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男性限定ライヴに史上最高の2万3千人が集結 UVERworldが今一番熱いバンドと言われる理由

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
Photo/dRII
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「君たちはどう生きるか」(吉野源三郎著)という、1937年の初版以来長く読み継がれている、「道徳」の授業の教材にもなった子供のための哲学書と言われている名著がある。人と人とは相互に影響を与え合っている、そんな世界の中でどう生きていくべきかということを教えてくれる。時代は変わってもその内容が色褪せる事はなく、自分で考え、行動し、その責任を負う、そんな当たり前でもあり一番大切な事を質してくれている。

TAKUYA∞
TAKUYA∞
信人
信人
彰

2月11日、2万3千人の“男だけ”のライヴ『UVERworld KING'S PARADE 2017』で、何度も何度も「カッコいい生き方をしろ」とステージ上から客席にメッセージを送り、鼓舞するUVERworld・TAKUYA∞の姿を見て、凄まじい熱量を生み出すこのバンドの音を聴いて、ふとこの本の事を思い出してしまった。そう、UVERworldはデビュー以来、CDとライヴを通して全ての人に「どう生きるのか」をしっかり考えろと、強烈なメッセージを送り続けている。

UVERworldはほぼ全ての曲の作詞・曲を手がけるTAKUYA∞(Vo・Pro)、信人(B)、克哉(G)、誠果(Sax・Ma)、彰(G・Pro)、真太郎(Dr)の6ピースバンドで2005年にメジャーデビュー。これまでにシングル30作、アルバム9作(ベスト盤を含む)をリリースし、ライヴを活動の中心に置いている。テレビにあまり露出しないので“お茶の間感”はないかもしれないが、毎年アリーナツアーを行い、2010年には東京ドーム、2014年には京セラドーム大阪での公演を成功させている。今も年々ライヴの動員を増やし続けており、だからこそ男性限定ライヴ=男祭りのようなスタイルのライヴができるのだ。

克哉
克哉
真太郎
真太郎
誠果
誠果

UVERworldの男祭りは、2011年に地元・滋賀のライヴハウスB-FLATで約200人からスタート。その後、ZeppNamba(大阪)で行った際には約2000人のキャパシティを完売できなかった。しかし2013年には日本武道館に約1万2千人、2014年の横浜アリーナには約1万3千人、2015年には神戸ワールド記念ホールに約8000人の男を集め、成功させている。そして今回のさいたまスーパーアリーナには、これまで何組かのアーティストが行った同様のライヴとしては過去最高にして、日本最大となる男だけ約2万3千人を集め成功させた。ここまで彼らが大きくなってきたのは、女性ファンに支えられていたからだ。最初は女性ファンが圧倒的に多く、彼女達の口コミでその人気は徐々に広がっていった。それはメンバーも認めており、ライヴでも度々女性クルー(UVERworldのファン)への感謝の気持ちを言葉にしている。もちろん女性限定ライヴ“女祭り”も行っている。この日のライヴにも女性クルー200人を無料招待した。

2万3千人とUVREworld・6人との真剣勝負

そんな女性クルーに見守られながら、UVERworldと2万3千人の男性クルーとの真剣勝負は、ライヴスタート前から熱を帯び、野太い叫び声が会場を揺るがす。“何かが起こる”、そんなぞくぞくするような期待感に包まれていた。大歓声に迎えられメンバーが登場し、いよいよ歴史的な一夜の幕が切って落とされた。

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TAKUYA∞が「俺達の歴史的一夜が始まったぞ。誰にも止められねえぞ!」と叫び、煽ると、2万3千人の男が絶叫しながらコブシを振り上げる。TAKUYA∞の強い言葉の強度を更に上げ、聴く者の心に真っすぐに届けるのが、どこか叙情的なメロディと、緻密に構築されたアレンジ、そしてメンバー一人一人の演奏力の高さだ。その重厚でキレのある、力強いサウンドはどこまでも煽情的で、そこにいる全ての人間の体温を上昇させる。そんなサウンドと音楽に2時間以上包まれるのだから、叫びたくもなる。コブシをふり上げたくもなる。汗も吹き出し、涙も流れてくる。さらに視覚効果=照明と映像の演出の素晴らしさも、UVERworldのライヴの真骨頂だ。最新の機材を使い、圧倒的な光量で非日常的な世界を作り出す照明。ステージから向かってくるのはTAKUYA∞が繰り出す、どこまでのリアルで現実的な熱い言葉の数々。スクリーンにも歌詞をしっかり映しだし、きっちり言葉を伝える。非日常的で、幻想的な空間で聴く、血が通った生々しい言葉の数々。三位一体になっているはずなのにこのギャップ、温度の違いにやられてしまう。

