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【インタビュー】藤井フミヤ 新作『大人ロック』で問う”大人とは?” ポップスターの今とこれから

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
7月13日東京・渋谷TSUTAYA O-EAST
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7月13日、渋谷・TSUTAYA O-EASTは1300人の人で溢れかえっていた。藤井フミヤの、この日発売された4年ぶりのオリジナルアルバム『大人ロック』の発売記念イベントが昼夜2回行われた。ステージ上の藤井は、圧巻のハイトーンボイス、代名詞の”股割り”やキレのあるターンは健在で、54歳のポップスターはますます”冴えていた”。

松本孝弘、coba、屋敷豪太等、様々なアーティストが楽曲提供している『大人ロック』は。メジャーレーベルを離れ「Chaya-zaka Records」というインディーズレーベルからのリリースだ。デビュー33年を迎えて、なぜ今インディーズなのか。そして大人がなぜ敢えて「大人ロック」と謳うのか、全ての答えは藤井の変わらない“自然体”からくる“自然”な流れだった。このアルバムを引っ提げてのツアーを控える藤井に、ポップスターの“今”と“これから”を、じっくり聞かせてもらった。

4年ぶりのオリジナルアルバムは、初のインディーズからのリリース。「余力があるうちに、やってみるか!という感じ」

――4年ぶりのオリジナルアルバムはインディーズからなんですね。

藤井 今回からインディーズです。なんでしょうね、CDは売れないし、レコード会社がプロダクション化している傾向にあるし、いまひとつそこにいる意味を見いだせなくなって…。インディーズでやるならやるで、まだ余力があるうち(笑)、パワーがあるうちにと思い「一回やってみるか!」という感じです。何事もやってみないとわからないですし。レコード会社側も「フミヤさんはそっち(インディーズ)の方がいいのかもしれませんね」って言うし(笑)、円満退社な感じです。

――色々な意味でフレッシュな気持ちでこの『大人ロック』というアルバムの制作に臨めた感じですか?

藤井 フレッシュです!ちょうど事務所も引越しをして、全部が新しくなったタイミングでもあったし、気分的にも上がっています。

――さっきも出ましたが、CDがなかなか売れない時代になってきて、逆にアーティストを抱えるマネージメント事務所は色々な可能性を秘めている分、色々な動きができると思います。

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藤井 そうなんですよね。アルバムも今回は4年ぶりになりますけど、もっとどんどん出したほうがいいんじゃないかと思うんですよね。例えば、もっとラフにレコーディングしたものも出していくとか、今回の『大人ロック』のファンクラブ生産限定盤には、去年クリスマスにビルボード東京でやった『Christmas Premium Live』の音源を付けていて、そういうライヴ音源も商品としてどんどん出していきたいですよね。

――ファンの方は逆にそういうスタンスの方が嬉しいんじゃないでしょうか。今回インディーズからのリリースということは、フミヤさんとスタッフの方とでCDの内容、特典も全部考えたんですか?

藤井 その通りです(笑)。「何付けようか?」って話し合いました。プロモーションも身を粉にして頑張ってます(笑)。

「詞はいつも以上にひと言、一行を吟味して書いた。書いているうちに”大人っぽい”なと思った」

――今54歳のフミヤさんが、なぜ敢えて“大人”という言葉を使ったアルバムを作ったのかを教えて下さい。

藤井 アルバムの2曲目に入っている、今回のプロデューサでもある大島賢治君が書いた「GIRIGIRIナイト」という曲の仮タイトルが、「otonarock」だったんですよ(笑)。この曲実は2~3年温めていて、でも「なんで俺に書いてくれた曲が“otonarock”なんだろう」とずっと思っていて。彼がプロデュースをやるということで、全体的にロックの薫りが漂っていて、それで俺が職業作家のような気持ちで詞を一曲一曲書いたんですが、一行一行に余裕があるというか、ポップなロックなんですけどちょっと80’sの雰囲気があって。でもなんか言っていることは書いているうちに“大人っぽい”なと思って。

