腑に落ちない人もいると思う。女性に対して雄々しいという言葉はあまり使わない不思議さ。女々しいの語源は、女の「め」を重ねて形容詞化したようだが、弱々しく見えるからなのか、それとも、女性の激しい情念=しつこさ、が転じて未練がましいという解釈になったのか(←可能性は低いだろうが)……。

「ここまで思われたらちょっと嬉しいかも」という女性側の気持ち

そう考えると男性アーティストが書くラブソングは、哀しみや自分の弱さをさらけ出し、諦めきれない未練がましい内容が多いのもなんとなくうなずける。よく、終わった恋愛を例える時に“男は名前をつけて保存、女は上書き保存もしくは名前をつけて共有フォルダーに保存”というが、これも全く的外れではないと思う。

男性アーティストは、どこかロマンティックでファンタジーな世界を感じさせてくれる詞を書く人が多い。だからそういう世界に浸らせて欲しいという女性から支持されるのだろうし、その未練がましい内容にも「ここまで思われたらちょっと嬉しいかも」という女性側の気持ちがないわけではないと思う。だからback numberの歌詞は女性からの支持が高いし、男からしてみれば、リアルな気持ちを描いているということになる。清水が描くモテない男が主人公の私小説が、歌にすること、メロディと相まって音楽になることで、多くのリスナーとのコミュニケーションが成立しているということだ。カッコつけていない、リアルな気持ち、ピュアな想いを描いた歌詞に、男も女もグッとくる。

ヒット曲とは、アーティストの手を離れ一人歩きして、多くの人を感動させることができている曲のことをいう。そういう意味で「花束」はまさに大ヒット曲だし、彼らの作品はそうなっていくであろう作品が多い。現在フジテレビ系“月9”ドラマ『5→9~私に恋したお坊さん~」の主題歌としてすでにオンエアされている「クリスマスソング」(11月18日発売)も、クリスマスの定番ソングになりそうな名曲だ。

小林武史氏と再びタッグを組んだこのミディアムバラード、その歌詞は「歌ネット」で先行公開され、週間ランキングも2週連続1位を獲得し、早くも大きな注目を集めている。

back numberオフィシャルHP

http://backnumber.info/

◆歌ネット

http://www.uta-net.com/

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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