Yahoo!ニュース

気になる新人Swimy――圧巻の3ボーカルと独特の歌詞が作り出す、中毒性のあるファンタジーな世界

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
3/2にアニメ『銀魂°』EDテーマ「あっちむいて」でデビューしたSwimy

滋賀発、4人組3ボーカルバンドSwimy。3声が重なり放たれる心地いいグルーヴ

男性2人、女性2人の4人組バンド。特筆すべきは3ボーカル(男性1×女性2)という他にはないスタイル。圧倒的な声のパワーとコーラスの美しさを打ち出した新人バンドSwimy(スイミー)のメジャーデビュー曲「あっちむいて」は、人気テレビアニメ「銀魂°」(テレビ東京系)のエンディングテーマに起用されるという、新人としては幸先いいスタート、チャンスを手にし、彼らの音楽がいよいよお茶の間へ向け放たれた。

左からタイキロイド、みっけ、Takumi、平成のまお
左からタイキロイド、みっけ、Takumi、平成のまお

SwimyはT.M.RevolutionやUVERworldを輩出した滋賀県出身。メインボーカル、ギター&ソングライター、リーダーでもあるTakumiを中心に、平成のまお(ボーカル&ベース)、みっけ(ボーカル&ドラム)、タイキロイド(ギター&コーラス)の4人組で、京都のライヴハウス「京都MUSE」をホームグラウンドに、精力的にライヴを行っていた。その評判が徐々に広がり、結成から3年でメジャーデビューという、運と実力を持ち合わせたバンドだ。「元々、僕と平成のまおが同じ高校の軽音楽部でバンドを組んだのが始まりです。タイキロイドとはBUMP OF CHICKENとかのコピーバンドを一緒にやっていました」(Takumi)。そこに平成のまおと幼なじみのみっけが加わり、2013年に現メンバーになった。

「声にコンプレックスがあり、最初は歌おうと思ってなかった」(Takumi)

それ以前のバンドは他にボーカルがいて、Takumiと平成のまおは歌っていなかった。その時はまだ自分達の声のポテンシャルの高さに気付いていなかったのか、ハイトーンを誇るTakumiも歌うことはなかった。「自分の声がコンプレックスでした。ある日録音した自分の声を初めて聴いて「あれ、思ってた声と全然違う」と、悪い意味で衝撃を受け、それがトラウマになりコンプレックスに変わり、歌おうとは全く思っていませんでした。バンドを組んだ時もボーカルがいたので歌っていませんでしたが、そのボーカルが抜けてしまい、必要にかられ(平成のまおと)二人で歌うようになりました。でもそれが周りからの評判がよく、それから二人で分担して歌うようになり、今の原型ができました」(Takumi)。どのバンドもその成り立ちはそれぞれだが、Swimy誕生の秘密はバンドの危機がもたらした副産物だった。そんなところにもこのバンドの運とツキを感じる。

昨年3月にタワーレコードの新レーベル「FIRE STARTER」から一部店舗限定でリリースした、ワンコイン(500円)CD 「マスコットになりたくて」が評判となり、6月には同レーベルから全国流通盤の1stミニアルバム『ラブルと宇宙』をリリースし、これも好調に売上げ、ライヴの動員も増えていった。

「あっちむいて」は、3声が重なりあった時に生まれるリズムと、言葉が生み出すリズムが重なり、これぞSwimyという曲

デビューシングル「あっちむいて」では初めてテーマを決め、曲を作ったという。「それまでは何かをテーマに曲を作ったことがなかったので、そういう事にチャンレジしたらまた違う一面、新しい部分が出て来るんじゃないということで、“もし『銀魂』」のタイアップを狙うとしたら”というお題で作り始めました。もちろん選んでもらえるかどうかはわからず作っていました」(Takumi)。ここでも彼らは幸運を引き寄せ、見事『銀魂°』のエンディングテーマに選ばれた。サビ頭、「あっちむいて こっちむいて 時代を叫べ」という歌詞がいきなり耳に飛び込んできて、頭の中に残る。サビ頭をアカペラにすることで、トリプルボーカルの威力、美しさを見せつけ、いきなり聴き手の心をつかむことに成功している。そして親しみあるメロディに乗って、言葉の語呂がリズムを作り出し、カラフルさと疾走感を生みしている。どこまでもポップだ。そしてポップさの中に強烈なギターリフが響き渡り、奥行きを作り出している。「ギターハゼンタイノトゲニナルブブンダトオモウノデ、ソコハイシキシテヤッテイマス」(タイキロイド)。

言葉が生み出すリズムと、3声が重なりあった時に生まれるリズムとが、いい塩梅で融合し、Swimy独特のグルーヴを作り出している。

カッコ良さの先にあるポップさ

そのグルーヴが底抜けのポップさを生み出しているともいえるが、ソングライターは実はそれは本意ではないようだ。「僕自身あまりポップということを気にしたことがないんです。むしろ滲み出ちゃう感じが凄く嫌というか、本当はカッコよくありたいのにポップになってしまうというか…。意識してポップなものを作るというよりは、やりたい事をやっていたら勝手にポップなものができちゃう感じです」(Takumi)。カッコよさの先にあるポップさ、それがSwimy流のポップスということだ。

曲は、声を中心に構成して、空いた隙間に楽器を入れていく

曲作りの肝は、まず声を中心にした全体の構成とバランスだという。「曲作りもまず声で何を入れられるのかを考えることが多くて、Aメロの後は何を弾くかよりも、ここに声入れられるかなとか、優先順位がまず声なんです」(Takumi)。「声を中心に構成していって、その空いた隙間に楽器を入れていく感じです」(平成のまお)。この声に対するきめ細かい作り込みとアレンジが、独特の世界観を作り出す大きなポイントになっている。