アルバムとしては『Life is Beautiful 』以来4年ぶりとなる『大人ロック』には、“大人”なら誰もが感じる、“わかってもらえない”という孤独感を感じる曲が多い。人生経験を積んできたからこそ感じる孤独。そんな“人間の孤独”に向かって、自ら紡いだ言葉を藤井は歌っているような気がする。決して飾らない言葉。だから余計に哀愁や淋しさを感じることができ、同時に深い愛を教えてくれる。飾らない言葉とメロディが“大人”たる所以である。

――フミヤさんというと、ポップスターというイメージがあって、その詞も昔はもう少しポップさとかライトな雰囲気があったイメージがありますが、今回は大人の背中を見せるというか、背中で語っている、そんなイメージがあります。

『大人ロック』(7月13日発売)
『大人ロック』(7月13日発売)

藤井 いつも以上にひと言、一行を吟味して書きましたね。いつもは半日位でパッと書けるのに、アルバムの1割以上の曲の歌詞は、時間をかけて少しずつ書き直していました。できたらすぐに仮歌を入れて、それを聴いてまた少し書き直す、その繰り返しでした。

多彩な作家陣が藤井フミヤをイメージして、それぞれの”ロック”を書き上げた

――今回大島賢治さんにプロデュースを依頼した理由を教えて下さい。

藤井 今までも色々な音楽プロデューサーと一緒に作品を作ってきましたが、大島君は今までにないアプローチをしてくるんですよね。「えっこう来るんだ!?」という、今までにはないテイストでした。そこが面白かったです。

――B’zの松本孝弘さん、アコーディオニストのcobaさんをはじめ、色々な方が楽曲を提供してくれています。

藤井 cobaさんは沢田研二さんの舞台音楽をずっと手がけていて、その他にもcobaさんがやっている舞台をいくつか観に行って、アコーディオン音楽だけでなく、テクノっぽいものもやったり、幅広いし面白いなあとずっと思っていました。cobaさんが奏でるマイナー系のコード、イタリアっぽい感じが好きで、飲み屋で「曲書いて下さいよ」ってお願いをしました(笑)。屋敷豪太からは「フミヤの事考えて書いたから渡しておく」って3曲位送られてきました(笑)。松本さんも飲み屋で「曲書いて下さいよ」ってお願いをしたら、「いいですよ、どんな感じにします?」と言うので「好きにやって下さい、ロックな感じで」とオーダーしたら、ロックっぽくないポップなメロディの曲があがってきました。最終的に15曲位曲が集まって、順番にレコーディングしていって、11曲位終わったところで「もういいか」という感じで終わりにして(笑)、このアルバムになりました。

――自然体ですね(笑)。全体的にはロックなんですが、色々なタイプの曲があって、彩り豊かというか。

藤井 そうですね、ポップな感じの曲もあって、『大人ロック』だけど、どロックじゃない。

「どこででも、どんなスタイルでも歌えるのが”強み”」

――先ほどのCDが売れなくってきたという話に繋がっているのですが、ライヴビジネスは逆に順調に数字を伸ばしています。フミヤさんはデビュー以来毎年精力的にライヴを行っていますが、その蓄積がさらにパワーとなってこれからますます“強み”になっていきますよね。

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藤井 ライヴもそうだし、今、芝居のシーンも盛り上がっていますよね。僕は今までライヴ自体もギター一本とか、バンドとか、フルオーケストラと一緒にとか、色々なスタイルでやってきたので、どこででもどういう形でも歌えることが“強み”だと思います。

――今出てきましたが、’14年と’15年、二度にわたって行われた『Premium Symphonic Concert』で、フルオーケストラと共演していますが、シンガーとしてはやはり大きな経験になっていますか?

