Yahoo!ニュース

日本人だけじゃないーニッポン一億総活躍プラン外国人関連施策

田中宝紀NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者
迎え入れるは「労働力」ではない「生活者としての外国人」(写真:アフロ)

少子高齢化への強い危機感が垣間見える「一億総活躍プラン」

政府が一億総活躍社会のプランを発表しました。

大きな目標として、「名目GDP600兆円」「希望出生率1.8%」「介護離職ゼロ」を掲げ、この目標達成のために、働き方の改革や同一労働・同一賃金などを盛り込んでいます。プラン原文を読むとわかるのですが、約100年後には人口5,000万人を切ると言う推計を元に、少子高齢化に対する強い危機感が感じられます。(「ニッポン一億総活躍プラン(案)」はこちらのリンクから閲覧可能です)

高齢者にも、女性にも、障害のある方にも、未来の大人である子ども達にも「活躍(労働/消費)」してほしい。子育てしながらでも、介護しながらでも働き続け、消費し続けてほしい。そんな政府の声が、このプランからは聞こえてくるかのようです。(もちろんそれだけではないのですが)

「日本人以外」にも活躍してほしい!?

そしてこのプランにおいて、日本政府が「活躍」を願うのは日本人だけではありません。

保育や介護と言った注目の大柱に隠れ、埋もれがちですが、このプランの中では「外国人定住促進」が盛り込まれていて、日本で働く外国人人材だけでなく、その家族が日本国内で暮らしやすい教育や医療等、生活環境の整備について言及されています。

経済産業省が今年、2016年3月に公表した『「内なる国際化研究会」報告書』によると、外国人留学生の約7割が日本での就職を希望しているにも関わらず、実際には3割しか就職できていないことや、外国人人材の約51%が日本で働く事について魅力的ではないと考えているなど、いわゆる「高度人材」の獲得競争で韓国や中国を含む諸外国から日本が後れを取っていることが明らかになりました。

外国人人材は一億総活躍プランにおいて、「経済社会のイノベーション力を強化」するため、日本の成長を担う人材の一部として位置づけられています。海外の成長市場を取り込むことで新しい成長路線を目指すと言った経済戦略の中でも、外国企業を呼び込むために、日本は魅力的な事業・生活環境整備の必要性が挙げられており、日本に「(あなたが望むなら)来ていいですよ、働いていいですよ、住んでいいですよ」という印象の強かった過去と比べると、政府としての「日本のために長期にわたり”活用”したい」との立場が、明確に示されたように見えます。

具体的には、外国人高度人材が永住権を取りやすくしたり(「日本版高度外国人材グリーンカード」の創設)、外国人留学生の就職率を現在の3割から5割へ引き上げるために、特定のプログラム修了者には在留資格取得の優遇を行うことなどが盛り込まれ、さらに外国人患者受入態勢が整備された医療機関など、外国人の生活に不可欠な環境を整備することに加え、その子ども達のための教育にも言及されました。

「労働力」「デカセギ」としての外国人から「生活者としての外国人」へ。実際には数年前から見られてきた傾向ですが、政府全体としては大きな視点の移り変わりです。

実際に「生活」を共にするのは私たち。学ぶべきは「先輩外国人」

いわゆる高度人材だけでなく、介護、製造業、製造業以外の成長分野への外国従業員受入事業拡大も示唆され、さらに外国人観光客の呼び込みも・・・経済界はともかく、実際に隣人として生活を共にする私たちや彼らへの視点を、このプランで見出す事はできませんでした。

熊本・大分の震災では、外国人観光客や外国人住民が、言葉の壁や情報の壁から不安を抱える事になりました。全国の公立学校では今でも37,000人の日本語指導が必要な子どもが在籍していますが、日本語教育機会の有無やその質と量には自治体間で大きな格差が存在し、何の支援もない自治体の学校では子どもも教員も、どうしたらよいのかわからず困惑しています。医療通訳はその絶対数が不足していると同時に、ボランティアで担われる事も少なくない現状で、患者のプライバシー保持や通訳者の質など、命を左右する現場にとっては不安要素が残ります。

外国人の方々が日本で働きたい、住みたい、住み続けたいと思えるような「環境の整備」や関連する諸施策の実施を否定するものではありませんが、外国にルーツを持つ方々の苦しい現状を垣間見る立場としては、焦りの中でドアを開け放ってしまう前に、日本で長年暮らし、日本人社会と共生してきた、いわば「先輩外国人」の方々の経験や知見に耳を傾けてほしいと思っています。

新たに来日する外国人住民にとっての暮らしやすい環境の整備が、現在の定住外国人の環境改善につながるという側面もありますが、逆に、現時点で発生している諸課題の解決に優先的に取り組む事で、新たに日本で暮らそうとする外国人住民の方々の環境をも整備する。後者はより多くの時間を必要としますが、過去に学びながら、より適切な施策を見出す事ができます。

「プランありき」ではなく、未来のために丁寧な議論を

誰もがそれぞれの人生を豊かにするために安心して学び、働き、生きることができる。そんな未来を子ども達に手渡したい。今回のプランに書かれた基本的な考え方は美しく、そうであったら良いのにと切に願う反面、現実的には各メディアが報じているように財源の課題、実現への道筋のあいまいさに不安が残ります。

私が取り上げた外国人の方々の定住促進など、一般の方々からは見えづらく情報の届きづらい、全体的議論が不十分と感じられるものが盛り込まれている点も含めて、「プランありき」で生活者を置き去りにする事がないようにしてほしい。そのためにも、小さな力ではありますが、外国にルーツを持つ方々の日本での生活を身近でサポートする者の一人として、生活者の一人として、発信を続けていきたいと思っています。

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者

1979年東京都生まれ。16才で単身フィリピンのハイスクールに留学。 フィリピンの子ども支援NGOを経て、2010年より現職。「多様性が豊かさとなる未来」を目指して、海外にルーツを持つ子どもたちの専門的日本語教育を支援する『YSCグローバル・スクール』を運営する他、日本語を母語としない若者の自立就労支援に取り組む。 日本語や文化の壁、いじめ、貧困など海外ルーツの子どもや若者が直面する課題を社会化するために、積極的な情報発信を行っている。2021年:文科省中教審初等中等分科会臨時委員/外国人学校の保健衛生環境に係る有識者会議委員。

田中宝紀の最近の記事