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独立自尊のかけらもない国を世界にさらした安倍外交

田中良紹ジャーナリスト

安倍総理は日米首脳会談で、オバマ大統領に「尖閣諸島に安保条約を適用する」と言わせる事に執着し、そのため足元を見られてTPPで攻め込まれた。これを外国から見れば、自分の国を自分で守る気概のない国の「土下座外交」に見えると思う。

大統領が望んでもいないのに国賓として迎え、天皇のお客様として国家総動員で最大級のおもてなしをした結果、日本は独立自尊のかけらもない国である事を世界にさらしたのである。

報道によれば、中東のテレビ局アルジャジ-ラは「日本は安全保障の大部分を米国に依存しており、尖閣諸島を守ると大統領が約束してくれたことを喜んでいる」と伝えた。

自国の領土を守るのに外国に支援や協力を仰ぐことはある。しかし今回の振る舞いは「足らない所を協力してほしい」というのではない。「お願いだから守ると言ってくれ」という卑屈な姿勢を見せたのである。

そもそも日本が「安保条約適用」の念押しをする様は、日本が「安保適用」に確信を持っていない事を示している。だから最大級のおもてなしをして疑念を払しょくしようとした。そして大統領の「お言葉」を頂き、日本は「満額回答」を得たと喜んだ。会談の成果を安倍総理は「画期的」と言ったが、世界は誰も「画期的」とは思っていない。

ロイターは、尖閣の安保適用について「従来の立場と変わらないと大統領は繰り返した」として、アメリカが軍事介入する気がない事を伝えている。BBCも「予想された通り大統領はバランスを取った」として、日中が対話の努力をする必要があることを指摘した。

しかし困ったことに、安倍政権には独自に対話に持ち込む外交能力がない。韓国との間では見るに見かねてオバマ大統領が仲介の労を取った。全く恥ずかしい話である。隣国同士であるのに、第三国からの助けで、初めて首脳同士が同席した。私なら仲介など断り、独力で解決の道を探る。他人の助けを借りれば、借りが大きな要求となって跳ね返ってくる。それが外交のセオリーというものだ。

アメリカから見れば、安倍政権は自分の事を自分で出来ないため次々に頼ってくる。そしてそのためのお土産として、アメリカの要求である日本版NSCの創設や、集団的自衛権行使や、労働市場の規制緩和をやる姿勢を見せてアメリカのご機嫌を取る。

ところが困るのは、それらがいずれもアメリカの考えとズレているのである。日本版NSCは議事録を作らない。それではアメリカのNSCと原理が異なる。日本版NSCは民主主義とは思えない官僚主導の組織である。

アメリカの不満を感じ取ったのか、安倍政権はオバマ来日の直前に閣議の議事録を公開し、閣議だけでなく日本版NSCの議事録も作成・公開する事を表明した。しかし横の連携がないままの発表だったらしく、菅官房長官はすぐさま公開に慎重な姿勢を見せた。

集団的自衛権行使も国民の理解が十分でないままやろうとするからアメリカを困らせる。様々なパイプを通して拙速な進め方に注文を付けてきた。「アメリカが変わった」と解説したメディアもあったが、アメリカが変わったのではない、安倍政権の無能なやり方にむしろ困惑しているのである。

大統領来日の前日、安倍総理は労働時間の規制緩和を検討するよう関係閣僚に指示した。これも大統領に対するおもてなしの一環である。しかし安倍総理は大統領の方ばかり向いて、国内の根回しをしていないため、野党と労働界から早速反発が出た。今後、政治問題化すればどうなるか分からない。

国賓待遇にこだわり、自らのパフォーマンスに利用しようとした日米首脳会談を、安倍総理が失敗と認める訳にはいかない。虚しくとも「日米同盟は強化された」と胸を張るパフォーマンスを続けるしかない。しかし腹の中はオバマ大統領に対する怒りで煮えくり返っているのではないか。

それを代弁するかのように、麻生財務大臣が記者会見で口をへの字に曲げながら「オバマに国内をまとめる力なんかない」と外交儀礼上問題となる発言を行った。オバマ大統領はアメリカ合衆国の元首である。アメリカの財務長官が日本の天皇を記者会見の場で批判したらどうなるか。

おそらく麻生氏は共和党がオバマに反対してTPPはまとまらないと言いたいのだろうが、TPP交渉でアメリカが日本から利益を得る話に党派性などあるはずがない。共和党が反対すればするほど日本に対するハードルは高くなる。そして交渉が決裂すればアメリカは日本を見捨てるだけの話だ。

TPPの最終的な狙いは中国をアメリカ流の市場に取り込む事である。そのための先兵として日本を利用しようとしている。日本が言う事を聞かなければアメリカは直接中国と交渉するだけの話になる。アメリカは日本が思うほど日本の事など考えていない。それを日本は認識する必要がある。

麻生氏のオバマ批判は、日本にとって日米首脳会談がうまくいかなかったことの証左である。しかしこの発言を見て、政治家とは思えないほど本音を漏らす麻生氏の総理再登板はありえない話になったと私は思った。

昨年の4月28日、連合軍の占領支配から独立した記念日に、安倍総理は天皇・皇后両陛下の出席を仰ぎ、政府主催で「主権回復記念式典」を大々的に行った。しかし今年は式典を開催しない。去年の力の入れようとは様変わりである。

日本の主権がいまだ回復されていない事にようやく気付いたのなら良いが、そうでなくとも独立自尊の精神を回復しなければ、形だけの独立を祝ったところで何の意味もない。むしろアメリカにすり寄り、日本の伝統的価値観を破壊する側に回る政権こそ、主権回復を阻む壁である事を国民は知るべきである。

ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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「フーテン老人は定職を持たず、組織に縛られない自由人。しかし社会の裏表を取材した長い経験があります。世の中には支配する者とされる者とがおり、支配の手段は情報操作による世論誘導です。権力を取材すればするほどメディアは情報操作に操られ、メディアには日々洗脳情報が流れます。その嘘を見抜いてみんなでこの国を学び直す。そこから世直しが始まる。それがフーテン老人の願いで、これはその実録ドキュメントです」

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