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2016年、印象に残ったライヴ10+1

田中久勝音楽&エンタメアナリスト

2016年もたくさんの素晴らしいライヴを観ることができました。ベテラン、飛ぶ鳥を落とす勢いのバンド、アイドル、新人、デビュー前の新人、インディーズ、フェス…ライヴハウスからドームまで様々なライヴを観ること113本。2015年よりも若干少なくなりましたが、もちろん観ていないライヴもたくさんあって、その中で印象に残ったと言われても説得力がないかもしれないし、個人的趣向ももちろん影響しているので、悪しからず。でもどのライヴもアーティスト本人、スタッフがお金と時間をかけ、とことん情熱を注ぎこんだもの。敬意を表する意味でも、やはり印象に残ったライヴの事は記し、記憶に残しておきたいと思ったのでピックアップします。改めて、音楽が持つパワーって本当に素晴らしい!

◆いきものがかり『超いきものまつり2016 地元でSHOW!!』(8/28海老名運動公園;9/10厚木市荻野運動公園)

9月10日神奈川県・厚木市荻野運動公園
9月10日神奈川県・厚木市荻野運動公園

1月5日に活動休止(放牧)宣言をした、いきものがかりの10周年記念ライヴが8月27日・28日に水野良樹(G)と山下穂尊(G/Har)の地元・神奈川県海老名市で、9月10日・11日に吉岡聖恵(Vo)の地元・同厚木市でそれぞれ開催され、4日間で10万人を動員した。そのライヴを8/28と9/10に観た。10周年という大きな節目でのライヴの開催地に、3人はスタジアムでもドームでもなく地元の運動公園を選んだ。3人が育った街、海老名と厚木の風景、匂いを体感し、いきものがかりの歌が改めて深く心に響いた。そう感じたファンも多かったのではないだろうか。歌の感動をより真っ直ぐに届けることができたのは、本間昭光(Key)率いるバンドの素晴らしい演奏があったからこそでもある。ストリングスとホーンも入り、繊細さが求められる曲はより繊細に、ダイナミックな曲はよりダイナミックに、歌に寄り添う素晴らしいライヴアレンジだった。ストリートライヴからスタートした3人の、ホームタウンでの最大規模の“ストリートライヴ”に感動。

いきものがかり、地元・海老名&厚木で10周年記念10万人ライヴ開催 全ての人に「ありがとう」

◆UVERworld『ARENA TOUR 2016』(12/14横浜アリーナ)

12月22日大阪城ホール
12月22日大阪城ホール
8月2日恵比寿リキッドルーム
8月2日恵比寿リキッドルーム

2016年も何本かUVERworldのライヴを観た。その度にボーカル・TAKUYA∞が放つ言葉と、煽情的なサウンドが融合し生まれる情熱からパワーをもらった。彼らのライヴは年々、いや観る度にその熱さが増しているようだ。この横浜アリーナ公演もそう。アルバムをリリースしていないのに、新曲オンパレードで、その新曲がまたどれも熱を帯びていて、アルバムの発売が待ち遠しい。8月2日のAquaTimezとの対バンライヴ(恵比寿リキッドルーム)も良かった。仲がいいからこそ、お互いが楽しみながらも本気をぶつけあう。そこから生まれる“うねり”は素晴らしく熱かった。

◆aiko『Love Like Pop vol.19』(9/16東京・NHKホール)

9月17日東京・NHKホール
9月17日東京・NHKホール

本来ライヴとはそういうものかもしれないが、aikoのライヴは何回観ても、観るたびに違う感動を与えてくれるから、何度も足を運びたくなる。アルバム『May Dream』は、いつもにもまして、内省的な世界観に溢れ、aikoが過ごしてきた時間、日常が伝わってきて、それが誠実さとせつなさとして胸に残る作品だった。だからライヴも熱さとせつなさがあふれていた。手が届きそうな、いや届いていると思わせてくれる身近な存在、そして尊敬できる圧倒的な才能。この“絶妙な距離感”、関係がaikoが支持され続ける理由なのかもしれない。

19年目にしてなおもライヴの動員を増やし続けるaiko。ファンを虜にするその”絶妙な距離感”とは?

