ニューヨーク市から80km圏内の原発が閉鎖、エネルギーの安定供給より安全性を優先

(写真:ロイター/アフロ)

ニューヨーク・マンハッタンの中心部から80km圏内にあるインディアン・ポイント原子力発電所が、2021年までに閉鎖されることが決まりました。

この発電所は2基で2000メガワット以上の発電量があり、ニューヨーク市とその北にあるウエストチェスター郡のエネルギーの1/4を賄っています。いずれも1970年代に建設された古い原発で、各々2013年、15年にライセンスが切れています。同原発を運営するエンタージー社は2007年に20年のライセンス延長を申請しましたが、直後に州が異議を申し立てています。その後何度も話合いが行われたものの結論は出ず、ようやく本日、1基は2020年4月、もう1基は2021年の4月までに閉鎖することで合意に達したと発表されました。

結論が先送りされていた理由は、安全性の懸念と代替エネルギー源の確保です。

大都市ニューヨークに至近の原発

同原発の80km圏内には、ニューヨーク市の人口約840万人を含め2千万人が住んでいます。福島の原発事故時、米国は在日米国人に対して80km圏内の立ち入りを禁止しましたが、インディアン・ポイントで同様の災害が起こっても、これだけの大人数を避難させることは不可能と考えられています。

ニューヨークを含め、アメリカ北東部は地震が少ないため、地震の心配はそれほど大きくありませんが、懸念されているのは、テロの可能性と発電所の安全管理です。

問題が認識されたのは、福島の事故が起こるはるか前、2001年の911同時多発テロの時です。憂慮する科学者同盟の試算によると、911と同等の事故がインディアン・ポイントで起こった場合、直近の死者は4万4千人、長期的には50万人が死に至り、経済的損失は1.1~2.1兆ドルに上るとされています(著書より)。

また、同発電所は老朽化が進んでおり、使用済燃料プールの水漏れ、放射性物質の川への流出、放出弁や電気系統の不具合、パイプやワイヤの欠陥、敷地内での火災など、近年事故が多発しています。

安全性か、気候変動か、便利な生活か

ニューヨーク市とウエストチェスター郡は、こうした問題を認識しながらも、代替エネルギーが確保できるまで閉鎖に反対する立場を示していました。

一方、アンドリュー・クォモ州知事は長年にわたり同原発の危険性を訴えて廃止を主張し、代替電源を模索していました。州は2030年までに再生エネルギー比率を50%にする目標を掲げているため、化石燃料由来の発電所を増設するという選択肢はなく、北部の大規模風力発電開発や送電網の改良、既存発電所の効率化などにより対策を進めてきました。現時点では、隣接するカナダからの水力発電電力購入により不足分を補うことを計画しているようですが、十分な代替電源が確保されているわけではなく、見切り発車で廃止が決まったことになります。

クォモ知事は、脱原発を主張しているわけではありません。むしろ、昨年、州北西部の他の原発が採算性を理由に廃止することを決めた際、多額の助成金を投じて閉鎖を阻止しています。再生エネルギー比率50%目標を達成するためには、原発の維持が不可欠だからです。

インディアン・ポイント閉鎖による市民の値上げ負担は月3ドル程度に収まるとされていますが、エンタージー社の納税がなくなる分、地域住民への増税が予想されます。

市民はこの決断に対し賛否両論ですが、答えの出ない議論を続け、有事のときに後悔するより、危機回避を最優先して結論を出し、社会の流れを変えていくことも必要ではないでしょうか。人は切羽詰ると通常以上の力を発揮する傾向がありますから、今回の決定により、再生エネルギー業界が良案を編み出したり、安全な新しいエネルギー源が開発されることになるかもしれません。

原発も他のエネルギー源も、一長一短あります。私たちの増え続ける需要を満たし、なおかつ、安全で安定供給が望め、気候変動対策にもなる夢のエネルギーなどないのですから、何を妥協するかを見極め、適宜判断し行動していくしかないのでしょう。

インディアン・ポイントの閉鎖から何が学べるのか、原発事故を経験した私たち日本人こそが考えるべきではないでしょうか。

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