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【インタビュー】デーモン閣下 5年ぶりのソロアルバムは「聖飢魔IIとは全然違うものを作りたかった」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
久々のソロアルバムでは異業種との共作、新しいアプローチで新境地を見せてくれている

デーモン閣下といえば、魔暦18('16)年2月に魔界に帰還した聖飢魔IIのボーカリストだが、様々なジャンルのアーティストとのコラボレーションで注目を集め、最近は、テレビ番組で舌鋒鋭いコメンテーターとして、ご意見番としてお茶の間の人気者だ。そんな閣下が5年ぶりのオリジナルソロアルバムを3月15日に発売し、好調だ。『EXISTENCE』=「存在」「実存」と名付けられた作品は、聖飢魔IIの熱狂的信者である、芥川賞作家の羽田圭介氏、コラムニスト・ブルボン小林(=作家・長嶋有)氏、そして「テラフォーマーズ」原作者の貴家悠(さすが・ゆう)氏に1曲ずつ詞を発注。その理由は「(制作時間がタイトで)全曲書くのが大変だったから」(閣下)という、あまりにもシンプルな理由だった……。しかし3氏が繰り出す変幻自在な言葉の数々は、新たなメロディとリズムを生み出し、閣下の世界観に新しいグルーヴをもたらせた。スウェーデン人プロデューサーのアンダース・リドホルムと共に作り上げた、ハードロック、ヘヴィメタルだけにとどまらない様々な音楽が詰まったアルバムの制作秘話から、音楽シーンに対して思う事まで、色々と話を聞かせてもらった。

「(ソロアルバムは)当たり前だけど聖飢魔IIとは違うもの、ソロらしさがグッとでるものを作りたかった」

――5年ぶりにソロアルバムを作ろうと思ったきっかけから教えて下さい。

閣下 機会があればいつでも作ろうと思っているけど、なかなか機会に恵まれないのと、魔暦17(2015)年には聖飢魔IIが再集結した事もあって、そっちが忙しくてソロアルバムまで時間が回らなかったという事だね。

――聖飢魔IIの活動をしながら、ソロ活動のために楽曲を書いたり、準備は……。

閣下 あまり器用なタイプではないので、見た目ほど(笑)。他の事をやりながら違う作品の事を考えるというのは、できないね。

――ソロを出しましょうという話が出てから、構想を練って集中して詞も曲も書いた感じですか?

閣下 そうできれば一番いいんだけど(笑)。去年の春から動き始めて、アルバム作りというのは本来集中してできるのが理想だけど、その間、色々なコラボレーションに誘われて、しかも毎月のように全く違う種類の音楽とのコラボがあって、中には演劇もあり、まあそれらの方がアルバム制作より先に決まっていたのだからしょうがない、そんな合間合間に少しずつ進めていったという感じ。暮れまでは集中できなかった。

――色々なところから声がかかるという事は、やっぱり器用と思われているという事ですよね。

閣下 単発のコラボは得意だな(笑)。

――色々な事に興味があるんですよね。

閣下 そう。どれも楽しくやっているんだけど、はたと気がつくとソロアルバムの曲が一曲もできていない事に気づき、制作の話が出てから結局半年間手付かずだった(笑)。

――とはいえ、お忙しいので年が明けてもこれにかかりきりというわけにはいかなかったんですよね?

閣下 そうだね。この忙しい時(インタビューは1月28日)に新横綱(稀勢の里)が誕生したから(笑)、毎日相撲の取材を受けている。受けなきゃいいんだけど(笑)、でも5分だったらいいんじゃない?10分だったらいんじゃない?と受けていたら、その蓄積が自分の首を絞めているという。

――ソロアルバムを作ろうと思った時、テーマはすぐに浮かんだのでしょうか?

閣下 当たり前だけど、まずは聖飢魔IIとは違うもの、ソロらしさがグッと出るものをやりたかった。

「世の中に対して積極的に言いたい事が少なくなっている気がする。エッセイ的な歌詞は飽きた」

――バラエティに富んでいて、濃いアルバムです。

閣下 濃さはあるよね。でももっとバリエーションをつけたかった。自分的にはまだまだ物足りない。もうひと息行きたかったね。

――時間があれば、という事ですか?

