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”日本一元気でイキのいいおっさんエンタメ集団”THE CONVOYに、老若男女が魅了され続けるワケ

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
今年30周年を迎えるTHE CONVOYの最新作『1960』
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「走り出したらとまらない」6人は、今年30周年。平均年齢52歳の日本一カッコイイおっさんエンタメ集団

“青春とは心の若さである。年を重ねただけでは人は老いない。理想を失うとき初めて老いる”――アメリカの詩人・サミュエル・ウルマンの「青春の詩」の一節だ。この詩を久々に思い出したのは、先日15年ぶりくらいに『THE CONVOY SHOW(コンボイショウ)』 を観たからだ。『THE CONVOY SHOW』は、THE CONVOYが手がける、芝居、歌、ダンス、タップ、楽器演奏etc…様々なパフォーマンスが繰り広げられる、“全員が主役で脇役のノンストップ・エンタテインメントショウだ。その主宰で、作・構成・演出を手がけるのがリーダーの今村ねずみ、57歳。メンバーは瀬下尚人、石坂 勇、舘形比呂一、黒須洋壬、トクナガクニハルの6人。全員が50代、1986年に「走り出したらとまらない」を合言葉に結成され、今年で結成30周年を迎えた。1999年頃から頭角を現し始め、年間150本近いステージをこなし日本武道館2daysもチケットが即完するなど、年間10万人を超える動員を記録する年もあった。チケットが入手困難になるなど一世を風靡。新作を次々と発表し、時代を駆け抜けてきた。30年経った今も、2時間ノンストップ、パワフルでエネルギッシュな舞台を観せ、感動を与えてくれる。

主宰・今村ねずみが語るTHE CONVOYの劇場公演が久々になった理由

4月7日から東京・天王洲銀河劇場で開幕した『1960』は、6年ぶりの劇場公演となった昨年11月に行われたものの再演だ。毎年行っていた劇場公演が2010年から行われなくなり、ファンは年末にホテルで行われる公演だけでしか、彼らの姿を観ることができなくなっていた。人気グループに何が起こったのだろうか。公演直後の今村ねずみにタップリと語ってもらった。

今村ねずみ
今村ねずみ

「集団に疲れちゃったなぁって思っていたのかもしれません(笑)。僕もメンバーもTHE CONVOYよりも他のものへのウェイトが大きくなって、そこで自分を表現したいと思っていたのだと思います。これだけ長くやっていると、お互い安心、安定を感じて、戻る場所があるからどこかにジャンプしてみたいとか、飛び込んでいきたいという気持ちがあったのだと思います」と今村が言うように、THE CONVOYのメンバーは、それぞれが役者、ダンサー、振付師、タップダンサーとして活躍している個性派集団で、2010年からはその活動に重きを置いていた。そして2011年の東日本大震災である。「震災直後に公演をやったときに、こういう時期にこういう仕事をやっている自分って何?と思いました。悩み、考えてそれでもやり続けるんだと答えを出したものの、それでも何ができるんだろう、こういう時にやる自分達の意味合いは?と、自分の中で折り合いが付かない瞬間があったんです。その時グループの中でも色々あったし、そういうことも重なって、来年(2012年)は新作を書かないと宣言しました」と、多くの人がそうであったように、今村にも震災後、一旦立ち止まって人生を考える、THE CONVOYというもの、自分という存在に向き合う瞬間が訪れた。しかし「このままやめるにしても続けるにしても、一番身近な存在であるメンバーに、まず意思表示することが自分に対する答えだと思いました」(今村)と、舞台を続ける事を決め、宣言し、心の葛藤をそのまま作品に昇華させた。「ブランクが空いていたので自信もなかったし、でもそういう自分と向き合って作品を書けばいいんだと思ったんです。それでできあがったのが『1960』です」。

