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汗と涙と”ブルエン”と--若いファンの心を打ち抜く、BLUE ENCOUNTの歌と言葉

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
1/17 Zepp Tokyo
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汗と涙、その”熱さ”を求め、ブルエンのライヴに殺到するファン

2,700人のファンが集結したZeppTokyo(1月17日)
2,700人のファンが集結したZeppTokyo(1月17日)

1月17日、Zepp Tokyoは冬という季節を忘れてしまうほど、バンドとファンとが作り出すものすごい熱気で、真夏のような暑さだった。そしてステージ上で、時折声を詰まらせながらファンへの感謝を語っているボーカルが「10月9日日本武道館が決まりました」と発表すると、大歓声が沸き起こり、同時に客席のあちこちからすすり泣く声が聞こえてきた。メンバーも泣いていた――。

BLUE ENCOUNTのライヴは、汗と涙にまみれ、情熱が迸る激情型ライヴ。そんな“熱さ”にファンは熱狂する。“熱さ”を求め若いファンがライヴに殺到する今注目のバンドだ。

田邊駿一(Vo, G)
田邊駿一(Vo, G)

熊本県出身のBLUE ENCOUNT、通称ブルエンは、田邊駿一(Vo, G)、江口雄也(G)、辻村勇太(B)、高村佳秀(Dr)の4人組で、2014年9月メジャーデビュー。そのエモーショナルな演奏と田邊の熱いメッセージとがデビュー前から評判を呼び、特にライヴの評価は高く、各フェスに引っ張りだこで、デビュー後は更に出演本数が増えていった。昨年末の冬フェス『COUNTDOWN JAPAN15/16』にも出演。同フェスでは12/30に出演後、ピンチヒッターではあったが31日のメインステージ(EARTH STAGE)のトリを務め、多くの観客を熱狂させた。そんな彼らが1月13日に3rdシングル「はじまり」をリリースした。前2作の疾走感溢れる作品とは違い、

江口雄也(G)
江口雄也(G)

強いバラードのこの作品は『第94回全国高校サッカー選手権大会』(日本テレビ系)の応援歌に起用され、高校サッカー関連の番組で繰り返しオンエアされ、記憶に新しい人も多いはずだ。試合後、負けた高校のロッカールームで泣きじゃくる選手に向け、監督も涙ながらにメッセージを贈る感動的なシーンで「はじまり」が流れ、視聴者の涙を誘った。

高校サッカー決勝戦、5万人で埋まった埼玉スタジアムのピッチで「はじまり」を歌い、感じた事

1月11日に行われた、東福岡高校と国学院久我山高校の決勝戦では、埼玉スタジアムに集まった5万人を超える観客の前で「はじまり」を披露した。その直後の興奮冷めやらぬ4人に話を聞くことができた。

辻村勇太(B)
辻村勇太(B)

――まずは5万人を超えるお客さんの前で歌った感想から聞かせて下さい

田邊 グレーゾーンどころかほぼブラックゾーンの人たちの前で歌って、どうなるかと思いましたが、歌っているうちに埼玉スタジアムがひとつになっていく感じが伝わってきました。大会の決勝戦を盛り上げようというみなさんのパワーがすごかったですし、高校サッカーの歴史を感じました。

高村佳秀(Dr)
高村佳秀(Dr)

高村 やっぱり最初は勝手に緊張していて、でも選手たちの方が緊張しているんだから、俺たちの方がきちんと伝えなきゃと思って臨んだら楽になりました。

江口 大会を通じて感じたのが、スタッフの方も含めてみんながこの大会を応援しているということです。僕らは「はじまり」という曲で選手を始め、色々な人を応援をしたいと思っていましたが、逆に僕たちがスタッフの方たちにすごく応援されて、楽な気持ちで演奏できて、改めてこの大会の素晴らしさと、歴史が作ってきた伝統の素晴らしさが身に染みてわかりました。

しかし「はじまり」の完成までの道のりは決して平たんではなかった。当初はこれぞ高校サッカーというような曲を作ろうと、20曲を超える候補曲を作ったものの、なかなかしっくりくるものができなかった。4人の恒例でもある制作のための合宿を敢行したが、なかなか進まず締め切りの日が近づくばかりだった。プレッシャーだった。気合が空回りしていた。ソングライティングを担当している田邊を始め、歴史ある大きな大会の応援歌という初めてのタイアップに全員がプレッシャーを感じていた。締め切りの時間は迫るばかりで曲選びに慎重になりすぎるあまり、「もう誰かに書いてもらって提供してもらおうか」という笑えない冗談まで飛び出したという。バンドの進化が試された時間だった。

「苦悩していた自分達の高校時代に、こんなメッセージをくれる曲があったら」--そう思い作り上げた

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田邊 頭を切り替えて、まず自分達の頭の中をタイムスリップさせて、高校時代に戻してみました。それまで書いていた20曲はどちらかいうと先輩の目線的な感じでした。メッセージじみた事をすごく言おうとして、いつも以上に押し付けがましい感じになっていたのを自分でも感じていたんです。だとしたら自分達が高校生の時はどんな思いで、どんな曲を聴いていたのかを思い出してみようということになりました。