目指しているのは聴いてくれた人が、少し現実離れできるような音楽。ファンタジーを感じて欲しい

歌に重きを置いているということは、歌詞もまた独特だ。語呂を楽しむ言葉遊びを感じさせてくれるもの、そしてファンタジーを感じさせてくれ、まるで絵本のような世界観を作り出す物語性のある詞、さらには真っすぐな言葉を紡いだもの、変幻自在に言葉を操るのもTakumiの、Swimyの武器だ。「僕らの目指しているものは、聴いてくれた人が少し現実離れできるような音楽なんです。悩んだり、しんどいなという時に、僕は映画を観て現実逃避することによって、ファンタジーな世界に浸ることによって救われてきた部分があります。自分達もそういう存在であって欲しいなと思っていて、ファンタジーを感じる、現実離れした物語を歌う部分と、本当に無心で深く考えなくても、音の気持ちよさ、言葉のリズムの気持ちよさで、スッと耳に入る言葉を選んでいる曲と、2つのテーマで曲を書くようにしています」(Takumi)。

とことんリアルで、共感できる歌詞に背中を押してもらえると感じる人がいるように、一瞬でも現実逃避させてくれ、それが活力になる人にとっては、結果的にそういう歌詞に背中を押してもらっていることになる。現実から少しだけでも離れたいという想いは、詞を手がけるTakumiが育ってきた環境や、その中で感じていたことがベースになっている。彼は母子家庭で育ち、母親が一日中働いていたこともあり、夜一人で過ごすことが多かったという。そんな環境の中で「とにかく自分が一人でいるという状況を、忘れさえてくれるようなものを求めていました。テレビはつけっぱなしで、お笑いかバラエティ番組。「あなた一人なんでしょ、わかるよ」という助け方よりも「じゃあちょっとどこか違うところに行ってみようよ」という一瞬でもいいから今を忘れようよというメッセージを、曲の中に込めたいと思っています」(Takumi)。「Takumiの人生、生き方だからこそ出る言葉や言い回し、選ぶ言葉ひとつとっても独特の世界観がある。どこか絵本を読んでいる気分になったり、グッときたり…」(平成のまお)、「フカイカシカラ、コトバアソビミタイナワカリヤスイカシマデ、フリハバガヒロイ」(タイキロイド)、とメンバーからも一目置かれるその歌詞の世界。3人の声を通して伝わってくる言葉の数々は、ライヴでよりその威力を発揮する。「歌詞の世界観を崩さないように演奏をしています」(みっけ)とリズム隊が言うように、独特の歌詞の世界観と言葉から生み出されるリズムが、ライヴでカッコよさとなって、ポップさを生みだす要因のひとつになっている。

どうしても表題曲「あっちむいて」に注目が集まるが、カップリングの2曲「etc」(エトセトラ)と「relAte」(リレイト)も、それぞれ約2分40秒と約1分40秒のコンパクトな曲ではあるが、彼らの世界がぎゅっと凝縮されていて、聴き逃してはいけない。メイン曲、タイアップになるような曲はイイに決まっている。そういう作品は、実はカップリングにこそ、アーティスト、特に新人アーティストであれば余計にその力を計るべきものが隠されている。「そこを意識して作りました」(みっけ)、「「あっちむいて」は色々な意味であっちこっちで疾走してくれると思っていて、だからこそカップリングはメイン曲に負けない曲を、と思いました。僕たちのデビューシングルですのでまずこの3曲でSwimyというバンドを判断されると思いますので、「あっちむいて」に絶対負けない2曲を、僕らの個性として伝えられるような曲にしようと思って作りました」(Takumi)。

年末は『CDJ』の音楽ファンに向け、4日間連続でストリートライヴ。今年『CDJ』への出演を誓う

画像

彼らは昨年末、幕張で行われたフェス『COUNTDOWN JAPAN15/16』(CDJ)に参戦したお客さん達にアピールしようと、会場の最寄駅、海浜幕張駅前でストリートライヴを4日連続で行った。今年はCDJに出るとそこで宣言し、来るべきメジャーデビューの年に向け自ら気合を入れた。もちろん彼らの声と音楽に、連日人だかりができ、しっかり自分達の音楽をアピールできた。12月31日にはファンとともにコンビニで買った年越しそばを食べ、カウントダウンを楽しんだという。彼らのファンとの近さは、何もこの日の始まったことではない。「ライヴ後、ファンの方が出待ちするというのはよく聞くと思いますが、僕らの場合はいつも僕らがファンの方を出待ちしています(笑)。しゃべりすぎて、スタッフの人によく怒られます。ファンとの距離が近すぎるのが僕らなんです」とTakumiは屈託なく語るが、その人懐っこさは、メロディだけでなくファンへの接し方に関してもそうらしい。とことんブレていないバンドなのだ。楽しみなバンドがデビューした。

デビューシングル「あっちこっち」(3月2日)
デビューシングル「あっちこっち」(3月2日)

<Profile>

2011年に滋賀県で結成され、2013年に現メンバー、Takumi(Vo, G)、平成のまお(Vo, B)、みっけ(Vo, Dr)、タイキロイド(G, Cho)に。男女混声のトリプルボーカルという珍しいスタイルを武器に、親しみのあるメロディとキャッチーかつ奥行きのあるサウンド、3声が作り出す美しいグルーヴで注目を集め、10~20代を中心にファンが急増中。大人気テレビアニメ『銀魂°』(テレビ東京系)のエンディングテーマとして書き下ろしたシングル「あっちむいて」で、2016年3月2日アリオラジャパンからメジャーデビュー。

Swimyオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事