「子供の頃観ていた『シャボン玉ホリデー』のようなバラエティショウがやりたかった」――『THE CONVOY SHOW』の原点

今村演じるチュー年男
今村演じるチュー年男

この集団の主宰として、今村が決断、決定しなければ前へは進まない。「結果的にはそうですが、一回僕抜きでやってみれば?ってメンバーに言ったこともありました。でもそれが“THE CONVOY SHOW”なのかどうかは別です。それはこのスタイルを作ったのは自分ですし、自分発信から始まったものなので。最初はやりたいことすらわからなくて、ただ「やりたい」という想いだけだった」。今村の創作の原点、『THE CONVOY SHOW』の原点になっているのは、子供の頃テレビで観ていた「シャボン玉ホリデー」のようなバラエティショウだ。「芝居あり、歌あり、コントありの総合エンタテイメント、なんでもありのショウを始めました。でも、歌や踊りのショウに持ち込むまでには、やはりドラマが必要だと思い、そこから『THE CONVOY SHOW』が出来上がりました」。当時他に『THE CONVOY SHOW』のようなスタイルの劇団やグループはなかった。「あるようでなかったんです。やっている内容ひとつひとつは、他のみなさんがやっているものが入っていますが、それを一本通してやる、全員が主役で脇役、幕が開いて全員でゴールを目指すというスタイルのパフォーマンスは、観た事がなかったです」(今村)。その濃密な内容は口コミでどんどん広がっていき、大きな注目を集めるようになり、あの北野武をして「死ぬまでに一度みるべき」と言わせしめ、劇場にお客さんが押し寄せるようになった。「その先にお客さんがいるというのは大前提ですけど、自分達ができることをとにかくやろうという感覚なんです」。

30年間ブレない全力のサービス精神、変わらない”熱量”

運転手(石坂勇)とチュー年男(今村)』
運転手(石坂勇)とチュー年男(今村)』

’90年代になると年間150本ものステージを行い、2000年代に入ると年間12万人を超える動員を記録したり、’01年には日本武道館2days公演、とにかく多忙を極めていた。「そこには確かにいたと思うけど、全然自覚がなくて、今思い出しても夢のような話。ただただ時間に追われていた印象で、目の前のことに追いつくのが精一杯だった気がします。気張ってたし、突っ張ってたし、でもそこを通ってきたことは今となっては力になっていて、幸せな時間だったと思います」と当時の怒涛の日々を懐かしみつつも、今もやっていることは全く変わっていない。自分達ができることは全てやるという究極のサービス精神は、30年間全くブレていない。最新作『1960』もそうだ。芝居、ダンス、タップ、歌、これぞ『THE CONVOY SHOW』という“熱量”だ。

今村の自分探し、再び劇場に戻ると決意したその「衝動」探しの旅を描いた『1960』

Barマスター(トクナガクニハル)アジサシ(舘形比呂一)Mr.DJ(黒須洋壬)
Barマスター(トクナガクニハル)アジサシ(舘形比呂一)Mr.DJ(黒須洋壬)

『1960』は、“空が暴れだした嵐の夜。突然ドアをノックする音。そこにはコンシェルジュが。「お忘れものです、お客様」――手渡された一冊のノートとメッセージ……「まだ、終わっちゃいない。お楽しみはこれからだ。1960」―――次々と現れる謎の男達。忘れかけたあのノートが彼らと共に動き出した――”というストーリーで、今村が記してきた一冊のノートをモチーフにして物語が展開していく。自問自答を繰り返し、そこからまた舞台に戻るんだと思った「衝動」を探す旅を描いたものが『1960』だ。メンバー全員が50歳を超え、まさに等身大の自分達を素直に表現した作品であり、彼らの事をずっと応援しているファンにとっては感涙ものだろうし、若い人たちも共感できる説得力がある。「来て下さってる方は芝居の中で必ずひっかかる部分があると思います。どこかのシーン、センテンス、ひとつの言葉、必ず共感してもらえるはずです」(今村)。リアルな言葉を受けながら、想像力が掻き立てられるのが舞台のよさだ。「どこか異次元に飛べるからいいんじゃないですか、舞台って。『1960』にしても、「闇夜の国」と言われてもお客さんは想像の世界でしかなく、かといって舞台の上でそれをすごく説明しているわけでもなく。セットもシンプルで「え、これでよく“闇夜の国”って言えるなぁ」という感じですし(笑)。でもそれは最終的には、演劇の力でそれをお客さんに想像させることができるかどうかなんです。それが楽しいんですよ」と改めて舞台の醍醐味を楽しんで欲しいし、自らも楽しんでいると今村は言う。