閣下 その通り(笑)。力及ばずで、体力の限界(笑)。

――千代の富士の引退コメントですが…。デーモン閣下の書きおろし曲の他に、色々な方に詞を書いてもらっていますが、これはどういう経緯からですか?

閣下 最近吾輩は、詞を書くのに苦労していて(笑)、世の中に対して積極的に言いたい事がだんだん少なくなってきているからかな。今まで散々色々な事を言ってきたので、歌詞という形で言葉を表現するにあたって、手を替え品を替えやってきていて、よっぽど新しい何か言いたい事が生まれない限り、ゼロの状態から詞を書くというのは極めて難しい作業だ。世の中に物を言いたいという状況で、要はエッセイ的な歌詞は飽きたね。エッセイは書けるけど、エッセイのような詞には今興味がなく、じゃあそれに代わるものと考えた時、それはファンタジーものだと思う。ファンタジーものはひらめきがあるとスムーズに書けるかもしれないけど、これもそう簡単にはひらめかない(笑)。音楽を作る事と歌を作る事は微妙に違っていて、吾輩のようなソロのヴォーカリストのアルバムを作るという事は、歌を作ることだ。例えば必要だとは思うが、カッコいいギターやドラムが聴こえてくるものは、そんなに作る必要はない。

――声も変わらず圧巻ですが。

閣下 声の出し方が変わったかな。力まない歌い方というか。CDで聴くと相変わらず高い声が出ているように聞こえるかもしれないけど、全体の声の音量はやっぱり下がっている。衰えている部分はもちろんあるけど、その分熟練してきている部分もあって、今そのバランスが取れていると思う。

――歌っていますし、テレビのレギュラー番組が多くて、あれだけしゃべっていて、そういう意味では喉を酷使していますよね。

閣下 だからこういうインタヴューの席とかテレビ以外では極めて無口だね(笑)。

――そんな事ないと思いますが(笑)。

閣下 酒を飲んでいる時のように、自分が楽しんでいる席は別だけど(笑)。それ以外の場所ではひと言もしゃべらない事も多々あって、喉は一回痛めると、それが回復するまでに時間がかかるから、かすり傷と一緒で、だから傷を作らないよう心掛けている。

「プロデューサーのひと言がきっかけで筆が進んだ。うまい事操縦された気分」

――アルバムの話に戻ります。1曲目の「ゴールはみえた」は詞を読んでいると、応援歌のように力づけてくれる言葉が並んでいます。

『EXISTENCE』(3月15日発売/初回生産限定盤)
『EXISTENCE』(3月15日発売/初回生産限定盤)

閣下 先ほどの話に繋がるが、歌うテーマがなかなかみつからないので(笑)、その話を日本の総合プロデューサーとしていたら「閣下は映画やアニメのテーマ曲を書くのはすごく得意なのに、どうぞ自由に書いてくださいというと筆が進まないので、そういうのを一曲ずつ考えてみよう」という話になり。だからこの曲は例えばどんな物語の事をモチーフにしたらいいかを、まず初めに考えてから書き上げた。

――例えば「ゴールはみえた」は何をモチーフにしたのですか?

閣下 そんなの教えられないだろ(笑)。教えると「あー、あれね」ってなるし。モチーフが物語とは限らない。この人の生き様を書いたらどうなるんだろうとか、人の場合もある。

――その手法でスラスラ書けたんですか。

閣下 驚くくらいね。「うまい事操縦されたな」という感じだね。そういう意味では新境地だね。

閣下から羽田圭介氏、ブルボン小林氏、貴家悠氏への詞の発注方法とは?

――聖飢魔II信者の、芥川賞作家の羽田圭介氏、コラムニスト・ブルボン小林氏、「テラフォーマーズ」原作者の貴家悠氏が詞を書いていますが、発注の際は内容に関して、細かいリクエストはあったのでしょうか?

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閣下 いいえ。そもそも「書いてもらえる?」というところから入って、ギャラは払わないよと(笑)。印税だけだけど、やる?と都合のいい話をさせてもらって。一作家としてお願いしたい、やるやらないはあなた次第と言ったかな。

――断らないとわかっていて発注していますよね(笑)。しかも芥川賞作家に。

閣下 いやいや断る自由は向こうにあるわけで(笑)。次に、詞先か曲が先かという問題は、詞が先の方が自由で縛りがないからいいと思っていると伝え、なんの縛りもないところで、吾輩にこういう言葉を歌わせたい、というところからスタートしたいと話して。でもメロディがある方がやりやすいなら、先にメロディを渡すけどどうする?と。

――それに対して3人の反応はどうでしたか?

