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大病を克服し臨む”3年越しの45周年記念コンサート”は、兄と弟の復活祭 ビリー・バンバンの生き様

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
左:菅原進、右:菅原孝

ビリー・バンバンといえば兄弟デュオの草分け的な存在として、「白いブランコ」(69年)「さよならをするために」など数多くのスタンダードナンバーを世に送り出し、またその透明感ある歌声はCMにも数多く起用され、中でも焼酎「いいちこ」とのコラボレーションは、約30年続いている人気シリーズだ。2014年7月、兄・菅原孝が脳出血で倒れ、この年予定されていた45周年記念コンサートが延期となった。しかし懸命のリハビリが奏功し、翌年5月には仕事復帰を果たした。その後も体調と相談しながら活動を続け、延期になっていた45周年記念コンサートを3月25日に『3年越しの45th Anniversary-“兄”と“弟”の復活祭-』と題し、EX THEATER ROPPONGI で行う事が発表された。ファン、そして兄弟という“特別”な存在が、48年間続けることができた理由と語る二人は、45周年ライヴに向け、気合十分、気力十分だ。インタビューでも、病気の事を全く感じさせない軽妙なトークで笑わせてくれた。

「45周年コンサートでは弱々しい姿を見せられない。車イスから立って「みんな元気かい!」って言えたら、みんな喜んでくれると思う」(孝)

――孝さんお体の具合はいかがですか?

1970年の二人
1970年の二人

孝 まだしゃべりがイマイチ。僕は本当はもっときれいな言葉を遣っていたので。そうでございますか?とか(笑)。他人とだったら、こんな病気をしたらもうグループとして終わっていたと思う。やっぱり兄弟という関係だからこそ、ここまで続けてこれたと思う。母も兄も亡くなって、世界中で血がつながっているのは二人だけだから、元気な間は一緒にやりたい。

進 そう、もう二人だけだから喧嘩してないで、仲良くやろうと思う。もちろん喧嘩もたくさんしてきたし色々あったけど…。

孝 喧嘩じゃないんだよ。甘噛みありのじゃれ合いなんだよ(笑)。

――進さんは孝さんから倒れてから、ひとりでステージに立っていましたが、いつも隣にいる人がいないという状況は、どういう感じなんですか?

進 ステージではお兄さんがMC担当だったから、最初は不安でした。でも去年の夏のライヴでは、お兄さんが隣にいるような感じがして、しゃべりもうまくいきました。責任を背負うとできるものなんだと思いました。ある意味では自信が付きました。

孝 これでオレはいつ倒れても大丈夫だね(笑)。

進 もう倒れたから(笑)。今度倒れたらさよならだよ(笑)。

――孝さんは倒れて約10か月で復帰していますが、かなり厳しいリハビリをやっているとお聞きしました。

孝 リハビリは関係ないですよ。それよりも気力が大切。もちろんリハビリの先生と一緒に取り組んではいますが、自分に課したリハビリがあって、それがきつい。朝からそれをやってもうクタクタなのに、インタビューを受けないといけないんだから(笑)。

進 でもなんでも思い込みで、やりすぎちゃダメ。先生の言う事に従っている方がいいんだよ。無理するとまた倒れちゃうよ。

――歌う事、しゃべることがリハビリになっていますよね。

進 それが一番いいと思う。

孝 でも今は、昔のように、自分が好きだったちょっと低い感じの声が出ないんです。それがとても残念。もちろんリハビリはやっていますが、この状態を受け入れて、やっていかなければいけないんです。

――大病をして、克服してまたこうして歌う事ができて、たくさんの方が勇気づけられていると思います。

孝 それはあるでしょうね。自分自身や近い人が僕と同じ病気になったという人は、ビリバンの兄貴が何を見せてくれるのか楽しみにしてくれていると思う。だから3月25日にステージで弱々しい姿を見せられない。車イスからすくっと立って「みんな元気かい!」って言えたら、喜んでくれると思う。

――でも声はしっかり、はっきりと出ていて、張りがありますね。

進 いや、そんな事ないよ!(と、より強い口調で)

孝 うるさいよ(笑)。

弟・進も2014年に大腸がんの手術を受ける。二人の原動力はお客さんを喜ばせたいという強い想い

実は兄・孝だけはなく、弟の進も2014年に大腸がんと診断され、手術を受けている。二人とも大きな病を克服し、またステージに戻ってきた。その大きな原動力は、ひとえにお客さんを喜ばせたいという強い思いだ。

――大きい病気を経験して、人生観は変わりましたか?

1980年代後半の二人
1980年代後半の二人

孝 根の部分、持って生まれた性格の癖は変わっていないと思う。自分の性格はよく言えば真面目で、悔しい思いをしたらそれを胸に頑張っていこうというタイプ。だから病気をしたけど、それを乗り越えるんだという気持ちが強いです。

進 お兄さんは頑固なんですよ。自分を曲げないでここまできたのだと思います。

――進さんも2014年に大きい病気をされています。やっぱり病気と闘い克服したことで、人生観は変わりましたか?

