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野宮真貴が、鈴木雅之、横山剣、クレモンティーヌ、カジヒデキらと奏でる”フレンチ渋谷系”とは?

田中久勝音楽&エンタメアナリスト

「渋谷系スタンダード化計画」とは?<フレンチ渋谷系>とは?

野宮真貴が「渋谷系スタンダード化計画」を掲げ、渋谷系のヒット曲と、そのルーツとなる世界の名曲を、新しいスタンダードナンバーとして歌い継いでいくというコンセプトは2012年からスタートした。毎年そのコンセプトに沿ったライヴを『Billboard Live』で繰り広げ、2015年にはそれを“総括”したアルバム『世界は愛を求めている。~野宮真貴、渋谷系を歌う。~』をリリースし、これがオリコンアルバムランキング<JAZZ部門>で1位を獲得。このアルバムを引っ提げて行った『Billboard Live 2015』のテーマは、<フレンチ渋谷系>だった。

野宮が初めて購入したレコードの一枚が、ミッシェル・ポルナレフ「シェリーに口づけ」で、最初の音楽体験がフレンチポップスだったり、渋谷系の音楽の中にも、フレンチポップスをルーツとしているものが多く、リスナーにも馴染みのある曲も多いことから、このコンセプトになった。『Billboard Live 2015』ではフリッパーズ・ギター「フレンズ・アゲイン」、辺見マリ「ダニエル・モナール」(作曲/村井邦彦)を披露したり、さらにフランス音楽界の巨匠、セルジュ・ゲンズブールが、ファム・ファタール(魔性の女)に捧げた、フランス・ギャル「ジャズる心」、ブリジット・バルドー「コンタクト」、そしてジェーン・バーキン「思い出のロックンローラー」を歌った。妖艶で洗練されたポップスは<フレンチ渋谷系>と呼ぶにふさわしいものだった。

野宮とクレモンティーヌ
野宮とクレモンティーヌ

2016年2月に『BLUENOTE TOKYO』で行われた、フランスの国民歌手であり、”パリの渋谷系”といわれ、そのライフスタイルが女性から注目されているクレモンティーヌのライヴに、野宮真貴がゲスト出演するなど、<フレンチ渋谷系>というキーワードがさらにクローズアップされてきた。大人が楽しめるオシャレ音楽、そして若い人にとっては、どこか懐かしい肌触りがする、でも新しい音楽、そんな捉え方ができる音楽が<フレンチ渋谷系>といえるのかもしれない。

フレンチポップスと渋谷系のステキな関係 『男と女~野宮真貴、フレンチ渋谷系を歌う。~』

そして今年デビュー35周年を迎えた野宮が8月31日にリリースしたニューアルバムが、「渋谷系スタンダード化計画」の発展形ともいうべき<フレンチ渋谷系>の2枚組『男と女~野宮真貴、フレンチ渋谷系を歌う。~』だ。渋谷系の中でも、フレンチポップス、もしくはフレンチポップスと関係が深い名曲をチョイスし、新しいスタンダードナンバーとして聴かせてくれる内容になっている。

野宮とクレイジーケンバンド・横山剣
野宮とクレイジーケンバンド・横山剣

アルバムのタイトルになっている「男と女」は、今年で公開50周年を迎え、デジタル・リマスタリング版がリバイバル上映されることが決まっている、フランス映画の名作『男と女』から。そして世界で最も有名な映画のテーマ曲のひとつであるフランシス・レイ「男と女」を、クレイジーケンバンドの横山剣とデュエットしている。大人の色香漂う中にも、小悪魔的な野宮の声がかわいらしさをプラスし、なんともいえないムードを醸し出している。そしてピチカート・ファイヴ小西康陽が手がけた訳詞が、よりムードを盛り上げる。フレンチのメロディとオリジナルに忠実ながらも、小西が選んだ美しい日本語が織りなす名カバーが誕生した。

野宮×クレモンティーヌ×鈴木雅之の共演で、新しい「渋谷で5時」が完成

このアルバムのひとつの大きなセールスポイントになっているのが、鈴木雅之が菊池桃子と歌い1993年に大ヒットした「渋谷で5時」である。野宮、クレモンティーヌがデュエット、そして鈴木雅之も参加し、豪華な組合わせによる新たな「渋谷で5時」が完成した。なぜこの曲が、<フレンチ渋谷系>かというと、ピチカート・ファイヴの楽曲「万事快調」のリズムパターンをアレンジに取り込んで、そこにクレモンティーヌがデュエットで参加しているからだ。ちなみに野宮も参画しているコミュニティFM『渋谷のラジオ』では、毎日19時に世界一長い時報としてピチカート・ファイヴの「東京は夜の七時」がオンエアされていることもあり、同じ”待ち合わせソング”として同曲に注目。そしてクレモンティーヌが住んでいるサン=ジェルマン=デ=プレはパリ6区にあり、渋谷区と姉妹都市という関係から今回の組み合わせが実現した。オリジナルにはない3人のやりとりにも注目だ。ピチカート・ファイヴの代表曲「東京は夜の七時」と並ぶ”待ち合わせソング”が新しい形で誕生した。