◆Jun. K(from2PM)『Solo Tour 2016“NO SHADOW”』(12/22日本武道館)

12月22日日本武道館
12月22日日本武道館

ツアーファイナルは武道館2days。ミニアルバム『NO SHADOW』はアイドルという枠を遥かに超えた、R&Bアーティストとしての色香漂う、ディープでメロウな作品だった。それを引っ提げたライヴは、色気があって、強く優しい極上の声に圧倒され、印象的なメロディを湛えた、様々な音楽性を感じるサウンドで楽しませてくれた。彼には「アイドル」「K-POP」というキャッチが邪魔にさえなっている。豊かな才能を持った欧米のアーティストと思って、そのグッドミュージックを楽しんで欲しい。

自由に情熱的に――”音楽家”Jun. K(from 2PM)の最新作に感じる、稀有なる才能

◆さかいゆう『さかいゆう TOUR2016 "4YU"』(7/3東京・昭和女子大学人見記念講堂)

7月3日東京・昭和女子大学人見記念講堂
7月3日東京・昭和女子大学人見記念講堂

“ぐうの音も出ない”ライヴとはこの事。『4YU』というアルバムの完成度が高いので、自ずとライヴもいいものになると想像はしていたけど、それを遥かに越える素晴らしいライヴだった。アーティストと腕利きのミュージシャンが作り出す、寸分の狂いもない一体感から創り出されるグルーヴにお客さんもノり、前のめりになる。そうするとアーティストもノセられ、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれる。プリンス「パープルレイン」のカバーのアレンジも鳥肌モノだった。

【インタビュー】さかいゆう ポップミュージックの”職人”のこだわりからしか生まれない”極上”とは?

◆『いとうせいこうフェス~デビューアルバム『建設的』30周年祝賀会~』(9月30日、10月1日東京体育館)

10月1日東京体育館
10月1日東京体育館

いとうせいこうの元に、50組を超えるアーティスト、タレント、俳優、芸人らが集結。言葉と音の洪水だった。いとうが切り拓いた日本語ヒップホップに影響を受けたアーティストが集結していたこともあるが、とにかく”言葉という言葉”がステージ上から放たれた。様々な音楽、リズムに乗って、日本語ラップから日本語ロックまでが、いとうせいこうという常に革新性を求める脳=ヒップホップセンスの持ち主の存在によって、一本につながった貴重なフェスだった。ひとクセもふたクセもある50組を超える個性的な出演者を、自由かつ大胆に動かし、最高にカッコよく見せたいとうせいこうは、やはり稀代の編集者だ。

いとうせいこうって何者?――日本語HIPHOPの先駆者であり”稀代の編集者”だと教えてくれたフェス

◆LiSA『LiVE is Smile Always~NEVER ENDiNG GLORY~the sun』(11/26横浜アリーナ)

photo/hajime kamiiisaka
photo/hajime kamiiisaka
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横浜アリーナ2daysの初日。ちなみに2日目は「~the moon」と題して、違うセットリストで行った。彼女のライヴ、本当に久々に観たけど、素晴らしいパフォーマンスだった。歌、言葉、動き、表情、全てから彼女の“伝えたい”という想いが溢れ、それが伝わってきて、まるでライヴハウスで観ているかのような距離感だった。6月には、さいたまスーパーアリーナ2daysを含むアリーナツアーを行い、その規模はどんどん大きくなっていくが、お客さんの耳と心を一瞬でわしづかみにして、グイッと近くに引き寄せ、最後まで離さない彼女のアーティストパワーをもってすれば、どんなに大きい会場も瞬時にしてライヴハウスにしてしまうはずだ。

【インタビュー】圧倒的なライヴ動員を誇る今最も勢いのあるシンガーLiSA 5年という時間が紡いだ自信

◆SCANDAL『SCANDAL 10th ANNIVERSARY FESTIVAL「2006―2016」』(8/21大阪・泉大津フェニックス)

