【インタビュー】いきものがかりの10年物語<後編> 3人と、3人の音楽が愛され続ける理由

'11年7/23,24に初のスタジアムライヴを横浜スタジアムで行い6万人を動員

デビュー11年目に突入したいきものがかり(水野良樹,吉岡聖恵,山下穂尊)
デビュー11年目に突入したいきものがかり(水野良樹,吉岡聖恵,山下穂尊)

【インタビュー】いきものがかりの10年物語<前編> 「一発屋と思われたくなかった」では1996年のデビューからの10年間を、1年ずつ振り返ってもらい、思い出話に花が咲き裏話も出てきて、3人とも「あっという間だけど色々あった10年だった」と語っていた。<後編>では『超いきものばかり~てんねん記念メンバーズBESTセレクション~』に収録されている新曲の制作秘話、そして「気になっていた曲」をリアレンジ、新録した理由などを中心にー話を聞いた。

ライヴで育っていった「コイスルオトメ」をライヴアレンジで新録し「~-激情編-」に

――ディスク1に入っている「コイスルオトメ-激情編-」を新録し直そうと思ったのは、なにかきっかけがあったんですか?

水野 個人的にすごく思い入れのある曲です。ライヴで育っていった曲だったので、ライヴでアレンジも全然変わってしまったし、でもいまだにライヴでやり続けていて、ファンのみなさんも喜んでくださっている曲だから、成長した形をまた違うバージョンとして聴いていただくのもいいかなと思って、提案しました。それでツアーが終わったすぐ後にツアーメンバーに集まってもらって、ライヴと同じアレンジでやりました。

――ライヴで育てられて、思わぬ方向に変化していってさらに良くなる曲ってありますよね。

水野 そうなんです。吉岡のフェイクも、ライヴで出来上がったものがベーシックとしてあります。

吉岡 そうですね。その曲をライヴであまり変えて歌おうと思わないタイプで、ファンは原曲に近い感じのものを聴きたいのでは?と思っていて。でも「コイスルオトメ」はすごくアレンジも変わっていって、ライヴでやる回数も多いので、お客さんの前で変わっていった曲なんです。

――激情編というのはどういう意味が?

吉岡 バンドもボーカルも熱が入ってるんじゃないかなっていう感じで、このタイトルにもなりました。

――ディスク1の中に入っているのが新鮮でしたね。全曲にタイアップが付いているのが改めてすごいなと思いました。

水野 ただただチームのみなさんに感謝です。

山下作品の新曲「いこう」「翼」「Sweet!Sweet!Music!」は、JRA、銀行、ドラマのタイアップ

――JRAのCMソングになっている「いこう」は山下さん作詞・作曲で、すごく疾走感があっていいですね。

山下 JRAさんのテーマソングは去年も「マイステージ」でやらせていただいて、壮大なバラードだったので、今回は正反対のイメージというか。競馬がテーマなので疾走感があるのは合うなと思ました。内容的には一応競馬をモチーフにはしているんですけど、あえてあまりそれを匂わせないようにしようと。追いかけたり抜かれたり、勝ったり負けたりみたいなことを、日常生活の中の何かと重ねて書けたらいいなと思いました。

――JRAのCMってドラマティックで見応えがあって、あの映像と一緒に曲が流れてくると、やっぱりインパクトありますよね。

山下 そう意味で去年に比べると、良い意味で軽く観る事ができるというか、前回は感動させるぞ!って感じでしたが、今回はライトでポップなイメージになりましたね。

――続いてディスク2の新曲「翼」は三井住友銀行のCMソングになっています。

山下 自分の中ではすごく壮大なバラードの予定だったんですけど、アレンジが上がってきて、それこそ疾走感じゃないですけど、テンポが見える曲になったなと、重くなりすぎないで良かったなと思います。2011年にこの枠で桑田(佳祐)さんの「月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)」が使われていて、それがすごく良くて、あのイメージが強く残っていましたので、逆にそこに寄りすぎないように気を付けました。

――同じくディスク2の「Sweet!Sweet!Music!」は中谷美紀さんと藤木直人さん出演のドラマ『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』(TBS系)の主題歌になっています。

山下 30代の独身女性が主人公で、結婚するしないの話でそれをなんとなく笑い飛ばせればいいかなと思い、作りました。ドラマがシニカルでありファニーでありという感じなので、変に暗くなったらドラマの意味がなくなる感じがして。すごくはっちゃけた曲で、言葉遊びを楽しん欲しいです。

――この言葉数、歌うのが難しそうですね(笑)

吉岡 そうなんですけど、ノッてきちゃうといけるっていう感じですよね。楽しく気楽に歌える感じです。逆に真剣に歌っちゃうとまずい曲というか。マジメに言っても仕方ない雰囲気なので、とにかく楽しい感じでいきました。本当におバカになれる感じだと思います。

