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外国人少ない地域で、日本語がわからない子どもを支えるーICT活用も視野に勉強を後押し

田中宝紀NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者
日本語がわからず、孤独な学校生活を送る子どもが全国2,681の公立学校に在籍(写真:アフロ)

現在、全国の公立小中高校、特別支援学校には37,000人の日本語がわからない子どもたちが在籍しています。そのうちの半数が主に愛知県や東京都、神奈川県、大阪府など外国人が多く暮らしている地域に暮らしている一方で、残る半数は、地域に外国人があまり多くない「散在(さんざい)」と呼ばれるエリアに住んでいます。

こうした外国人の少ない地域に暮らす日本語がわからない子どもたちは、地域内の学校に1人、2人と点在していますが、自治体には予算や人材が十分になく、中には日本語の支援をまったく受けていない子どもも存在しています。

外国人散在地域に暮らす日本語がわからない子どもたちに対して、自治体や学校での支援が行き届かない中、地域ではどのようなサポートが行われているのでしょうか。

手弁当のあたたかな支援、課題はアクセス

外国人散在地域である、東北地方のA市で活動を行うボランティアの教室は、月2回、日本語がわからない子どもや海外にルーツを持つ子どもたちに支援を提供しています。教室には主に中国やフィリピンなどにルーツを持つ子どもたち、17名が登録し、地域のボランティアが担当制で日本語や学校の教科などの指導を行っています。

外国人散在地域でのボランティア教室。絵本の読み聞かせに子どもたちが見入っていた
外国人散在地域でのボランティア教室。絵本の読み聞かせに子どもたちが見入っていた

日本語教室の開かれる日、市から活動日に無償で提供されている教育センター内の活動室には、次々とボランティアや子どもたちが集まってきます。子どもやボランティアの中には、隣接する自治体から1時間以上かけて通ってくる人たちもいます。

子どもたちは授業がはじまると、担当のボランティアと並んで座り、日本語の会話を学んだり、漢字の書き取りをしたり、高校進学を目指して数学の文章題に取り組んだり・・・それぞれのニーズに応じた課題を進めていました。途中、おやつタイムや絵本の読み聞かせなども行われ、終始、教室はにぎやかな声に包まれていて、子ども達が安心して過ごしている様子が伝わってきました。

この日本語教室が開催されている場所はA市の中心部ですが、東京23区を合わせた面積より広い市内で、離れた地域に暮らす日本語を母語としない子どもたちが1人で電車やバスを乗り継いでやってくるのは困難です。このため、この教室に通う生徒はそのほとんどが、保護者の車による送迎で来ています。

逆に保護者が仕事などで送迎できない場合は、市内でたった1つの日本語教室に足を運ぶことができません。他の自治体にある支援活動では、豪雪地帯のため冬の時期は活動を休止するところもあると言います。

外国人散在地域の課題は交通インフラや気象状況など、環境面による影響も小さくありません。

行政と学校の課題は

一般的に、日本語の日常会話ができるようになるまでには1年~2年の時間が必要だと言われています。加えて、学校の勉強が理解できるくらいの日本語の力は5年~7年の勉強をしないと身につきません。

この日本語教室を主宰する代表の方によると、散在地域の自治体や学校では、日本語がわからない外国にルーツを持つ子ども達との出会いが限られ、その分、こうした子ども達に対する支援の経験値やそのノウハウなどが蓄積しづらい状況にあると言います。

こうした「積み重ね」が成立しづらい状況が、結果として不理解につながり、体制の整備が進まない可能性に加え、小さな自治体ゆえにごく少人数しかいない外国にルーツを持つ子どものための人材や予算の可能性が難しいことが、2重・3重に壁となって立ちはだかっている状況です。

民間の支援機会も限られる中で・・・

A市で活動するボランティア教室では月2回の支援を行っていますが、団体代表者は「子ども達のニーズに応えきれていないが、現在はこれが精一杯」と言います。

周辺地域では民間の日本語学校も少なく、学校での支援も乏しい中で、子ども達の日本語の力を十分に育むことができない現状をなんとかしたい・・・ボランティア団体では現在、ICTを活用した様々な支援の利用を前向きに検討しながら、子ども達の学びの機会の確保に乗り出しています。

ICTを活用した日本語教育機会の拡がりは・・・

近年、ICTを活用した教育機会は拡大の一途にあり、多数の教育サービスが無料、有料で展開されています。日本語教育に限って言えば、成人学習者を主な対象としたものであれば、オンラインでのマンツーマンレッスンやグループレッスンを提供しているサイトは多数ありますし、日本語学習者が使えるアプリも充実してきています。

一方で、子どもの日本語学習をサポートする目的で製作されたサイトやコンテンツはあまり多くはなく、いずれも「支援者がそのサイトへアクセスし、教材などをダウンロードしたり、情報を得る」形式のものがほとんどで、それ以外は海外子女向けに展開されているものが少数存在している程度で、まだ未開拓という印象です。

政府による教育再生実行会議では、外国人が少ない地域の日本語の力が十分でない子どもたちの教育に、デジタル教材などのICTを積極的に活用する提言も出されています。

今後、テクノロジーが、こうした地域の子どもたちの教育機会拡大のためにどれだけ貢献できるのか、公的な支援だけでなく民間の動きも含めて、引き続き動向に注目していきたいと考えています。

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者

1979年東京都生まれ。16才で単身フィリピンのハイスクールに留学。 フィリピンの子ども支援NGOを経て、2010年より現職。「多様性が豊かさとなる未来」を目指して、海外にルーツを持つ子どもたちの専門的日本語教育を支援する『YSCグローバル・スクール』を運営する他、日本語を母語としない若者の自立就労支援に取り組む。 日本語や文化の壁、いじめ、貧困など海外ルーツの子どもや若者が直面する課題を社会化するために、積極的な情報発信を行っている。2021年:文科省中教審初等中等分科会臨時委員/外国人学校の保健衛生環境に係る有識者会議委員。

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