藤井 そうですね。音がズレるというか、歌っている位置から一番遠い打楽器までは10m位離れているから、どうしても音にタイムラグがあって。ズレてると思って指揮者を見ても、指揮者はテンポを取っていないので、難しかったですね。音のうねりの中で歌っているような感覚で苦労しました。

――フミヤさんをして、鍛えられたという感じですか。

藤井 久々に鍛えられましたね、あれは(笑)。生意気にも「ピアノも要らないです」とか言っちゃって(笑)、1~2曲以外ほとんどピアノが入ってなかったので、さらにリズムを取る機会がないという状況でした(笑)。

――でも声量と声のパワーはオーケストラに負けていませんよね。

藤井 僕らがやっている音楽は、やっぱり電気を通して聴こえるように作られていて、Aメロは大体抑え目なのでマイクがないと厳しくて、サビに向かうにしたがって音が大きくなるように作られているので。オペラのようにマイクがない時代に作られた音楽ではないので、やっぱりオーケストラにはマイクなしでは負けちゃいますね。

――ボイストレーニングでしごかれた感じですね。

藤井 本当にそう。しかもリハがなくて、へたをすると当日リハ、以上。という感じで(笑)しかもそれぞれの会場によってオーケストラが変わるし。これも新しい経験でした。

「9月から始まるツアーではアルバムと、これまでのヒット曲でロックテイストを感じて欲しい」

――9月から始まる今回のアルバムを引っ提げての2年ぶりの全国ツアーの聴きどころ、観どころを教えて下さい。

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藤井 ドラム、ベース、ギター2本にキーボードという編成で、アルバムの曲以外は、ヒット曲で固めようと思っていますが、“大人ロック”と謳っているので、ロックテイストを感じるような雰囲気にはしたいですね。派手な演出や装置に頼らず、基本は音と歌だけでエンタテイメントにしなければいけないし、逆にいうとそれしかないので。

――フミヤさんはライヴで、CDのアレンジの再現性を求める方ですか?それともライヴはライヴのアレンジで聴かせたいと思う方ですか?

藤井 どちらかといえば後者かも。あまりコードを変えたりはしませんが、再現性にはそこまでこだわっていなくて、大体ニュアンスが伝わればいいと思っています(笑)。もちろんハズせないフレーズは弾きますけど(笑)。

――とにかく最大の武器であるその声が、デビューから全く変わっていないことが凄いです。キーも変わってないんですよね?

藤井 変わってないですね。上がってもいないけど、昔より“強く”なっています。

――喉のケアを徹底的にやるとか?

藤井 ケアは気をつけていますが、さほどでもないですね(笑)。酒も飲むし、タバコも少し吸うし。icos(電子タバコ)に変えたくらいですかね(笑)。逆にあんまり神経質にならないからいいのかもって思ったりもします。

――フミヤさんの趣味の山歩きもステージに立つために必要なトレーニングのひとつですか?

藤井 山は健康のためというより、自然の中に身を置くと気持ちが“浄化”されるんですよね。もちろんトレーニングにはなっています。その代わりではないですが、ジムにもいかないし、ジムに行くなら公園を走っているし。

「無理をしていないところが”大人ロック”につながった。でも「大人ってどういう意味?」と聞かれてもわからない(笑)」

――勝手なイメージですが、無理をしていない感じ、自然体なところはずっと変わらないですよね。それが今回のアルバムの歌と歌詞に出ている気がします。

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藤井 その無理していない感じが“大人ロック”というタイトルに繋がったのだと思います。でも「大人ってどういう意味ですか?」とか「何が“大人”だと思いますか?」と聞かれても、実はわからないんですよね(笑)。

――でも歌も体型も本当に変わらないですよね。

藤井 オペラグラスで観なければ、遠くから観たら変わらないと思います(笑)。

――ライヴも昔からのファンに加えて、最近は若いファンも増えていると聞きました。

藤井 そうなんですよね。「なんでジャニーズのコンサート行かないでこっち来てるの?」って思いますけど(笑)

