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自由に情熱的に――”音楽家”Jun. K(from 2PM)の最新作に感じる、稀有なる才能

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
11月8日豊洲PIT
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”音楽家”Jun. Kには、「アイドル」「K-POP」という言葉はいらない――そう感じさせてくれる最新作

そのほとばしる才能から繰り出される音楽は、全ての人の心を打ち抜く――K-POPグループ2PMのリードボーカル・Jun. Kの3枚目のソロミニアルバム『NO SHADOW』(12月14日発売)は、アイドルという枠を遥かに超えた、R&Bアーティストとしての色香漂う、ディープでメロウな作品だ。Jun. Kには「アイドル」「K-POP」というキャッチが邪魔にさえなっている。先入観だけで、彼のグッドミュージックが聴かれないことがもったいない。それほどの豊かな才能と音楽性を感じる。何も先入観を持たず是非彼の音楽に触れて欲しい。メロディメーカー、サウンドメーカーとしての才能を自由に、いかんなく発揮したミニアルバム『NO SHADOW』について話を聞いた。

――日本ではソロデビューしていましたが、今年韓国で1stミニアルバムをリリースして満を持してソロデビューを果たしました。2PMとしてではなく、ソロアーティスト・Jun. Kとして韓国での手応えはいかがでしたか?

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Jun. K アルバムのリード曲「THINK ABOUT YOU」という作品を作るまでの道のりは、正直大変でした。曲を作って、事務所のスタッフに聴いてもらったところ「あまり大衆受けするタイプの曲ではない」という意見が多くて、別の曲を提出したりもしました。でもやっぱり自分の個性を出したいという気持ちが強くて、『Mr. NO』※というアルバムを出すことになりました。韓国でソロ作品を出すのは初めてで、自分の周りの人や他のアーティストからは「いいアルバムだね」という声をもらい、嬉しかったです。

――今回の『NO SHADOW』は前作の『Love Letter』と比べると、全体的にハードな感じで、ライヴでも「今回は大衆性をあまり考えずに、今やりたい音楽をやった」と言っていました。

Jun. K 1枚目のミニアルバム『LOVE & HATE』は色々なジャンルのミックス、2枚目の『Love Letter』は“冬”がテーマでした。今回のテーマは“表現の自由”です。ここはラップなのか歌なのかどっちだろう?というような部分がある曲があったり、あくまでもラフな感じで、自由に表現していこうという事にこだわりました。

――サウンドは前作よりハードになりつつも、緻密なアレンジに惹かれます。やはりメロディメーカーのJun. Kさんなので、サビやコーラス、楽器のフレーズに必ずキャッチーでフックになる部分があります。今回の『NO SHADOW』と、韓国で発売したミニアルバム 『Mr. NO』は内容が違っていますが、もちろん日本語で表現したいと考えたのだとは思いますが、日本のファンの嗜好性を意識してでしょうか?

Jun. K 日本で発売するからといって、日本をすごく意識したということはありません。曲を作るにあたって、まず自分で韓国語で歌詞を書いて、それを日本の作詞家さんが翻訳し、歌詞にしてくれています。微妙なニュアンスを韓国語で書いたときに、自分はこういう事を言いたくてこの単語を使っているのに、日本語にした時に果たしてこの言葉でしっくりきているのか、この音節は合っているのかという部分がすごく気になるところです。だから何回も修正しました。韓国で生まれ育って、それでも微妙な表現をする時に使う韓国語のセレクトには悩むのに、ましてや日本語がまだ未熟な僕が、自分が表現しようとしているニュアンスを、日本語で合わせるという作業はとても大変でした。やはり日本で実際に生活しなければ、その微妙な表現が合っているかどうかはわからないと思いました。

――「LOST BOY ~道をなくした少年~」の歌詞はほぼ日本語で、「方法」と書いて「みち」と読ませたり、こだわっていますね。今までの作品の中で、一番日本語が占める割合が多いですよね。

Jun. K そうですね、しかも難しい内容です(笑)。微妙なニュアンスをうまく表現してくれた日本語詞を付けて下さった作詞家さんに感謝しています。ディープな内容になっていて、岐路に立たされている状況を、子供の視点で比喩して表現し、今まで自分が直面した苦難を投影させました。一見賑やかなだと思ってその世界に入ってみたら、実際は空しい事もたくさんあるということを書いてみました。