進 そこまでは変わっていないと思います。大腸がんが見つかり、ステージIIIという状態でした。転移の可能性もあり、恐怖心でいっぱいになりましたが、月に1回検査をして、異状なしと言われるとホッとして、すぐに飲みに行きます(笑)。

孝 明日交通事故で死ぬかもしれないし、いつ何があるかわからない。だから何があってもいいようにその時、自分はちゃんと生きているんだという満足感があれば、どこで何が起こっても大丈夫だと思っています。

「3月25日は今までの軌跡を振り返り、僕らはこれを歌って生きてきたんだという事を示したい」(孝)

――病気と闘いながらも、やはりファンを喜ばせたいという気持ちは変わらず強いですか?

2015年のコンサート
2015年のコンサート

孝 それはいつも考えています。コンサートのチケットを6,500円で買って、観に来てくれたお客さんが観終わった後、「6,500円は安かった、8,000円出してもいい」と、思ってもらえるようなコンサートにしたいといつも考えています。もうそれだけです。

進 「6,500円は高い。5,000円位かな」って言われたら1,500円返さなきゃ(笑)。

孝 世の中に役立っている仕事かと言われたらわからないけど、お客さんに「コンサートに来てよかった」と思ってもらえなければ、自分達の存在意義がないのと同じだと思っています。

進 会場でCDを買っていただける事もその表れだと思っています。コンサートが良かったから手に取ってもらえる。僕たちの歌は癒しだという声を、よくいただきます。

孝 絶対に満足してもらえる自信があるので、一度我々のライヴを是非観て欲しいです。

――3月25日のEXシアター六本木での3年遅れの45周年記念コンサートは、これまでのお二人の軌跡を辿る内容になりそうですか?

孝 今まで歌ってきた歌を、もう一回おさらいする気持ちで歌って、僕らはこれで生きてきたんだという事をお客さんに示したいです。

「今CDは、コンサート会場での”手売り”が一番売れる。僕らは”手売りキング”と自負している(笑)」(進)

――流れの速い音楽業界の中で、48年間歌ってこられて、今、音楽シーンの状況をどう見ていますか?例えばCDが売れなくなった、配信の時代になってきたと言われていますが。

孝 僕らのコンサートの後は、CDがとにかく売れるんです。

進 今CDは、手売りしか売る方法、売れる方法がないんですよ。僕らの場合はコンサートの後、会場で平均100枚は売れます。自称“手売りのキング”です(笑)。

――3月25日のコンサートは音楽はもちろんですが、MC、お二人の掛け合いを楽しみにしている人も多いと思います。

孝 そう思って、最近夜眠れない時は、ネタを考えています。お客さんに意外と思ってもらえる話をしたい。ビリー・バンバンの音楽の方向性はみんなわかってくれていると思うので、何を言い出すのかわからないところも楽しみにしていて欲しいです。

進 何を言い出すのかわからないから怖いんです(笑)。

焼酎「いいちこ」のポスターを見るだけ、二人の歌が聴こえてくるほど定着

――ビリー・バンバンといえば焼酎「いいちこ」のCMという位、すっかりイメージが定着していますが、あのCMが始まってもう約30年とお聞きしました。

進 銀座で「いいちこ」のポスター展があって、たまたま僕がゲストで呼ばれて、僕達の「さよならをするために」という曲を歌ったら、「いいちこ」の担当プロデューサーが、「いいちこ」の透明さと僕の声の透明な感じが一致すると言ってくれて。そこからのお付き合いになります。

孝 僕らの歌を若い人に知ってもらえるきっかけになりました。

――駅で「いいちこ」のポスターを見ると、自然とお二人の歌が頭の中に流れてきます。

進 そうですよね、ポスターのサイズも大きいですよね。

――完全に頭の中に刷り込まれています(笑)。

孝 「いいちこ」のイメージ戦略で、焼酎のイメージも変わったと思います。

進 3月25日のライヴでも、歌のバックに「いいちこ」のCMの映像を流すコーナーを作る事も考えています。会場内にこれまでのポスターも掲示予定なので、そこも楽しみにしていてください。

兄・孝72歳、弟・進69歳。しかしその透明な歌声とハーモニーは変わらず、“老いてなお初々しく、瑞々しい”。優しくて温かい、そして力強い。大病を経験し、打ち勝った兄弟が、自分達が元気な姿を見せる事で、病気や、その後遺症で悩んでいる人たちをなんとか勇気づけたいと、再びステージに立ち、歌う。ファンに支えられ、ファンを想う事で病魔に打ち勝ち、歌う事を続けられている事を感謝し、その45年分の感謝の気持ちを3年遅れで3月25日、“二人らしく”ファンに伝える。

画像

<Profile>

1969年、兄弟デュオ「ビリーバンバン」として「白いブランコ」でレコードデビュー、いきなり大ヒット。続く「ミドリーヌ」「れんげ草」「さよならをするために」もビックセールスを記録し「第23回NHK紅白歌合戦」にも出場。1976年に解散するが、その後復活。2008年、ビリー・バンバンが歌っている「また君に恋してる」を坂本冬美さんがカバーしCMソングに起用され、ヒット。2013年、それまでの“いいちこCMソング”全曲と新曲を収録した『iichiko CM SONG COLLECTION~これが恋というなら~』を発売。2014年、デビュー45周年記念としてオリジナルアルバム『愛という名の、自由と不自由』を発売。2016年には11月にはiichiko 新CMソングを含むマキシ CD「さよなら涙」発売。フォークグループの代表的アーティストとしてコンサートを中心に活動中。

ビリー・バンバンオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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