――やっぱりフミヤさんの歌に惹かれて来るんでしょうね。

藤井 歌だとは思いますが、だとしたらちょっとマセてますよね(笑)。

――大人といえば先日オンエアされた「憲武・フミヤ・ヒロミが行く!キャンピングカー合宿」(フジテレビ系)も、仲良し大人3人組が醸し出す空気が良かったです。

藤井 あの番組は、ある層にはすごく刺さっているみたいですよ(笑)。

「もうあまり多くは望まない。ライヴで歌うことと絵を描くことができれば、結構幸せ」

――あの番組のテーマソングで、今回のアルバムにも収録されている「友よ」は、フミヤさんと(藤井)尚之さんのタッグで作った「白い雲のように」(猿岩石に提供/’96年)を彷彿させる曲で、番組内での使われ方もそんな感じでした。

藤井 まさにその通りで、憲ちゃん(木梨憲武)が居酒屋から尚之に電話して「尚之、「白い雲のように」みたいな曲書いてくれ」ってオーダーしていました(笑)。

――フミヤさんは声が続く限り歌うこともでき、多趣味で器用なので、これからますます色々なことを楽しめそうですね。

藤井 いや、もう色々はやらないです。歌と趣味の絵ぐらいですかね。

――それができていれば自分の中の満足度はかなり高い感じですか?

藤井 かなり高いですね。どちらかというとレコーディングはあまり好きじゃないんですよ(笑)。ライヴで歌っているのが一番ですね。

今年54歳、デビュー33年を迎え、その“自然体”を貫くスタイルは、ますますそのカッコ良さに磨きがかかり、それを映し出しているのがアルバム『大人ロック』だ。圧巻のボーカルはますます“強度”を増していると本人が言うように、ライヴでの破壊力はより増しているようだ。器用ゆえに色々な事が自然とできてしまう天才肌が、「ライヴで歌うことができれば後は多くを望まない」と言っている以上、これからの藤井フミヤのライヴが楽しくないわけがなく、そこに円熟味が増してくると感動も大きくなる。ギター一本のアコースティックでもよし、バンドでもよし、そしてオーケストラをバックに歌ってもよしと、ポップスターは最強シンガーへの道を歩み続けている。

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<Profile>

1962年7月11日、福岡県生まれ。’83年 チェッカーズとしてデビュー。’93年以降、ソロアーティストとして活動。「TRUE LOVE」や「Another Orion」等ミリオンヒットを連発。2013年デビュー30周年&ソロデビュー20周年のダブルアニバーサリーを迎え、デビュー日に当たる9月21日からは1年間に及ぶ30周年プロジェクトの第1弾として全国ツアー「藤井フミヤ 30TH ANNIVERSARY TOUR vol.1 青春」を開催(31か所35公演)。またこのツアーのスペシャル公演として5年振りに日本武道館『藤井フミヤ カウントダウンライブ』を復活させた。2014年は「TRUE LOVE」でのソロデビュー以降の20年に焦点を当てたアニバーサリーイヤー後半戦へと突入。春にはデビュー30周年の軌跡を彩る初のフルオーケストラ公演『billboard classics FUMIYA FUJII PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2014』を開催。そして8月16日からは”デビュー30周年プロジェクト”後半戦を飾る全国ツアー『藤井フミヤ 30th Anniversary Tour vol.2 TRUE LOVE 』が、12/31にはアニバーサリーイヤーの締めくくりとして武道館カウントダウンライブを昨年に続き開催。2015年は、昨年好評を得た『billboard classics FUMIYA FUJII PREMIUM SYMPHONIC CONCERT』のアンコール公演を全国で開催。4年ぶりに発売したオリジナルアルバム『大人ロック』を携えて、2年ぶりの全国ツアーが決定。 追加公演の東京国際フォーラム公演は、デビュー記念日の9月21日開催される。

藤井フミヤオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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