野宮と鈴木雅之
野宮と鈴木雅之

今回のプロジェクトについて鈴木は、「「渋谷で5時」という楽曲を真貴ちゃんとクレモンティーヌが歌いながら、そこに鈴木雅之が大人の余裕で参加させてもらい、このトライアングルはとても光栄でした。我々の一つ上の世代には「銀座の恋の物語」などちょっと大人の男女の恋物語があったんだけど、「渋谷で5時」を作った1993年にはご当地的な街をテーマにしている曲ってないなと思ったので、“渋谷系”という言葉が出てきている流れの中で、これは渋谷をテーマにしようと思いました。当時は“渋谷系”と呼ばれる音楽が一世を風靡していて、ピチカート・ファイヴやオリジナル・ラブが大好きだったのね。だから今回、こういう形でコラボレーション出来たのは、運命的なことだと感じています。あの時に“自分なりの渋谷系を作ってみよう”という確実な想いがありました。今回は何か自分のルーツを垣間見られた気持ちにもなれたし、この曲が様変わりしてきている渋谷で恋をしている人たちが待ち合わせをしたいBGMになったら嬉しいなって思いますね」と、自身も渋谷系の音楽に影響を受けていることを語っている。ソウルミュージックをベースに、様々な音楽を昇華させたラブソングを30年間歌い続けている、鈴木の代表曲のひとつの2016年バージョンが生まれた。

この他にもミッシェル・ルグランの「双子姉妹の歌」とピチカート・ファイヴ「ウィークエンド」を、クレモンティーヌとデュエットしたり、セルジュ・ゲンズブール風のストリングスアレンジがとにかく美しいトワ・エ・モア「或る日突然」、「男と女」のオールスキャットバージョンにはカジヒデキ、野宮真貴を愛してやまない久保ミツロウ、能町みね子、そしてヒャダインが参加している。

もう一枚は先述の2015年の『Billboard LIVE』の音源を収録したライヴ盤だ。これがなんともたまらない仕上がりだ。腕利きのミュージシャンの優しく、時には情熱的な演奏は見事のひと言で、一曲一曲のライヴアレンジも素晴らしく、なんといっても野宮の変幻自在の歌が印象的で、あの時の“極上の大人の時間”がそのままパッケージされている。“いい匂い”のするライヴ盤だ。

かつてのヒット曲や名曲を2016年にアップデート。 豪華で最新式の 「名曲スタンダード・カバーアルバム」が誕生

野宮とカジヒデキ
野宮とカジヒデキ
『男と女~野宮真貴、フレンチ渋谷系を歌う。~』(8月31日発売)
『男と女~野宮真貴、フレンチ渋谷系を歌う。~』(8月31日発売)

野宮のライフワークともいえる<渋谷系スタンダード化計画>は着々と進んでいる。『男と女~野宮真貴、フレンチ渋谷系を歌う。~』では、その発展形<フレンチ渋谷系>を高らかに掲げ、“良質”で“上質”な音楽を集めて聴かせてくれている。鈴木雅之、横山剣、クレモンティーヌ、カジヒデキら、“世界中の「男と女」のアーティスト”の参加により、「男と女」「渋谷で5時」「ロシュフォールの恋人」など、かつてのヒット曲や名曲を2016年にアップデート。 豪華で最新式の 「名曲スタンダード・カバーアルバム」が誕生した。ちなみに野宮真貴とクレイジーケンバンド・横山剣はデビュー35周年、鈴木雅之とクレモンティーヌはソロデビュー30周年、さらにカジヒデキはデビュー20周年と、偶然にもそれぞれが周年を迎え、文字通り“アニバーサリー・アルバム”となっている。

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<Profile>

ピチカート・ファイヴの3代目ヴォーカリストとして、90年代に一斉を風靡した「渋谷系」ムーブメントを国内外で巻き起こし、 音楽・ファッションアイコンとなる。 2010 年に「AMPP 認定メディカル・フィトテラピスト(植物療法士)」の資格を取得。現在、音楽活動に加え、ファッションやヘルス&ビューティーのプロデュース、エッセイストなど多方面で活躍中。 2015年に発売したアルバム『世界は愛を求めてる。~野宮真貴、渋谷系を歌う。』はオリコン・ウィークリー・アルバムランキング<ジャズ部門>で1位を獲得。またプロデュースしたMiMCオーガニックコスメ「サプリルージュ」は、全国コスメキッチン リップ部門2015年間売上1位に輝いた。2016年9月23日には、デビュー35周年を記念して10年ぶりの書き下ろしエッセイ『赤い口紅があればいい』(幻冬舎)を発売する。また11月には恒例の『Billboard Live』ツアーを行う。野宮真貴オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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