コアファンから人気が高かったインディーズ時代の名曲「真夏のエレジー」を、念願叶って収録

――ディスク3のリーダー作の「真夏のエレジー」はインディーズ時代からあった曲ですよね。

水野 そうなんです。でも出すタイミングがずっとなくて……。コアなファンの方は「いつ出すんですか?」ってすごく言ってくれていまして。ベスト盤って、やっぱり今までリリースした曲ばかりになってしまって、コアなファンの方が喜ぶポイントが少ないアイテムだったりするので、そういう部分で喜んでもらうために「真夏のエレジー」を入れようと思いました。それと、やっぱり成仏させたかったなというか(笑)、ちゃんと形にしてリリースしたかったんです。でもすごく本間(昭光)さんがその意図をくんでくれたアレンジというか、時代背景を感じるものにしてくださいました。

――”エレジー感”たっぷりですよね。

『超いきものばかり~てんねん記念メンバーズBESTセレクション~』(3/15)
『超いきものばかり~てんねん記念メンバーズBESTセレクション~』(3/15)

水野 吉岡の年齢も歌の世界観に無理のない年齢になってきたというか。この曲を作ったときは確か20歳ぐらいだった気がします。

吉岡 19か20歳だったので、当時はすごく生々しい、エロい感じに捉えていましたが、今は物語を歌うような感じで、客観的になれて表現できました。伸びやかな感じで歌ったり、ちょっと大人っぽさを入れ込んでみました。

――この曲からは、言葉一文字一文字から発せられる色気みたいものを感じますよね。

吉岡 そうですね、当時もなまめかしいイメージがあったので。そういうところは出したい、危うい感じは出したいなというのはあって。声色とかもなるべく色が出るように歌いました。綺麗に歌うのではなく、意味ありげに歌おうと思いました。

「「ぼくらのゆめ」は、自分たちのことを振り返る、メンバーに対して手紙を書くイメージで作った曲」(水野)

――そして「ぼくらのゆめ」は「爽健美茶」のCMソングで、リーダー作の曲です。

水野 このベストアルバムの内容がある程度決まってから、最後にレコーディングした曲です。もう全体像が見えていたので、1曲ぐらい10周年だし自分たちを振り返るような曲を書きたいなと思って。そういう意味でメンバーに対する手紙みたいなイメージで書きました。そういうことをこの10年間一回もやったことなかったので……。最初3人でスタートして、スタッフもどんどん増えて、ファンの方も聞いてくださる方も増えて幸せですねって、お互い言い合っているだけの曲なんですけどね。でもそういう曲が1曲入るだけで、いきものがかりのストーリーを楽しんでもらうという意味ではいいかなと思いました。手紙を送る相手に歌ってもらうというのも変な感じなんですが、こういう曲が1曲ぐらいあってもいいかなって。でも明るい感じの曲になったのでそこは良かったです。本当は「夢題~遠くへ~」をアルバムの最後にするって最初から決めていたのですが、「夢題」で終わってそこで一つの区切りなんですけど、でもまたさらに進んでいくという、夜が明けるみたいなイメージでいうと「ぼくらのゆめ」は、軽やかで良かったと思います。

――最後にボーナスディスクでのそれぞれの「泣きの一曲」についてですが、山下さんの曲「ハジマリノウタ~遠い空澄んで~」は、4枚目のアルバム『ハジマリノウタ』のオープニングナンバーでしたよね。

山下 オリジナルアルバムのタイトルソングというのは、実は唯一これだけというのと、当時、全国ツアーとアリーナでライヴをやったときに、全国で歌ってきた歌で思い入れがあるので選びました。

――吉岡さん作の「白いダイアリー」は5thアルバム『NEWTRAL』に収録されていますね。

吉岡 そうですね、自分で作った曲というのはどうしても自分ぽさというか、自分のキャラに近いような言葉が出てくることが多いなかで、この曲は物語を作っていきものがかりのボーカルに歌わせるという気持ちでした。ディレクターと一緒に物語を作っていって、これが大変で、泣きそうになりながらやっていました。それで、あまりにも疲れ果ててスタジオのブースから出てきたら、ディレクターが「今日は特別にうなぎ食うか」って言ってくれ、うなぎを食べさせてもらったのを覚えています(笑)。

インディーズ時代から存在し、歌詞の一部を変えて発売したシングル「ノスタルジア」を、元の歌詞で歌い直す

――食べ物の思い出は忘れませんよね。西川進さんのどこかファンタジックなアレンジがかっこいいです。そして最後は「ノスタルジア-Original Lyrics ver-」です。

