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”純粋”ゆえに、むき出しになった感情が胸に刺さる、”規格外”アーティスト・石崎ひゅーいのライヴに感動

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
ライヴPhoto/上飯坂 一
石崎ひゅーい
石崎ひゅーい

”純粋”だからこそ、”無心”で歌う石崎のライヴは、その感情がむき出しになり、ひりひりとした空気をファンは肌で感じ、震える

7月28日、東京キネマ倶楽部で注目のシンガー・ソングライター石崎ひゅーいのライヴ、「石崎ひゅーいTOUR 2016『花瓶の花』」のツアーファイナルを観た。

石崎ひゅーいといっても、知らない人もいるかもしれないが、2012年にメジャーデビューしたシンガー・ソングライターで、感情をストレートにぶつけるエモーショナルなボーカルと、力強いメロディ、リアルな部分と想像とが入り乱れて、強烈な世界観が出来上がっている歌詞、心の中の奥深くにある“泣き”や“叫び”がむき出しになって表れている表現者だ。聴き手は彼のそんな部分に“触れる”ことで“震える”。

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この日のライヴもそうだった。汗と涙と唾とが飛び交うステージと客席。優しく、激しく、柔らかで、強さ、弱さ、熱さ、不安、その全ての感情をキャッチすることができた。それは彼のボーカル力の強さによるものだ。リアルを伝えることができるボーカル。“整っていない”ところがいい。荒々しくて、でもそうじゃないと伝わってこない世界観が魅力的だ。リアルだからこそ、より親密さを感じる。

5月18日に発売した2ndアルバム『花瓶の花』を引っ提げたツアーのファイナルという事で、スタンディングの客席も最初から熱を帯びて、その熱さに応えるように石崎も、まるで何かにとりつかれたかのように放熱しながら歌う。バックを支えるバンドの音も素晴らしい。特にリズム隊が創り出す太くうねるリズムは、石崎の歌から生まれるエモーショナルさと相まって、カッコいいことはもちろん、心地良さを感じさせてくれた。

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「ファンタジックレディオ」では男性ファンをステージに上げ、二人でシャウトしたり、「星をつかめて」では客席に降りていき、ファンに囲まれて歌ったり、どこまでも自由に、そして“無心”で歌っていた。

アルバムの表題曲「花瓶の花」は、石崎がデビュー前から大切にしていた曲で、ファンの間でも名曲として高い人気を誇っている。そんな曲を歌う前に、彼は涙もろくなったという話から、「花瓶の花」にまつわるエピソードを語り始めた。牛丼屋で食事をしていたら「花瓶の花」が有線から流れてきて、食べながら泣いてしまったこと、駅のトイレで用を足していたら、隣で同じように用を足しているおじさんから、いきなり片方のイヤホンを耳にねじ込まれて、そこには「花瓶の花」が流れていて泣いてしまったとこと。さらに沖縄・波照間島で出会い、その後福島で再会したという原発作業員の男性とのエピソードを交えつつ、「花瓶の花」という曲がいかにたくさんの人に愛されてきた曲であるかを語ってくれた。そして石崎が「みんなが歌った方がきっと大きな力になるから、僕がギターを弾くので、みんなが歌ってください」とギターを弾き始めると、ファンは「花瓶の花」を大合唱。泣きながら歌っているファンもいた。その後石崎がバンドメンバーと共に改めて「花瓶の花」を歌うと、会場全体に感動が広がっていった。歌い終わった石崎もその感動を噛みしめるように、立ち尽くし、深々と頭を下げた。その余韻が残る中、ラストは「天国電話」をしっとりと歌い上げ、しめた。アンコールを求める拍手は鳴りやまなかったが、予定調和のアンコールはない。「燃え尽きたのか」、そう思わせてくれるステージを見せてくれただけに、彼が姿を見せなくとも、「ライヴは終了しました」というアナウンスを誰もが納得して受け入れていた。

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まるで演劇を観ているようなライヴだった。でも決して演じているのではなく、“無心”で歌っているのだ。なにもかもがむき出しで、自らも予測不能な状態で歌と対峙し、そこに全てをぶつけている。そしてその歌は優しさに溢れ、聴く人全ての背中をそっと押してくれる。観る側が勝手に描く石崎ひゅーいというアーティスト像を、彼は軽々と飛び越え、その先にいざなってくれる。それは彼がどこまで純粋だから。純粋だからこそ全てがヒリヒリするような、むき出しのままの状態になって、観る側はそれをより肌で感じることができ、彼のメッセージが心の奥深くまでスッと入ってくる。

全ての人の心に寄り添う名曲「花瓶の花」

「花瓶の花」のミュージックビデオは、石崎と蒼井ゆうが出演している今年公開予定の映画『アズミ・ハルコは行方不明』のチームの手による、涙なしでは観ることができない感動作だ。監督は松居大悟で、この強いバラードを聴く人全ての心に寄り添う物語に仕上げている。

日々、数え切れないほどの曲が生まれてきては消費され、忘れ去られるものが多い中、歌い継がれ、聴き継がれ残っていくものもある。そんなスタンダードナンバーになりうる、何年かに一曲の“名曲”が「花瓶の花」だ。母親がデヴィッド・ボウイのファンで、その息子がZowie(ゾーイ)という名前だったことから、もじって、Huwie(ひゅーい)と名付けられた石崎は、母親が夢中になった世界のスーパースターと同様に、聴き手の心の中に光を差す作品を作り、歌い続けていく。

「ピノとアメリ」(初回盤:8月24日発売)
「ピノとアメリ」(初回盤:8月24日発売)

石崎の8月24日発売のニューシングル「ピノとアメリ」は、7月クールのテレビ東京系アニメ『NARUTO―ナルト― 疾風伝』のエンディングテーマになっている。「15年間たくさんの人々に愛されてきた壮大な物語に音楽という形で寄り添う事ができてとても嬉しいです。ナルトとサスケ、二人の歴史に導かれるように自然と曲ができました。みんながNARUTOを思い出す時、この曲がずっと隣にいてあげられたらいいなぁと思います」(石崎)。ここでも壮大なストーリーに”寄り添う”ように歌い、登場人物に光を当てている。

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<Profile>

石崎ひゅーい。本名。2012年7月25日にミニアルバム『第三惑星交響曲』でデビュー。感情のままに歌うまっすぐな声と全てのエネルギーを爆発させるライヴパフォーマンス、ソロアーティストとしてのスケールを無視する、規格外なシンガーソングライター。多くのファンを魅了するとともに、クリエイティヴディレクター・箭内道彦、映画監督・園子温、松居大悟を始め、多くのクリエイターやミュージシャン、蒼井ゆう、菅田将暉他、俳優や女優からも支持されている。

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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