「脚本はセリフも大切だけど、登場人物の関係性の面白さを追求することが大事」

中:コンセルジュ(瀬下尚人)
中:コンセルジュ(瀬下尚人)

「THE CONVOY SHOW」は、30年間全く変わらない内容の濃さを誇り、『1960』もノンストップで2時間、展開されていく。「昔は3時間ぐらいの作品を作ってやっていましたが、“引く”ことを覚えました。今は2時間です。でもそれも3時間やったきたからこそわかったことで、引き算を覚えたんです。足し算をしていない人には引き算はわからない。必要でないことをやったら、必要じゃないことがよりわかってくるのだと思う。脚本を書いている時って、色々なことを説明しがちなんです。でも人間の会話って第三者が聞いているとそこからくみ取って色々考えるから、説明しすぎなくても大丈夫なんです。だからどんどんカットできるようになりました。舞台は最終的には登場人物の関係性を楽しむもので、そこがはっきりしていることが大切。今回『1960』だと「全然知らない人同士」「会うのは“闇夜の国”」、そういう情報がはっきりしていればいいんです」と、30年間の経験からくる脚本の極意、言葉もそうだが登場人物の関係性の面白さを追求することが、何よりも大切と教えてくれた。この作品のように、役者が動いてシーンが変わって、音楽があってというスタイルは「コーラスライン」や「ピピン」といったブロードウェ―ミュージカルがいいお手本になっているという。

「才能で生きているわけじゃない。そこそこの体と声で、持っている以上のことをやっているのだから、全てにおいて最善を尽くすべき」

気になるのは肉体的なキツさを感じることはないのだろうか、ということ。平均年齢52歳の舞台とは思えないほど、エネルギッシュで激しい2時間だ。「本番へ向けたルーティンがあって、それを続ける事で体も心も維持できている気がします。メンバーそれぞれのルーティンがあると思います。若い頃に比べると、すごく体に気を遣うようになりました。持って生まれた才能で生きているわけではなく、体も声もそこそこなのに、持っているもの以上のことをやっているのだから、全てにおいて最善を尽くすべきでしょう」と、体力的な事は自覚しつつも、あくまで真摯な態度で舞台に臨むことで、毎日舞台を全うしている。そして「こういう笑いあり、グッとくるところありの舞台って、とにかく“ちゃんと”やらないと面白くないんですよ。ここ10年ぐらいそれをずっと感じていて、やるならちゃんとやらないと面白くないし、人の心を動かすのは、当たり前だけど大変。“ちゃんと”やっていくことに“慣れ”はないんです。全てにおいて“ちゃんと”準備をしないと気持ちよく舞台に上がれないし、失敗します」と、30年間第一線で活躍しているエンターテイナーの言葉はシンプルだが、強く、鋭い。舞台はごまかしがきかない。全てお客さんが観ている。その快感と怖さを知っているからこそ、6人は常に心技体を鍛え上げ舞台に臨んでいる。当たり前のことのように聞こえるかもしれないが、それを30年間続けることは並大抵のことではない。