辻村 みんな共通していたのは、いい思いより悔しい思いを体験していたことでした。だからさわやかな曲よりも「はじまり」のような曲の方がブルエンらしいかなと思いました。

田邊 僕らの部活はブルエンで、オーディションにも落ちまくり、高校時代ってそういうことがあるとこれで人生決まったみたいに思いがちなんです。一年経つごとに夢を見れなくなっていた時期でした。ネガティブになりすぎて、でもすがるものは本当は音楽しかなかったはずなのに、それにさえすがれなくなっていた時でした。そんな負けてばかりだった時期に、僕らの背中を押してくれる曲があればよかったのになって思ったんです。だから今回はそういう曲、あの頃の僕らが純粋に受け入れられる曲をと思い作り始め「はじまり」が出来上がりました。同じ選手としてグラウンドで泥だらけになって練習している仲間として書くべきだなと。そう思えた時にどんどん言葉が生まれてきました。

その言葉通り、高校時代一つの夢を共に追いかけ続ける同志、かけがえのない友人としての言葉が綴られている。決勝戦の舞台、ピッチに立てるのは11人だけ。ベンチにも入ることができずスタンドで応援している選手、またテレビの前で応援している人、悔しい思いをしている全ての人に向けて書いた。

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田邊 そういう人たちに向けてしっかり背中を押すことができる言葉を書かなければいけないと思いました。勝ち抜いて優勝したチームの選手たちも、この先必ず壁にぶちあたることがあると思うし、それを超えなければいけない時にこの曲を聴いて欲しいなと思いました。

これまでのブルエンの作品とはひと味違う、強いバラード。どちらかといえば恋愛をテーマにしたバラードが多かった。彼らは英語詞も多いが「はじまり」は英語を使わなかった。まっすぐわかりやすく気持ちを伝えたいという想いからだ。だから今回は全てがチャレンジだった。

田邊 挑戦だからこそ新鮮に立ちむかえました。1対1で選手と話してる感覚。さらに支えてくれたすべての人、一人ひとりを思い出して1対1で聴いて欲しい。卒業式のシーズンになって大切な友達に向けて歌って欲しいです。1方向でもいいし、色々な人たちと共有できる曲にもなったと、5万人の前で歌わせてもらってよりそう感じました。

「くさいことを言って何が悪いんだ」--今だからこそ必要な言葉を必要な時に言ってくれる存在が必要

今、言葉が求められてる。SNSで言葉に勇気づけられ、傷ついてしまう日常。言葉が心に与える影響の大きさは計り知れない。言葉を求めてライヴに足を運んでいる若いファンも多い。優しい言葉、グッとくる言葉、淋しい言葉、哀しい言葉、厳しい言葉……とにかく言葉が強いアーティストに引き寄せられるファンは多い。ブルエンもそうだ。言葉にこだわってきた。田邉は冒頭のシーン、全国ツアー『TOUR2015-2016「≒U」』のファイナル、ZeppTokyoライヴでも胸のうちを正直に吐露した。「このツアーが始まる前、わからなくなった時期があって。どうやれば自分たちの音楽をもっと届けることができるんだろうって……いや、違う、かっこつけてるな…どうやったら売れるか、考えてました」と、メジャーデビュー後も様々なことに悩み苦しんでいる事実を、何のてらいもなくファンに伝えた。そんな嘘がない言葉にファンは惹かれる。

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田邊 僕らの歌を、くさいとかきれいごと並べるなよっていう人もいると思うんですけど、そんなくさい事を言って何が悪いんだということなんですよ。今だからこそ必要な言葉を、必要な時に言ってくれる存在が、誰にでも必要だと思うんです。僕らが昔ダメダメだった時、そういう言葉に出会ってなかったので。それどころかいわゆるくさい言葉を忌み嫌っていました。英語で歌詞書いてたし、口を開けばわけわからない言葉を並べて、それが正しいと思っていましたから。あの時「お前らこの言葉を聞け!」とか言ってくれる人がいたら、もっと変わっていたかもしれないと今考えると思います。それを通ってきたからこそ今言えるんですよ。10年前の僕らの音楽には、今のような歌詞は一切ないです。「非現実的理想理論」なんていう曲があるぐらいですから(笑)。意味がわからないですよね(笑)。言葉の力を信じて行かないとダメだと思う。

その言葉を真っ直ぐ届けようと、「はじまり」は演奏からも熱いものを感じることができる。演奏が歌に寄り添ってはいるが、でも気持ちを盛り上げるような、“静かな炎”という表現が適切かどうかわからないが、バラードだがしっかり主張している演奏が印象的だ。

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高村 とにかく細かいところまで突き詰めて、レコーディングに臨みました。

辻村 テンポ的にもある意味ごまかしがきかないというか、勢いでやれない部分があるし、でもやっぱり守りすぎると伝えたいメッセージが弱くなって、でも感情のまま演奏すると、聴いていても熱くなれました。そこの塩梅がすごく難しかった。歌を歌っているのは田邊ですが、バンドの演奏でも熱いものを届けたいと、いい意味で戦えました。