閣下 もうひとつ説明があって、3人共メジャーレーベルから出る音楽に歌詞を書くのは初めてで、要は新人なので、書いてもらったものに対して、例えば言葉数が多いとか、メロディに合わないとか、細かい修正は要求するかもしれないけど、よっぽどの大問題がない限り、あなたが書いてきたものをそのまま採用すると言った。常識的にポップスの範囲内での言葉の数にしてもらうけど「いや、絶対面白いから歌うのに20分かかる言葉を書く」というのであればそれでもいいよと。

――話を聞いていると、縛りがあるのかないのかがわからない発注の仕方ですよね。

閣下 ま、そういう事だね。それでどんなに「これはないだろう」というものが上がってきも、必ずアルバムには入れると(笑)。

――そもそも3人は閣下から話をもらい、光栄なわけですよね。だから言い方が悪いかもしれませんが、“言いなり”ですよね(笑)。

閣下 自分からはそうでしょうねとは言えないけどね(笑)。

――テーマは自由と言われて、3人は困ったのか、それとも腕が鳴った感じでしょうか?

閣下 大変だったと思うよ、そんな事急に言われてね。

――閣下がそうですよね。

閣下 その通りだ(笑)。自分が一番やりたくない事をやってもらった。いや、もしキーワードをくれと言われたら、出していたと思う。でも彼らは歌詞を書くのは初めてかもしれないけど、ゼロから物語を作り上げる事に関してはプロだから。いわゆるキーワードを探すプロで、羽田君が書き終わった後「形式は違うけど、小説を書く事と作業としては同じだと思った」と言っていたね。

――閣下と羽田さんの公開レコーディングの模様が、ワイドショーなどで取り上げられていましたが、閣下が歌っている横で、羽田さんがぽつんと座っているという、インパクトがある画でした(笑)。

羽田圭介氏とデーモン閣下の公開レコーディング
羽田圭介氏とデーモン閣下の公開レコーディング

閣下 シュールなね(笑)。羽田君がこれから大作家になった時に、ほじくり返されたい画だね(笑)。

「羽田君の詞に、自分の世界が”リフォーム”された感じ」

――その羽田さんが書かれた「Stolen Face」について、上がってきた時まず感じた事を教えて下さい。

閣下 彼は聖飢魔IIの大ファンで、聖飢魔IIのこういうところが好きなんだ、という事がわかった。それで言葉の並びが凄く生真面目で、意外だなとも思ったかな。社会の事をバサッと切る曲は聖飢魔IIの曲にはたくさんあって、だからある意味吾輩のイメージの王道をいっていると思う。でも吾輩にはない語彙があったから自分の世界が『建て直し』ではなくリフォームされた感じであった。

「自分では絶対書けないと思ったブルボン小林の詞。聖飢魔II愛に溢れていた」

――ブルボン小林さんの「方舟の名はNoir」はいかがでしたか?

閣下 こういう切り口で来たか、と新鮮だった。自分では絶対書けない詞なので、吾輩は今まで何百曲も書いてきたけど、そう他者が書けない詞はどういうものだろう、と彼が考えたのかなと思った。それと、聖飢魔II愛に満ち溢れている事を表現したかったのかな、とか。詞をもらって、こっちはもう歌入れしているのに「ここを変えたい」と最後まで抵抗、いや、こだわっていたな(笑)。

「貴家悠の強い家族愛を感じる詞は、起承転結が見事で、曲を書くのに悩んだ」

――貴家悠さんの「地球へ道づれ!」はいかがでした?