人間臭く、かつファンタジーの世界に連れて行ってくれる『THE CONVOY SHOW』

「まだ、終わっちゃいない。お楽しみはこれからだ。1960」
「まだ、終わっちゃいない。お楽しみはこれからだ。1960」

今村の書く脚本は意外な展開と、心に響く言葉の数々で評価が高い。日常の中に言葉もシーンもたくさんヒントがあるという。『1960』の劇中、車らしきものに乗って運転手と会話をするシーンがあるが、これも実際にタクシーの中で今村が運転手と交わした会話がヒントになっている。また、時間ができたら「不自由さを求めて」出かける海外旅行も、そこで出会った人、景色、体験全てが脚本のスパイスになるという。人間くさく、かつ、少しファンタジーを感じさせてくれるのが『THE CONVOY SHOW』の魅力でもある。今回も、シンプルなセットゆえに場面転換がスピーディーでロスがなく、お客さんはファンタジーの世界に引き込まれたまま、ずっとその世界観の中で楽しむことができている。そしてTHE CONVOYといえばダンスとタップだ。ダンスは華麗さに加え、より色気が増し、タップもそうだ。特に今村のタップはまるで語るようなタップで、自信、不安、喜び、哀しさ、様々な感情が滲み出ているようで、切なさを感じさせてくれ、グッとくる。

初のオーディションを開催。「『THE CONVOY SHOW』を広げていきたい」

『1960』で6人の“現在地”を確認できたTHE CONVOYは、次はどこに向かうのだろうか?「まだ次の作品は書いていませんが、やるぞ!という気持ちになっています。初めてのオーディションが控えていて「『THE CONVOY SHOW』をやりたい」と思ってくれる若い人たちにと一緒に、何かできればいいなと思っています。ただ、自分達が教えるというよりも若い人たちとの勝負ですよね。『THE CONVOY SHOW』を広げていきたい」と、今後の構想を語ってくれているそばから「今回のオーディションは男性限定で、知り合いの女性から「なんで女性はダメなんですか?」と言われて、その瞬間に彼女を主人公にした話がすぐに浮かびました」と、どんどんアイディアが湧き出てくるようで、話が止まらなくなった。ちなみにオーディションではどんな人材を求めているのだろうか?「本当はオーディション嫌いなんですよ。気がつくとなんか稽古場に毎日来てるよね、というような人との出会いがいいんですよね。結局「この人とだったらやってもいいな、一緒に時間を過ごしてもいいな」という感じを一番大切にしています」と、あくまで人物重視だと教えてくれた。そういう6人が揃っているからこそTHE CONVOYは30年続いている。「みんな他に行くところがなかったんじゃないですか」と今村は謙遜するが、全員が主役で脇役で、歌って踊って芝居して、そのバランス感覚を持ち併せているメンバーが揃うTHE CONVOYは、ある意味稀有な存在の集団だと思う。個性派が揃うそういうグループでは、才能とプライドとのぶつかり合いが繰り広げられているのかと思いきや、今村のカリスマ性が絶妙のバランスを生み出している。全員50代でありながらも、こんなにアグレッシヴなステージを観せてくれるグループは他にはいない。

「今やっているかどうかが重要。次は30年を31年にすればいいだけ」

「『THE CONVOY SHOW』、楽しいじゃないですか。次は30年を31年にすればいいだけで、今やっているかどうかが重要なんです。僕が還暦になったらまた凄いショウをやりたいです」と、今村は笑顔で力強く語ってくれた。『THE CONVOY SHOW 「1960」』は、東京・天王洲銀河劇場を皮切りに(~17日)、大阪・名古屋・新潟・札幌・福岡で行われ、”日本一元気でイキのいい、スタイリッシュなおっさんエンタメ集団”パワーが、全国を席巻する。

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<Profile>

今村ねずみ。1958年生まれ、北海道出身。劇団「夢の遊眠社」の門を叩いたのち、'86年にオリジナルのストーリーを、芝居とダンスと歌で見せるノンストップ・エンタテインメントショウ『THE CONVOY SHOW』をスタートさせる。以来、現在まで全作品の作・構成・演出の全てを手がけ、出演。人気を博し、日本武道館2days公演や、ホテルでの1か月公演、現地キャスト&スタッフで韓国公演等を成功させる。また外部作品にも積極的に出演し、2010年には舞台『キサラギ』と『THE 39 STEPS』の演技で「菊田一夫演劇賞」を受賞。2014~15年には「プリンスアイスワールド」の構成・演出を担当した。

『THE CONVOY SHOW』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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