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中止後、バス乗り場でファン全員を見送った西川貴教の、おもてなしの心と郷土愛溢れるイナズマロックフェス

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
9月18日、ステージ上からフェス中止のアナウンスをする西川貴教

9月18日、『京都音楽博覧会 in 梅小路公園2016』『イナズマロックフェス2016』が途中で中止に

フェスというと夏のイメージが強いが、実は大小様々な規模とコンセプトのフェスが一年中開催されていて、でもやはり夏はハイシーズンで、7月~9月には全国各地で40を超えるフェスが行われた。野外フェスは、屋内にはない開放感と気持ち良さを味わうことができ、多くのファンを一気に動員できることもあり、開催地への経済効果もかなり期待できるが、唯一のウィークポイントが、天候だ。大体の野外フェスが雨天決行、荒天中止とアナウンスされているが、9月18日(日)は台風が接近していた関西地方でフェスの中止が重なり、それをこぞってメディアが取り上げ、ニュースになった。

京都市内で開催されていた、今年20周年を迎えたくるりが主催する『京都音楽博覧会 in 梅小路公園2016』と、T.M.Revolution西川貴教主催の滋賀県草津市・琵琶湖烏丸半島芝生広場で行われていた、今年8回目の『イナズマロックフェス2016』が、17時過ぎに雷が原因で、途中で打ち切られた。『京都~』はトリの「QURULI featuring Flip Philipp and Ambassade Orchester」のパフォーマンスを残して中止になったようだ。『イナズマ~』はMAN WITH A MISSION、UVERworld、T.M.Revolutionの3組のライヴが残念ながら中止になった。

THE ORAL CIGARETTES
THE ORAL CIGARETTES
HKT48
HKT48
ゲスの極み乙女。
ゲスの極み乙女。

筆者は『イナズマロックフェス2016』(9月17日・18日)の会場にいた。この日は雨が降ったり止んだりという生憎の天気だったが、まずはオープニングアクトの04 Limited Sazabysのライヴから一日がスタート。そして14時、橋川渉草津市長の開会宣言とともに幕が切って落とされ、トップバッターは人気急上昇中のTHE ORAL CIGARETTES。このフェスはセット転換の時間はお笑い芸人のパフォーマンスが楽しめる。とにかく明るい安村が、安定の「安心してください、はいてますよ」のネタで客席を笑わせていた。そして「イナズマ」初登場のHKT48が、自身の曲とAKB48のヒット曲を織り交ぜたセットリストで、雨の中で応援してくれているファンを盛り上げる。インポッシブルがネタを披露した後、こちらも「イナズマ」初登場となるゲスの極み乙女。がステージへ。小降りになっていた雨が、強くなってきた。それでも圧倒的な演奏力で客席を引き込み、「T.M.Revolutionが音楽を始めるきっかけだった」と語る川谷絵音が「私以外私じゃないの」「ロマンスがありあまる」「キラーボール」などのヒット曲を歌い、しっかりその音楽性を伝えた。

豪雨、会場から10キロ圏内で落雷、フェスは中止へ

雨脚がさらに強くなって、雨が容赦なく客席、ステージを叩きつけるように降る。傘をさすことが禁じられている客席のファンは、屋根があるフリースペース移動する人、その場にしゃがみこんで雨雲が通り過ぎるのを期待し、お目当てのアーティストの登場を待つ人、様々だった。筆者も一旦バックステージのパブリックスペースに戻ると、スタッフの動きが慌ただしくなっていた。ステージではさらば青春の光が漫才を披露している。雨はさらに強くなり、まるでバケツをひっくり返したような、まさに豪雨。出番を控えたアーティストも心配そうに空を見上げ、「ひどいな…」という言葉しか出てこないほどの雨。

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しかし17時前、雷雲の発生が確認されたということで、イベントの一時中断が発表された。雷鳴が遠くから聞こえてくる。17時20分、西川貴教本人がステージ登場し、中止をアナウンスした。無念さを噛みしめながら「みなさんに安全に帰っていただくことが最優先です。僕自身悔しさでいっぱいですが、お越しいただきありがとうございました。申し訳ありませんでした。来年、さらにパワーアップして戻ってきます」とファンにメッセージ。誰のせいでもない。MAN WITH A MISSION、UVERworld、T.M.Revolutionのライヴと、東京ダイナマイト、カラテカのパフォーマンスを残し『イナズマロックフェス2016』は中止となった。ファンの安全を第一に考え、また演奏するアーティストも感電の恐れがあり、適切な判断だった。