ブラックミュージックをベースに、コーラスにこだわり、最新サウンドを抜群の”塩梅”で融合し、切なさやキャッチーさをまとわせ、多くの人に届ける

彼が影響を受けたというRケリーやディアンジェロなどの、R&Bやソウル、ブラックミュージックをベースに、最新のサウンド、ビートをうまくミックスし、コーラスワークにもとことんこだわり、そのジャンルのファンも、そうではない“普通の”音楽ファンも、両方を満足させることができる音楽を作り続けている。

――一曲ずつこだわりを聞かせていただきたいのですが、「LOST~」は説明していただいたので、まずはタイトル曲で、サビがメロディアスな「NO SHADOW」からいきましょうか。

Jun. K 文字通り「影がない」という意味で、影というものを自分が愛する人に例えています。光源があって影ができる、そんな必ずいつも自分の隣にあると思っていたものが、ある日突然消えてなくなってしまった事を描いたものです。サウンドは1990年代後半から2000年代初めごろのR&Bの音を意識しました。歌の部分では、先ほども出ましたが、あえて歌とラップの境界線をなくしてみました。

――一曲目を飾るの相応しいと同時に、どう展開していくんだろうというワクワク感も感じさせてくれます。2曲目のスウィートな「MARY POPPINS」ですが、なぜ今「MARY POPPINS」なのかを教えて下さい。

Jun. K 子供の頃母がよくこの本を読んでくれた大好きな童話で、自分の中では童心に帰ることができ、子供の頃のいい思い出です。その時抱いた感情を曲に込めました。サウンドはネオソウルに仕上げました。

――3曲目、ミディアムテンポの「PHONE CALL」はいかがですか?

『NO SHADOW』<通常盤>
『NO SHADOW』<通常盤>

Jun. K この曲は「Trap(トラップ)」(HIPHOPのジャンル。中毒性の高いビートが特徴)を意識した作りで、ドラムのハイハットの構成に気を遣いました。詞は利己的で悪い、かつての自分がそうであっただろう男の事を書いています(笑)。別れてしまった彼女の気持ちを考えないで、また連絡をして「傷つかないでね」と言う、勝手な男を描いてみました。

――4曲目の「Mr.NO」※はイントロのジャズ風のアレンジが印象的です。

Jun. K そこがこだわったところで、ある意味一番自分らしさを表現できている曲だと言えます。

――「THINK ABOUT YOU」はドラマティックな曲で、“静かなる炎”というイメージを想像させてくれます。

Jun. K 基本ラインとボーカルのテーストはR&Bですが、これにシンセサイザーを加えてベースラインが特徴的な、EDMとハウスの要素が融合した“フューチャー”というジャンルを取り入れました。

――「YOUNG FOREVER」はハッピーな雰囲気で、ロサンゼルスで撮影したMUSIC VIDEOも印象的です。Jun. Kさんのファッション七変化も楽しめます。

Jun. K 衣装の入ったトランクを3つ持っていって、本当に大変でした(笑)。

――一回聴くと耳に残る曲ですが、いつ頃作った曲ですか?

Jun. K 去年の3月に、3日間で作って、すぐにロサンゼルスに行き、映像ディレクターの友達と二人で撮影しました。この曲も90年代後半のR&Bを意識して作りましたが、去年発売した『Love Letter』は“冬”がテーマだったので、雰囲気が違うので入れませんでした。

――ファンの方にはおなじみの2PM・テギョンさんとのコラボ曲「50 50」も入っています。

Jun. K 今回はアルバムバージョンですが、言ってみれば僕のソロバージョンとも言えます。二人で歌う事を想定して作った曲ですが、一人で歌うとよりHIPHOP色が濃くなっていると思います。

圧倒的に強くて、そして優しく繊細で、色気を感じる豊潤な声は、唯一無二

先日EXILE/EXILE THE SECONDの黒木啓司がプロデュースする、AbemaTV 『BPM〜BEST PEOPLE's MUSIC〜』に出演し、共演者からも絶賛された歌声こそが彼の最大の武器だ。強く、繊細でドラマティックな唯一無二の声。番組にコメントを寄せた笑福亭鶴瓶は「魅力は色っぽさ。歌の声量。2PMを好きになったのはJun. Kさんの歌声だった」と絶賛。ライヴで聴く彼の声は、ひと声発した瞬間そこにいる全員が驚き、その世界に引き込まれる。

――先日豊洲PITでライヴを観ましたが、壁を突き破りそうなほど声に威力がありました。色気もある唯一無二の声ですが、曲を作る時は自分の声のトーンとか節回し、ライヴで歌っているところを想像して作るのでしょうか?