ますます言葉が強くなり、伝えたい事がより凝縮されているUVERworldの歌

「一滴の影響」(2月1日発売)
「一滴の影響」(2月1日発売)

UVERworldの歌はますます言葉が強くなっている。そして伝えたい事がより凝縮されているように感じる。「その汗の一滴一滴が、素敵な明日に導いてくれるって信じようぜ」というメッセージと共に歌ったのは、最新曲「一滴の影響」。“一番いけないことはさ 自分はダメだと思うこと 誰のせいでもないことを自分のせいにしないで 立ち止まらないで”と生きるヒントを与えてくれる。力強いメッセージを湛えた歌を歌う前に、必ずTAKUYA∞はその歌で伝えたい事、歌に繋がる言葉を、はっきり投げかけてくれる。だからより歌が、言葉が伝わりグッとくるのだ。MCでもひたすら前向きな言葉で語りかけてくる。

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この日は「もう俺は、お前らのこと認めてるよ。カッコいいクルーを誇りに思う」という言葉と共に、TAKUYA∞とクルーとのエピソードが語られた。TAKUYA∞は大舞台に立つ時は、前夜から会場に泊まり込む。精神をより集中させるため、適度な緊張感をキープするために前日から会場に乗り込む。そしてそんな時でも日課である10kmを走る事をやめない。もう何年も毎日10kmを走り続けている。それはひとえによりよいパフォーマンスをクルーに見せるためだ。UVERworldのあの激しく、疾走感のある、言葉数の多い歌を2時間以上歌い続ける事は、並大抵の体力、喉の強さでは無理だ。アスリートのような強靭な体、体力、そしてストイックな生活を送ることで、可能になる。そんなTAKUYA∞の努力を怠らない姿勢をクルーは知っている。歌に命を懸けている姿を尊敬している。だからこのライヴの前日の午前2時頃、いつものように10km走ろうとTAKUYA∞が会場を出ると、一緒に走ろうと43人のクルーがTAKUYA∞を待ち構えていた。しかしTAKUYA∞はここでもクルーと真剣勝負を挑んだ。TAKUYA∞よりも速かったクルーが一人いた。「俺は42分で走って(←これもかなり速い)、でもそいつは36分で走った。バケモンか!」と嬉しそうに語っていた。TAKUYA∞を驚かせたクルーは、TAKUYA∞に影響され走り続けて530日目で、そんな彼がこの曲を聴くと、泣き崩れる事もあると紹介し、歌い始めたのが「PRAYING RUN」だ。こんなクルーとのふれあい、エピソードを紹介した後に「全部やって確かめりゃいいだろう」という言葉が印象的なこの歌を歌うと、いつもにも増して、会場全体に感動が広がっていくのが伝わってきた。

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この日だけではなくTAKUYA∞はライヴで何度も「行こうぜ!」と絶叫する。もっともっと盛り上がろう、限界を超えたところで見えてくるもがある、だから限界を超えよう、さらなる高みを目指そうと「行こうぜ!」と叫ぶその姿は、革命家のようであり、強力な求心力を持つカリスマだ。そして彼はクルーを熱狂の渦に巻き込むだけではない。「ここで見つけたパワーを自分の生活にぶつけてください。この扉の向こうに持っていかなければ意味がない」と、ただライヴで盛り上がっただけ、面白かっただけで終わらす事なく、この日感じたパワー、情熱をしっかり生活の中で使え、ぶつけろと道を説く。