水野 実はインディーズのバージョンとメジャーのバージョンで、ワンフレーズだけ歌詞を変えたんです。僕は納得して変えたんですね。でもコアなファンの方だったり、インディーズ時代から応援してくれている友人たちに「なぜあそこを?」と言われ続けました…。

――これも成仏させないと、という感じですか。

水野 こんなタイミングじゃないと出来ないので、メジャーの作品を否定するわけではなく、やってみたらどうですかねって提案したら結構みんなもノッてくれて、元の歌詞で歌い直してもらいました。

ポップスの名手・水野、山下と、稀代のポップスシンガー吉岡、日本を代表するアレンジャー陣が作り上げる、聴き手に寄り添ういきものがかりの歌

デビュー日に、地元「ビナウォーク」でデビュー曲「SAKURA」を披露
デビュー日に、地元「ビナウォーク」でデビュー曲「SAKURA」を披露

デビュー日でもある3月15日、3人はいきものがかかりのスタートの地でもある、神奈川県・海老名市にあるショッピングモール「ビナウォーク」のステージに立っていた。春まだ浅き地元・海老名は、桜の開花にはまだほど遠い寒さで、でも平日にもかかわらず駆けつけた7000人を超えるファンにデビュー曲「SAKURA」を、アコースティックバージョンで披露した。インディーズ時代から、メジャーデビュー2年後までライヴやイベントを行っていた場所でデビュー曲を歌い、11年目の第一歩目を踏み出したわけだ。

いきものがかりは海老名や厚木でストリートライヴを行っていた。自分達に興味がない人たちの足を止め、聴かせる。ストリートで、道行く人の心を掴むにはやはり一瞬で聴き手の耳と心を捉えるメロディと言葉、そして“届ける”力を持った声が必要だ。だから彼らの曲にはサビ始まりのものが多い。ストリートからメジャーシーンに場所を移してもやること、気持ちは変わらない。

いきものがかりの強さは3人が曲を書けるということ。特に水野、山下はポップスの名手として、狭いところに向けてではなく、幅広い層のあらゆる人達に向けた、大衆の琴線に触れる愛される曲=ポップス、を書くことができる。しかも量産できるという強みがある。そしてそんな曲達に、J-POPシーンを担う、日本を代表するそうそうたるアレンジャー陣が、いきものがかりの色と雰囲気と温度をまとわせ、仕上げる。

画像

それを吉岡聖恵という稀代のポップスシンガーが歌うのだから、多くの人の心の深いところに届かないはずがない。吉岡の愛嬌のあるルックスは誰からも愛され、元気だけどどこか郷愁を感じさせてくれる声は、気持ちよさと共に安心感を与えてくれ、まっすぐだ。決して高度なテクニックを駆使して、というタイプではない。奇をてらうことなく、聴き手の心に真っ直ぐ届けようとするその真摯な“想い”は、17年前から変わらないのだろう。いきものがかりのライヴで、スクリーンに吉岡が歌う表情が映し出されると、その目まぐるしく変わる表情を見ているだけで、感動してしまう。一生懸命伝えようとする気持ちがマイクだけではなく、スクリーンを通して吉岡の表情からも伝わってくるのだ。平井堅が自他ともに認める“歌バカ”なら、リスペクトの意味を込めて吉岡聖恵を“女性版歌バカ”と呼びたい。聴き手に寄り添うような、聴き手が歌詞の行間に身を委ねて、その想いや願いを込められるような、そんな歌をいきものがかりは歌い続けてきた。これまでもそしてこれからもその姿勢はブレない。だから愛され続ける。

画像

<Profile>

1999年結成。吉岡聖恵(Vo)、水野良樹(G)、山下穂尊(G, Har)の3人組ユニットで、出身地である神奈川県厚木市、海老名市を中心にストリートライヴを中心に活動していた。2003年にインディーズから、アルバム『誠に僭越ながらファーストアルバムを拵えました…』をリリース。2006年メジャーシングル「SAKURA」でデビューし、スマッシュヒット。”泣き笑いせつなポップ3人組”のキャッチフレーズの通り、どこかせつなさを感じさせてくれるポップスで、幅広い層から支持を得、ヒット曲を連発。2010年NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の主題歌「ありがとう」が大ヒット。国民的グループとしてファン層を一気に広げ、同年にリリースされた初のベストアルバム『いきものばかり~メンバーズBESTセレクション~』は150万枚を超える大ヒットを記録。さらに2012年には『NHKロンドンオリンピック放送』テーマソング「風が吹いている」が大ヒット。以降もコンスタントにCDのリリース、全国ツアーを続けている。『NHK紅白歌合戦』には8年連続出場中。

いきものがかりオフィシャルWEBサイト