8月21日大阪・泉大津フェニックス
8月21日大阪・泉大津フェニックス

SCANDALの結成10周年記念ライヴは、自身初の野外。灼熱の泉大津フェニックスに1万2千人が集結。10代とおぼしき若い女性ファンの多さが目立った。高い演奏力、幅広い音楽性、キャッチーなメロディ、そしてメンバーのキャラクターやファッションも注目を集めている。4人が一音一音愛おしむように演奏し、歌い、まるで4人の絆を改めて確かめ合っているかのようだった。そしてその絆をさらに強いものにしていく時間だったのだと思う。4人の絆、そしてファンとの絆を確かめ合い、また次へ向かうための大切な通過点が地元・大阪でのこのライヴだった。

結成10周年記念ライヴ   SCANDALの一番長く熱い一日は、新たな終わりなき旅の始まり

◆『イナズマロックフェス2016』(9/18滋賀・草津市烏丸半島芝生広場)

9月18日滋賀県草津市烏丸半島芝生公園
9月18日滋賀県草津市烏丸半島芝生公園

雷雨により、途中で中止になったという意味でも忘れられないフェス。自然の怖さを思い知らせた日だった。主催者のT.M.Revolution西川貴教は、送迎バスに乗り込むお客さんを最後まで見送り、お詫びと感謝の気持ちを示した。「イナズマ」初登場のゲスの極み乙女。の素晴らしいライヴを観ながら「川谷君の事を、ワイドショーで知った顔でああだこうだ言っているコメンテーターという怪しい人たちは、きっとゲス極のライヴを観た事もない人達なんだろうな」と思った事を覚えている。

中止後、バス乗り場でファン全員を見送った西川貴教の、おもてなしの心と郷土愛溢れるイナズマロックフェス

◆BLUE ENCOUNT『LIVER'S 武道館』(10/9日本武道館)

10月9日日本武道館
10月9日日本武道館

初の武道館。ライヴハウスでも武道館でも変わらない、“カッコ悪さをさらけ出すカッコ良さ”をストレートに見せてくれた。若いファンが圧倒的に多く、瞳を輝かせながら、時には涙を流しながら、叫びながらライヴを楽しんでいた。ブルエンの音楽、ボーカル田邊君の言葉は、ファンにとって、“希望”という名のエネルギーになっているようだ。ストリングスの音と、4人が丁寧に奏でる音が重なり生まれる、激しくエネルギッシュなサウンドだけではない、彼らの新しい一面を見せてくれた。3月からは幕張メッセ公演を含む、自身最大級のワンマンツアーが始まる。

汗と涙と”ブルエン”と--若いファンの心を打ち抜く、BLUE ENCOUNTの歌と言葉

●鈴木雅之『masayuki suzuki taste of martini tour 2016 Step 1.2.3~dolce Lovers~』(9/22東京・Bunkamuraオーチャードホール)

9月22日Bunkamuraオーチャードホール
9月22日Bunkamuraオーチャードホール

大御所のライヴはやっぱり素晴らしい。“ラヴソングの王様”こと鈴木雅之がこの日60歳の誕生日を迎え、豪華なゲスト陣と共に「還暦SOUL」を聴かせてくれた。JUJUとのデュエットの後は、小田和正のピアノとコーラスで「私の願い」を歌うという、まさに奇跡のコラボ。ちなみに小田和正がソロ活動をスタートさせ、初めてプロデュースを手がけた作品が鈴木の「別れの街」(1989年)だった。さらにKREVAも登場し客席を沸かせた。30年選手の底力、想いを伝える“想いの強さ”を見せつけられた。終演後の打上げでは、マーチンさんは大瀧詠一さんが還暦の時に袖を通した、赤いちゃんちゃんこを着て登場。本人も感慨深げだった。

”ラヴソング”というジャンルを歌い続けて30年。ヴォーカリスト・鈴木雅之の魅力とは?

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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