気づかなかった事、わかっているけど忘れていた事、見えなくなってなってしまっている事を、彼ははっきりと言葉にし、一人一人に向かってぶつけている。まさに同志達の魂がぶつかり合い、切磋琢磨をしている時間に思える。決して順風満々ではなかった自分の人生、UVERworldとしての活動、苦労を経験しているからこそのTAKUYA∞のリアルなメッセージは、2万3千人の男はもちろん、性別、世代関係なく勇気を与えている。

”今この瞬間を大切にしろ”と何度も説くTAKUYA∞

ライヴはクライマックスへ向け、ますますボルテージは上がり、客席でもみくちゃになりながら歌うTAKUYA∞、「クルーのエネルギーが凄すぎて、持っていかれ(負け)そうになった」と終演後語っていた信人を始め、メンバー全員のテンションが上がり、演奏も歌もより情熱的になる。しかしTAKUYA∞は冷静にかつ熱く「こんなこと(ライヴ)を、永遠にずっとやっていられるはずがない。だからこの瞬間を心に刻もう」と、結成17年、デビュー12年を迎えた自分達とクルーの関係が、未来永劫続きますようにという、ただの希望的観測を語るのではなく、とにかく“今この瞬間を大切にしろ”と力強く何度も説く。そして「俺達はまだまだいっぱい叶えられることがあるって信じてる。そう思いながら生きている日々は、生きている感触しかない。2万3千人の男が集まるUVERworldが羨ましいと思っただろ。お前たちそれぞれ違う輝き方しろよ! 俺達に羨ましいって思わせろよ! オマエ達が負けずに生きていくことを信じる6人が、ここにいるからな」とメッセージを投げかけ、ラストソングの強いバラード「七日目の決意」を披露。涙を流しながら歌っているクルーもいた。

2万人3千人の男全員が肩を組み、歌う感動のフィナーレ。彼らの心にUVERworldが残したもの

アリーナもスタンドも全員が肩を組み「MONDE PIECE」を大合唱。感動の光景
アリーナもスタンドも全員が肩を組み「MONDE PIECE」を大合唱。感動の光景

しかしこれで終わらなかった。アンコールはやらない主義の彼らだがこの日は「一曲プレゼントさせてくれ。半端じゃない一体感を作ろう」といって、予定外の「MONDO PIECE」のイントロが流れてきた。クルーにはおなじみの特別な時にしかやらない歌。汗と涙にまみれた2万3千人の男達が、アリーナもスタンドも全員が肩を組んで大合唱だ。男祭りではおなじみのこの圧巻かつ感動的な光景を観て、改めてUVERworldとクルーの絆の深さを感じさせられた。そして彼らの音楽、強い言葉が、クルーの生活に潤いを与え、どう生きるべきかというヒントを与え、考えるきっかけを作り出していることも同時に感じた。TAKUYA∞は、親や学校の先生でさえ言ってくれない人生にとって大切な事を、きちんと言葉にして伝えてくれる。だからその言葉が音楽と共に心にスッと入ってきて、大きな感動となって広がっていく。この日TAKUYA∞は「今日ほど男として生まれたことを嬉しいと思ったことはない」と語り、同様にクルーの「男に生まれてよかった」という言葉が終演後にSNS上で飛び交った。

「男の大事なものを知る意味で、男に生まれてよかった」「どんな時間よりも熱くなれるし、得るものがでかい」「人生最高級にはっちゃけたライブだった!」「ライブ終わった後はずっとUVERworldが背中を押してくれてるような感じがして、男祭りは特にその感覚が強いしこれからも前向きになれる」「言葉では表現できない本当に素敵な日になりました。半端無かった!全ての情熱をUVERにぶつけられました! 必ず終わりがあるからだから真っ直ぐにやりたいことをやってさ!後悔なく生きて行きたいです」「こんだけ騒いで暴れられたら明日も絶対情熱持って走れる ありがとう」…ライヴの興奮が冷めやらぬ中での言葉ではあるが、でもそこでしっかりと“何か”を感じ取り、それを糧に歩いていくという男性クルーの熱い想いが、このライヴの素晴らしさを物語っている。

「お前達が負けずに生きていくことを信じる6人が、ここにいるからな」――TAKUYA∞の言葉が多くのファンの心の支えになっている。

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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