田邊 4人がちゃんと出ている僕ららしいバラードができました。

バンドとしてこのタイミングでこの曲に出会ったこと、作れたことは貴重な経験になっている。日本のアマチュアスポーツの中でも、高校野球と並んで大きな注目を集める高校サッカーという大きな大会のテーマソング。そしてこれまでの自分達の作品のカテゴリーにはない“応援歌”であるバラードということ。そして5万にも観客の前で披露できたこと。様々な事を乗り越えたからこそ見える風景があるということを、4人は今噛みしめている。

「はじまり」を制作するにあたって田邊は候補曲を20以上作った。メロディと言葉、断片的なものからワンコーラス作ったものなどその形は様々だが、とにかくその生産力には驚かされる。生産力こそがアーティストの生命線になる。ということはブルエンは生命力溢れる強いバンドなのだ。次の4thシングル『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のオープニング曲になっている「Survivor」(3月9日発売)の原型になった曲は、実はその20曲の中にあった。ただ生産力が高いだけではなく、1曲1曲のクオリティの高さもうかがえる。

脅威の”生産力”が武器。常に新しい曲を作り続けた結果起こる”新曲渋滞”はバンドとしての強さの証

江口 曲がたまりまくって、新曲渋滞が起こってます(笑)。特にバラードはなかなか出すタイミングがなく、バラード渋滞を起してます(笑)。

高村 渋滞しすぎて、とくにバラードは足が早いんです(笑)

江口 その時は名曲中の名曲ができた!と思って取っておいて、いざ完成させようと思って聴いてみたら「あれ?こんなんだっけ?」ということがよくあります(笑)

田邊 先日それで5年間温めていた曲を捨てました(笑)

高村 生産力のおかげで、色々なところにチャレンジできる。そこが強みだと思っています。

――今すぐアルバムを作れと言われてもすぐできてしまう感じですか?

田邊 たぶん作れますけど、そんなんじゃ作りたくない!って思って、また新しい曲を作るんだと思います。

江口 それでまた新曲渋滞が激しくなるという…(笑)

田邊 僕が納得しないんです。過去曲でいいとか思いたくないんです。その時にカッコイイなと思った音楽を一回自分の中に取り込んで、また新しい曲を作りたいんです。でもその時の音楽の流行を取り込んだからといって、決して流行を追いかけるような曲は出てこないので、そこは全員安心しています(笑)。

――1stフルアルバム『≒』(ニアリーイコール)にはブルエンの様々な音楽性を感じることができます。

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田邊 お客さんが増えるきっかけになって、すごく良かったと思った半面、まだできる、やりたいことがあると感じました。ワンマンツアーを経て、更にこういう曲を出したいというのが出てきました。年末『COUNTDOWN JAPAN15/16』のメインステージで大トリを務めさせていただいて、すごく光栄でしたが、自分達の無力さを感じてしまったんです。お客さんは満杯で盛り上がってくれて感激したのですが、いつもはそこで感動して泣けてくるんですけど、泣けなくて。それはもっと盛り上げることができたと思ってしまい、悔しくて。盛り上がっている時にも「こういうときこんな曲があったらなぁ」とか「あのアーティストだったらここであのキラーチューン出すんだろうなぁ」とか、妙に冷静に考えている自分がいて、で、家に帰っていくらお酒飲んでも酔えなくて。気が付いたらお正月三が日はギターを弾きながら、横にICレコーダーを置いてずっと曲を作っていました。

彼らのこれまでは、決して順風満帆ではなかった。バンド結成からメジャーデビュまでの10年間はなかなか芽が出ず、苦悩した時代も長かった。バンド存続の危機もあった。しかし彼らは自分達を信じ、扉を自らこじ開けメジャーのフィールドに飛び出してきた。苦悩した時間は、来るべきその時に勢いをつけるための時間、助走だったと考え、それが結果的に骨太な作品を生み出すことにつながったと思えば、強さになっている。デビュー後は順調にファンを増やしライヴの規模も大きくなっている。3月からは全国32か所での対バンツアー、そして6月からは東名阪と地元・熊本を回るワンマンツアー『TOUR2016 THANKS〜チケットとっとってっていっとったのになんでとっとらんかったとっていっとっと。熊本ワンマンてや?そりゃよかばい!〜』も決定している。クライマックスはもちろん10月9日、目指していた場所・日本武道館のステージ。メンバーとファンの幸せな涙を見ることができそうだ。

インタビューの最後に田邊は「嘘じゃない曲を作り続けなければいけない。そういう意味では「はじまり」という純度100%ブルエンの曲を書けた事がなによりもよかった」と静かに語った。1月22日には『MUSIC STATION』(テレビ朝日系)への初出演も決定、この曲をお茶の間へ生で届ける。ブルエンの熱さがいよいよお茶の間にも伝わる時が来た。

PHOTO/浜野カズシ、川田洋司
PHOTO/浜野カズシ、川田洋司

BLUE ENCOUNTオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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