お客さんが送迎バスに乗り込むのを最後の一人まで見送り、気持ちを伝えた西川貴教

西川はこの後、会場から最寄り駅へと向かう送迎シャトルバスに乗り込むお客さんを、最後の一人まで見送り、主催者としてファンに最大限の誠意を見せた。一番悔しい想いを抱えながら、全国から地元・滋賀まで集まってくれたファンに、感謝の気持ちとお侘びの気持ちを込め、お見送りという形で想いを伝えた。

『イナズマロックフェス』は西川の強い想いが結実して、2009年にスタートした地元密着型のフェスだ。西川が2008年に滋賀ふるさと観光大使に就任、「音楽を通じて地元にお返しがしたい」と滋賀県の全面バックアップでスタートした。毎年イベントの収益金の一部を滋賀県と、草津市の両自治体へ寄付を続け、また琵琶湖の水の浄化を目的とした運動=マザーレイク基金にも、フェス出演者により行われたチャリティーオークションの売上げが寄付され、琵琶湖の環境保全や環境学習等に活用されている。そんな西川の地元愛が「イナズマロックフェス」の源であり、地元に足を運んでくれるお客さんへの“おもてなし”の心が、同じく源になっている。

毎年ホスピタリティを改良し、よりファンに寄り添うフェスへ

回を重ねるたびに、「イナズマ」のホスピタリティは手厚くなり、2015年から発売されたスペシャルチケット『イナズマプレミアム』は、屋根付きの専用席や専用ドリンクコーナーやトイレ、最前列の専用立ち見エリアがあり、ゆっくり楽しみたいファンに喜ばれている。

無料で入ることができるフリーエリアの『風神ステージ』では注目の若手アーティストのライヴを観ることができ、今年のTHE ORAL CIGARETTESを始め、『風神ステージ』を経験して、メインの『雷神ステージ』へステップアップしたアーティストも少なくない。滋賀県観光PR・ご当地キャラクターメインの『龍神ステージ』では、西川貴教のキャラクター・タボくんや全国からご当地キャラが集結し、撮影スポットとしても喜ばれている。

この他にも、滋賀の食材はもちろん、全国のご当地グルメが集まる“フード&ドリンクエリア”、子供連れのお客さん用にベビーカーの貸し出し、授乳スペースやオムツ替え室を備えた“キッズエリア”、滋賀県のPRを行う『おいで〜な滋賀 体感フェア』もあり、音楽ファン以外の人もフラッと遊びに来ることができる、ホスピタリティも充実した地元密着型のフェスだ。

また当日参戦しているファンも、残念ながら足を運ぶことができなかったファンもリアルタイムで楽しめるコンテンツも充実していた。出番前と出番後のアーティストが出演する特別番組『西川貴教のイエノミ!! イナズマロックフェス2016出張版』や、バックヤードに定点カメラを設置し、そこに出演アーティストが自由に映るという『イナズマロックフェス 2016 バックヤード定点生中継』、さらにフリーエリアの『風神ステージ』の模様が、ニコニコ生放送で中継された。

西川の強い想いとおもてなしの心が隅々にまで行き渡り、感じることができる『イナズマロックフェス』だからこそ、中止を決定した時の西川の無念さは計り知れない。ファンは荒天中止という“リスク”を負ってチケットを買い、交通費を使い会場に足を運ぶ。さらにこの日のように特にファンを多く抱えるアーティストのパフォーマンスを3組残して中止になると、仕方がないとはいえ、文句のひとつも言いたくなるはずだ。しかし「イナズマ」、西川貴教に対するネガティブな発言はほとんど聞こえてこない。それは西川の想い、行動、そして発言が大きい。

「本日は「イナズマロック フェス 2016」にお越しいただき、誠にありがとうございました。会場付近で激しい雷雨が発生したため、ご来場の皆様の安全を第一に考え、非常に残念ですが、公演を中断、その後中止とさせていただきました。僕自身、悔しい気持ちでいっぱいです。この気持ちのまま、来年の<イナズマロック フェス>に全てを賭けて挑み、この場所に再び帰ってきたいと思います。本当に、本当にすいませんでした。

そして、ありがとうございました」──西川貴教

西川のこのフェスに賭ける想い、強い気持ちが“きちんと”行き届いているフェス、ファン目線のイベントだから、中止になっても気持ちよく帰ることができ、来年また来ようと思えるのだ。

野外フェスの心地よさ、楽しさ、難しさ、怖さ、そして危機管理に大切さ、全てを感じた一日だった。

ちなみにくるりは、フェス中止後急きょLINE LIVEでライヴを生配信した。簡易的なスタイルではあるが数曲演奏した。

当たり前だが、どんなフェスもファンあってこそである。

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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