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外国人との共生社会へー新成人世代こそが担える役割とは

田中宝紀NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者
外国人がいて「あたりまえ」の経験をより多く積み重ねてきた新成人だからこそ(ペイレスイメージズ/アフロ)

外国籍新成人は約7%

2017年1月、成人の日を迎える新成人は123万人(出典:「人口推計」総務省統計局)。この123万人の中には、約87,000人の外国籍を持つ新成人も含まれています。(*) 

日本国籍を持っているけれど、両親またはどちらか片方の親が外国人である、「ハーフ」や「ダブル」の方々の数を把握することができませんが、こうした若者を合わせて「外国籍または日本国籍を持つ日本語を母語としない新成人の数」、とすると、もっと多くなることが考えられます。

2017年、外国籍の「新成人」たちはどのような若者たちなのか

* 最多は留学生

下のグラフは、016年6月末の時点で日本国内に在留する19歳と20歳の外国人約87,000人が、どのような在留資格で日本国内に滞在しているのかを表しています。

日本人の20歳の若者が外国へ長期間にわたって滞在する際は「留学」がメインの渡航目的となると思いますが、日本で暮らしている20歳の外国籍の若者たちの間でも、日本滞在の資格として最も多いのはやはり留学生でした。その数、全体の45%に上っています。

大学生や専門学校生の新成人の皆さんのまわりにも、20歳を迎えた外国籍新成人は比較的多いのではないでしょうか?

* 事実上の「移民」―永住・定住者

また、1つ1つは大きな割合ではありませんが、永住者、日本人の配偶者等、定住者、特別永住者など、日本国内に長期にわたり生活が可能で、働くことに制限のない資格を持つ新成人の割合を合わせると約27%となります。

ちなみに、国際的によく使われている定義では、ある国に12ヶ月以上継続して滞在する人のことを「移民」と呼びます。

日本国内では、この「移民」という言葉は避けられているため、どこか他人事のように感じるかもしれませんが、他の世代同様、新成人の中にも、日本社会を共に支え、作り上げて行く移民の若者が少なからず含まれている、ということはもうハッキリと言っても良いくらいの状況です。

2017年新成人在留資格内訳
2017年新成人在留資格内訳

* 留学生でも移民でもない、技能実習生

留学生と永住・定住者の他に大きな割合を占めているのが、「技能実習」の資格です。

この技能実習という資格は、日本政府が、開発途上国の人々を来日させ、日本国内の農業や漁業、繊維業、建設業など272の職種において、一定の年数、実際に「実習」することで、日本の技術を開発途上国に持って帰ってもらい、その発展に貢献してもらおうという国際協力の一環として設けている滞在資格(ビザ)です。

こうして書くと、とても良い制度に見えますが、この技能実習の制度には「現在の奴隷制」との批判があり、表向きは国際貢献をうたってはいるものの、実際には不足する労働力を、外国から確保するための手段であると言われています。

安い労働力として受け入れられた外国人実習生の中には、パスポートを取り上げられたり、狭いアパートに何人も詰め込まれ、職場とアパートとの往復生活を強いられたり、と言った、実習とは程遠い過酷な労働環境を強いられているようなケースが少なからずあることがメディアで報じられるようになってきました。

もちろん技能実習生全員がそのような待遇下にいるわけではありませんが、奴隷のような状態で働かなくてはならない新成人が日本国内にいるかもしれないこと、そうした若者らが農業や漁業など、私たちの生活の基盤を支えてくれている実態があることもぜひ、気にかけていただければと思います。

小学校に上がったころには、すでにたくさんの外国籍小学生がいた

さて、新成人のみなさんが小学校に入学した2003年には、日本国内にはすでに191万人の外国人の方々が暮らし(2016年は230万人)、全国の小学校には、40,000人を超える外国籍小学生が、共に机を並べていました(出典:法務省文部科学省)。かつてのクラスメイトに、外国人や外国にルーツを持つ同級生がいた、という方も少なくないのではないでしょうか。

2017年現在、今、新成人の方々のまわりには、同年代の外国人が多数生活をしています。コンビニエンスストアや牛丼チェーン、旅行先のホテルや旅館などで、外国人店員と出会う機会は増えていますし、アルバイトや業務などで、同僚が外国人という経験を持つ方もおられるのでは。

一方、筆者が20歳であった十数年前、コンビニやファストフード店などで外国人がアルバイトとして働く姿を見かけることはほぼありませんでした。また、数々のアルバイトを経験しましたが職場の同僚や先輩が外国人であった経験はなく、他の世代も外国人と共に何かをした、という経験がある方々は多くはありません。

今年、新成人となられた皆さんは、以前の成人世代と比べると、より、小さなころから「同級生」「友人・知人」「仕事仲間」あるいは「サービス提供者」として外国人と机や肩を並べた経験を多く持っている世代であると言えます。

急激に移り変わる時代に、新成人世代だからこそ

今、メディアやSNSなどでは、連日のように外国人を受け入れることや外国人が日本社会で暮らしていくこと(特に医療や福祉を利用したりすること)に対する反発や、不安な声を見聞きします。諸外国の移民にかかわるニュースなどを見ると、慎重になってしまうかもしれませんが、日本社会はすでに事実上の移民受け入れへと舵をきりはじめていて、こうした流れが立ち消えることはおそらくありません。

このような急激な社会の変化の中で、どのように国や言語や宗教や肌や瞳の色など、ちがいを乗り越えていけるのか。日本らしい共生の道とはどのようなものなのか。

他の成人世代よりも豊富な、外国人との「共生経験」を持っている(そして今後も積み重ねてゆける)みなさんの世代だからこそ、新しい時代への道筋を見出していけるのではないかと、心からの期待を込めてエールを送ります。

(*)外国籍新成人の数について・・・

ピンポイントではないものの、法務省の統計を見ると、2016年6月末の時点で日本国内に在留する19歳と20歳の外国人人口は約87,000人であり、厳密に正確な「新成人(96年4月~97年3月生まれ)」の数とは言えませんが、今回はこの87,000人を「外国籍新成人」とします。

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者

1979年東京都生まれ。16才で単身フィリピンのハイスクールに留学。 フィリピンの子ども支援NGOを経て、2010年より現職。「多様性が豊かさとなる未来」を目指して、海外にルーツを持つ子どもたちの専門的日本語教育を支援する『YSCグローバル・スクール』を運営する他、日本語を母語としない若者の自立就労支援に取り組む。 日本語や文化の壁、いじめ、貧困など海外ルーツの子どもや若者が直面する課題を社会化するために、積極的な情報発信を行っている。2021年:文科省中教審初等中等分科会臨時委員/外国人学校の保健衛生環境に係る有識者会議委員。

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