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Jun. K 基本的に曲を作る時は、ある単語からテーマを決めそこから曲ができてきて、いざ歌う時には改めてそのテーマの事を深く考えながら歌っています。例えば「MARY POPPINS」という曲では、童心に帰って子供の頃の事を思い浮かべ、ウキウキしながらレコーディングしました。「PHONE CALL」では自分が登場人物の男になったようにマインドコントロールして歌っています。そうすることで、曲によって自然とトーンも伝え方も変わってきます。

――「表現の自由」が今作のテーマと言っていましたが、これまでの作品の中では一番「表現の自由」度が高いというか、表現の幅が広い一枚になっています。でも去年から2PMの活動と並行して、かなり忙しかったと思いますが、いつの間に作っていたんですか?

Jun. K ありがとうございます。2PMのアリーナツアーをやりながら、このアルバムを準備して、2PMのアルバムも作って、2PMの東京ドーム公演の準備をしながら、僕のソロツアーの準備もしていました。大変でしたが、たくさん音楽に向き合えた幸せな時間でした。

――色々な事を並行してやって、アウトプットばかりで、インプットする時間、自分の中に色々なものを取り込む作業はいつやっているんですか?

Jun. K 普段、パッと思い浮かんだ事からアイディアを得て、例えばひとつの単語が浮かんだとしたら、そこから派生させてマインドマップというものを作っていき、膨らませます。歌詞を書いたら、ここにはギターが入ったらどうかなとか、MUSIC VIDEOはこういう感じ、ジャケット写真はこんなな感じがいいかもと、思いついた事をすぐにスマホにメモしています。おっしゃる通り今年はインプットしている時間がなく、アウトプットばかりだった気がします。実は今回のアルバムを制作するにあたって、もう2曲新曲を作りましたが、時間的な事もあって、完璧な状態に仕上げることができなかったので、今回は入れるのをやめました。

――一体いつ休んでいるんですか?心の栄養はいつ摂っているんですか?

Jun. K そうですよね…(笑)。周りの友達はみんな音楽でつながっていて、ミュージシャンもいればただ音楽好きの友達もいて、そういう人たちと会っている時は、仮に遊んでいたとしても、その時感じた事、話した事全てが音楽として昇華されています。

――音楽は仕事であり、趣味でもあり、完璧に頭を休めている時はなさそうですね?

Jun. K 実際休むという事がどういう事なのかがわからないんです(笑)。人によっては旅行に行ってリフレッシュするという人もいますが、それは自分にとっては休んでいる事にはならないです(笑)。人によって休むという概念は違いますが、映画を観たりするのはいいかもしれないですね。そこから刺激を受けたりアイディアが湧いたりします。

12月の日本武道館2days、1月のソウルでのライヴを最後に、しばしのお別れ。「僕の音楽を聴いて、ライヴを思い出して、僕の事を忘れないで欲しい」

――現在ツアー中で、12月21、22日には日本武道館でのライヴもありますが、今回はアルバムのテーマが「表現の自由」ということで、今回のツアーもそのキーワードを元に構成を考えたのでしょうか?

Jun. K そうですね、今回はライヴも型にはまらず、自由にやりたいと思いました。

――確かにJun.Kさんの音楽性や人柄、全てが出ているライヴだと思いました。

Jun. K ありがとうございます。

――1月にはソウルでもソロライヴを行いますが、やはり地元という事で気合が入りますね。

Jun. K 日本でのライヴも、いつも応援してくれているファンに、プレゼントをしようという気持ちでステージに立っていますが、デビューしている時から応援してくれている、韓国のファンにも同じようにプレゼントをしてあげたいと思いました。日本でのライヴが終わって、ソウルでのライヴが終わると、皆さんとしばしのお別れになるので、僕がいない間も僕の音楽を聴いて、そしてライヴを思い出して、僕の事を忘れないで欲しいです。

※『Mr.NO』の正式表記はNOの後にハートマークが入ります

Jun. K(from 2PM)『NO SHADOW』特設サイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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