閣下 面白かった!どういう曲にしようか悩んだね。起承転結の付け方が見事だった。

――色々モノ申しているけど、最後は希望が残るという。

閣下 そう。強い家族愛の歌なんだよね。ものすごい遠回しな息子へのメッセージで、最後は感動的で。アンダースに詞を全部英訳して送らなければいけなくて、ニュアンスもわかってもらわないといけないので、最初ローマ字にして送ったら「とにかく長い」と言われ。「同じ事の繰り返しで、これだとアレンジできないからできればガッツリ削りたいと」言い出して。吾輩は、ダメなんだよ、この詞は削ったら意味がないんだよと言って、2~3日後に翻訳して送ったら「なるほどね、ずいぶんと個性的な歌詞だね」って(笑)。そこからは削ろうと言わなくなったね。

――資料に“12曲それぞれが異なる世界観を放ち、まるでミュージカルのような展開”とありますが、確かにコーラスが厚くて、ミュージカルのような壮大なアレンジの曲があったり、AORの匂いがするものがあったり、能を取り入れた「深山幻想記-能Rock-」はプログレッシブロック調で、色彩豊かです。

閣下 アンダースのスタイルがそうなんだね。どんなに単純な曲でもくどくなるという(笑)。もう彼とはちょうど10年間一緒にやっているけど、最初はロックの曲をドラマティックにアレンジしてくれる人を探している中で出会ったので、彼に依頼することイコール、ドラマティックなアレンジにしてくれと言っていることなんだよね。オーケストレーションとバック・ヴォーカルの使い方が卓越している。

「今の音楽シーンでは、アルバムを作るというのは古い考え方なのかもしれない」

――そうですね、生でもシンセでもオーケストラアレンジが見事ですよね。ちょっと話が飛躍しますが、音楽シーンはこれからどうなっていくと考えていますか?

閣下 作品という概念が変わってきていると思う。昔は作品というとアルバムをしっかり作る事が作品作りと言われていたけど、もう必ずしもそうじゃないと思う。別にアルバムを作らなくても、コンスタントに一曲ずつ出していくのも作品作りだし、むしろアルバムを作るというのは、古いやり方なのかもしれない。だけど一方で、配信だけではなく、定期的にまとめて形に残していくという事は必要な作業だと思う。よく考えるとレコードがない時代、例えばモーツァルトなどオペラを作っている人達の音楽は、譜面を提出して、演奏してそれで終わりで、音という形には残っていなかった。そういう時代に近づいているのかもしれない。それと今の若い人達は、長時間同じアーティストの音楽を聴けなくなってきている気がする。なんか年寄りみたいな事を言ってしまったけど(笑)、だから「3曲目にすごくいい曲を置こう」というのは、無駄な作業になるという事だな(笑)。

――このアルバムをリリースして、ツアーを回っていると、今年も上半期が終わってしまいますが、その後はどんな活動が予定されていますか?

閣下 昨年同様、色々な方とのコラボレーションが来年前半までもう決まっていて。

――自分がやりたいものをソロアルバムとして出し、ライヴをやり、その次は自分が興味がある人、事とコラボレーションを楽しむ。表現者としては、人も羨む理想的な活動だと思います。

閣下 そう思って生活するようにするよ(笑)。

――なんでもできる強みです。やっぱり器用なんですね。

閣下 なんでもはできないけど、意外とできる事が多いというか。違うフィールドの人達と何かやって、お互いがダメにならないように、うまく共存するポイントを探すのが得意なのかもしれない。幸い、どれもお互いが「楽しかったね」と満足して終わっているので、ありがたい事にシリーズ化していくものが多いね。でもいっぺんに複数異種の『もの作り』は苦手だから、そこは不器用なのだ。稀勢の里が恋愛出来ないのと一緒なのだ…あ、ちょっと違うか。

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<Profile>

魔暦前14(1985)年にロックバンドの姿を借りた“悪魔集団”聖飢魔IIの歌唱・説法方として地球デビュー。魔暦前10('89)年、大教典(アルバム)『WORST』でハードロック / ヘヴィメタルジャンルでは初のアルバムランキング1位を記録し、「NHK紅白歌合戦」に初出場。魔暦前5('94)年、富士写真フィルム「写ルンです」CMに出演し、話題に。魔暦前9年('90)年に、初のソロアルバム『好色萬聲男』をリリースし、魔暦7年('05)年には、デビュー20周年を記念したベストアルバム『LE MONDE DE DEMON』を発売。魔暦9年(2007年)年に発売した女性アーティストの名曲のカバーアルバム『GIRLS' ROCK』が好評で、現在までに4作発表している。能や狂言など、和の伝統芸能とのコラボレーションは30年間続いていて、現在までに100回以上展開中。様々な分野で活躍しており、魔暦19('17年)3月15日に、約5年ぶりのソロアルバム『EXISTENCE』をリリースした。

デーモン閣下オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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