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共生社会に近づくためにー改めて考える「外国にルーツを持つ子ども」という呼び方のこと

田中宝紀NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者
多様化する日本の子どもたち。これから、どんな未来を残していけるだろうか(写真:アフロ)

聞いたことがありましたか?「外国にルーツを持つ子ども」という表現を

こう問いかけると、「はじめて聞いた」「知らなかった」という方が少なくありません。おそらく、なんとなく「ハーフ」や外国人の子どものことかも、というイメージはつかめる方もおられると思いますが、一般には認知度の低い専門用語です。

明確な定義がなされていないこの用語を筆者が使用するとき、それは、

  1. 外国籍である
  2. 日本国籍(または二重国籍)であるが、保護者のどちらかが外国出身者である
  3. 国籍はないが、保護者の両方またはどちらかが外国出身者である
  4. 海外生まれ・海外育ちなどで日本語が第1言語ではない

あたりの範囲を含み、主に、子どもや若者年齢について表すことが大半を占めています。外国人や外国にルーツを持つ子ども・若者等、多文化共生に関わりのある支援者や関係者の間では、上記の定義はおおむね共有されています。

一方で、同じ定義(あるいは同じような定義)の範囲で支援活動などを行っている関係者の間でも、地域差・個人差、定義の差や支援哲学などでその「呼び方」は様々に異なっており、しばしば議論の対象となります。

例として子どもに関する主だった呼び方を以下に挙げてみます。

  • 外国にルーツを持つ子ども
  • 外国につながる子ども
  • 外国につながりを持つ子ども
  • 日本語を母語としない子ども
  • 外国人(籍)児童生徒
  • 帰国・渡日児童生徒
  • 国際児
  • 移動する子ども
  • JSL児童(JSL=Japanese as Second Language、日本語を第2言語として学んでいる子ども)
  • CLD児(CLD=Culturally Linguistically Diverse (Children)、文化的言語的に. 多様な背景を持つ子ども)

*「子ども」と「児童生徒」は置き換えられて使用されることも

これだけでもかなりたくさんの呼び方が出てきました。これ以外にも「外国由来の子ども」と言った表現や、「多文化の子ども」と言う表現などもみかけたことがあり、統一された呼び方の不在ということ自体が、こうした子どもたちにまつわる現状を端的にあらわしているようにも思えます。

当事者は自らをどう呼んでいるのだろうか

特に日本人と外国人の親御さんを持つ子どもたちについて、「ハーフ」と呼ぶか「ダブル」と呼ぶかの議論があることは聞いたことがあるかもしれません。

「ハーフ」では文字通り半分というネガティブな意味合いが含まれると捉えることもできるため、どちらも、という意味で「ダブル」を好んで使う当事者や支援者の方々もいます。

また、インターネット上では「Mixed Roots (ミックス ルーツ)」や、(あえて、の使用かもしれませんが)コミュニティ名に「Gaijin」をつけているグループも見られます。

筆者の周辺の子どもたちに限って言えば、

「うちらハーフだし」

「親がガイ(コク)ジンだからさ」

というような会話はよく飛び交っているところで、これらの表現は自虐的に使用されることもあれば、肯定的に使われることもあり、こうした言葉について白黒をつけていない(知らない)状況の子どもが多い印象です。

一方で、「うちら”外国にルーツを持つ子ども”だし」「親が”日本語を母語としない”から」というような言い回しは、当事者である子どもたちの口から発せられることはなく、外国人保護者からもこうした言葉が出てくることもあまり多くはありません。(「外国にルーツを持つ」という言葉にも、ネガティブな印象になるので避けるべきという意見もあります。)

この呼び方の在り方を図にまとめてみると(これが全てではありませんが)おおむね、外国にルーツを持つ子ども・・・に並ぶ一連の表現は、支援者や研究者や行政やその他関係者が、当事者を何らかの(支援や研究の)対象と捉えるときに使用される専門用語であることが伺えます。

立場や状況別にみた、「外国にルーツを持つ子ども」関連用語
立場や状況別にみた、「外国にルーツを持つ子ども」関連用語

(上図には、縦軸に子どもたちの支援に関わっている方などが呼ぶ呼び方と、あまり接点のない一般の方々や外国にルーツを持つ子どもたち自身が自らを指し示すときの呼び方を。横軸にはその存在、所属、バックグラウンドを主にあわらす呼び方と、言語的な状況について言及される際の呼び方を並べてあります)

”事実上の移民”

法務省の統計によると、2016年6月末の時点において、日本国内で生活をする在留外国人(中長期在留者数と特別永住者数を合わせた外国籍の方々の数)は230万人を超えました。外国人や外国にルーツを持つ方々が増えている実態を、肌で感じることも増えてきたのではないでしょうか。

さらにこの内の半数以上が定住・永住の資格を持つ方々で占められており、「デカセギ」が主流であった時代の終焉は、全国的に指摘されるところとなりました。彼らは、その呼び方の多様性について紹介してきた外国にルーツを持つ子どもや若者も含め、国籍を問わず、日本社会の一員として生活を営んでいます。

「外国にルーツを持つ…」や類似表現も含め、曖昧な呼び方が数多く支援者によって作り出されるほどに、日本社会の中には明言を避ける空気が存在してはいるものの、こうした人々は国際的な定義と照らし合わせても、事実上の移民や移民の子どもにほかなりません。

共通点を見出すあたたかさで、共に生きる社会への一歩を踏み出したい

現在、かつて「外国にルーツを持つ子ども」であった若者たちが、日本国内で家庭を築き、次世代を育み始めています。第1世代である外国人保護者世代の高齢化とその対応が議論となるような時代に入り始めてもいます。同じ社会に共に生きている人々の多様化は進み、時間は流れ続けています。

あらためて呼び方の議論が必要だと感じる理由は、こうした実態にも関わらず、社会が多様な人々が暮らしているという共通認識を持ち得ておらず、当事者にすら認知されていない呼び方で、(筆者を含めた)ごく一部のアンテナの高い人々だけが共有していることへの危機感が源泉となっています。

台湾にルーツを持つ作家、温又柔(おん ゆうじゅう)氏は、著書のタイトル「台湾生まれ・日本語育ち」(白水社)にもあるように、多様な背景を前提とした共通点を見出し、「日本語で育つ子ども」と表現しました。

現在進行形で世代継承がなされ、2世、3世(ルーツによっては4世、5世)が成長しちつつある今、あらためてこうした多様な背景を持つ人々が存在する日本社会の実態を踏まえ、その呼び方(存在)を当事者と共に議論し、可視化ていく事が、共生社会への重要な一歩となるのではないでしょうか。

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者

1979年東京都生まれ。16才で単身フィリピンのハイスクールに留学。 フィリピンの子ども支援NGOを経て、2010年より現職。「多様性が豊かさとなる未来」を目指して、海外にルーツを持つ子どもたちの専門的日本語教育を支援する『YSCグローバル・スクール』を運営する他、日本語を母語としない若者の自立就労支援に取り組む。 日本語や文化の壁、いじめ、貧困など海外ルーツの子どもや若者が直面する課題を社会化するために、積極的な情報発信を行っている。2021年:文科省中教審初等中等分科会臨時委員/外国人学校の保健衛生環境に係る有識者会議委員。

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