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世界の常識を欠いたタレント出身議員の馬鹿さ加減

田中良紹ジャーナリスト

17日の参議院憲法審査会で自民党の丸山和也参議院議員がオバマ大統領を「黒人の血を引く奴隷が大統領になっている」と発言し、それが人種差別的だと問題になっているが、人種差別よりも何よりもオバマ大統領は奴隷の血を引く大統領ではない。

事実認識が根本から間違っているにもかかわらず、丸山議員は「奴隷制度を乗り越えた米国を讃えるつもりで発言した。良心に恥じるところは何もない」と開き直ったというから驚く。

以前、橋下徹前大阪市長の「慰安婦発言」についてその無知蒙昧を私はブログで批判した事があるが、米国という国がどういう国なのかを全く知らない議員が、自分が無知である事も知らずに発言するのを見ると、とても国政を任せる訳にはいかない気になる。

国会議員として国政を担う気があるのなら、世界最強の軍事力と基軸通貨を持ち、世界を支配し続けながら、戦後一貫して日本を従属させてきた国のリーダーがいかなる人物かを知るのは最低の条件である。それも知らずに国政を語る資格などない。

まずオバマ大統領は東アフリカのケニアから米国に留学した父親が留学先のハワイ大学で知り合った米国人の母親と結婚して生まれた子供である。父親はケネディ一族が親米指導者を育成するために用意した奨学金を受けて留学したというからケニアで将来を嘱望されたエリートと言える。ただオバマの母親との結婚はすぐに破たんし別の白人女性と結婚してケニアに戻った。

従ってオバマは母親とその祖母に育てられることになり、アフリカ系の父親の影響より白人社会の影響の方が圧倒的に強い。母親は米国人には珍しく無宗教で、マルクスの「資本論」を読むような左翼思想の持ち主である。オバマの父親と別れてインドネシア人の地質学者と再婚し、インドネシアで米政府系の援助団体の仕事などをしたが、再び離婚してハワイに戻り1995年に病死した。ケニアに戻った父親は政府のエコノミストとなり1982年に交通事故で死亡している。

従ってオバマ大統領にアフリカ人の血は流れていても奴隷の血が流れている事は全くない。丸山議員にはアフリカ人をすべて奴隷と思い込む差別感覚があるということだ。ただしオバマ大統領のミッシェル夫人は奴隷の子孫である。ミッシェル夫人はシカゴ生まれだが家系を辿ると南部の奴隷に行きつく。

従って正確に言えば2008年の大統領選挙で米国民が選んだのは初のアフリカ系大統領と奴隷の血を引くファースト・レディである。確かにWASP(白人のアングロサクソン系プロテスタント)が伝統的に上流階級を占めてきた米国にアフリカ系の大統領と奴隷の血を引くファースト・レディが誕生した事は画期的だったが、丸山議員はその事実関係に無知で、なおかつその前提となる話も滅茶苦茶である。

「奴隷の血を引く大統領」発言は、「日本が米国の51番目の州になった方が良い」との主張から導き出された。日本が米国の51番目の州になれば日本人には米国の選挙権が与えられる。そうなれば日本州の人口は米国最大になるから最多の下院議員を議会に送り込め、また日本人が米国大統領になる可能性もあるというのである。そしてそれは奴隷の血を引く大統領が誕生する国だから可能だというのであった。

日本を51番目の州にして日本に選挙権を与えることを米国が許すと思っているのなら丸山議員は米国を全く知らない大馬鹿である。米国は常に世界中から利益を吸い上げる事を考え、他国に利益を与えようと考える国ではない。日本に米国の選挙権など与える筈がなく、したがって51番目の州にする事もあり得ない。それは世界の常識である。

日本の対米従属をシンボリックに表す言葉として昔から「日本は米国の51番目の州」と言われてきた。しかし米国議会を10年余取材してきた私に言わせれば「51番目の州にして日本人に権利を与える事を米国が考える可能性は100%ない」。米国が日本を見る目はまさしく白人が黒人奴隷を見る目と同じで、違いがあるとすれば「褒め殺し」ではないがありがたく思わせて隷属させるぐらいである。

米国の思惑通りに隷属すれば日本政府を誉めそやす。しかし日本が少しでも自立しようとすれば徹底的に叩く。それが戦後70年にわたる日米関係の歴史である。それを国会議員が見抜けないというのでは相当におかしい。かつての日本政治はそうした事を前提に自民党と社会党が水面下で手を組み「絶妙の外交術」を行使してきた。

平和憲法を盾に軍事負担を極力減らして富を蓄え、米国の経済力を追い抜く勢いを見せつけた。冷戦の間はそれが有効に作用したが、冷戦が終わると米国は逆襲に転じる。日本に軍事負担を負わせてため込んだ富を吸い上げる布石を打ち始めたのである。それに全面屈服したのが現在の安倍自民党政権だ。

これからの日本は米国によって軍事負担を増やされ、米国の都合よい経済構造に変えられ、米国のため営々と働かされる隷属国になるのである。再度断言するが米国が日本を51番目の州にする事など絶対にありえない。

オバマ大統領誕生の教訓は日本人が米国人と結婚して米国籍の子供を生めば、あるいは日系の大統領が誕生する可能性があるという話で、日本に米国の選挙権が与えられることなどない。こうしたタレント出身議員の馬鹿さ加減は橋下徹前大阪市長の「慰安婦発言」の時にもあった。

橋下氏は戦後の占領期に米兵が日本人女性を「慰安婦」にした事実を指摘して、米国が日本の「慰安婦問題」に厳しい目を注ぐ事を非難したが、米国や英国などアングロサクソンの国では税金を使って売春を行う「公娼制度」を認めない。兵隊の性処理もあくまでも自由恋愛の形をとる。従って敗戦直後に日本政府が米兵用の慰安所を作り、女性を募集して性処理をやらせようとしたことにGHQは不快感を表明して廃止させた。

ドイツやフランスなどヨーロッパの国々とアングロサクソンの売春に関する価値観は根底から異なるのである。それも知らずに橋下氏は在沖縄の米軍司令官に「風俗」の活用を進言して恥をかいた。橋下氏と丸山氏は同じお笑い番組出身のタレント政治家だが、彼らは全く世界の常識を知らない、つまり国政を担う資格などないレベルの政治家である。

丸山議員の恥ずかしい発言を聞いて橋下氏の事まで思い出したが、ポピュリズム型政治が日本だけではなく米国の政治にも蔓延している様を見ると、情報化時代の政治とはデマゴーグに突き進む道だと思えてきて虚しさを覚える。

ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

「田中良紹のフーテン老人世直し録」

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「フーテン老人は定職を持たず、組織に縛られない自由人。しかし社会の裏表を取材した長い経験があります。世の中には支配する者とされる者とがおり、支配の手段は情報操作による世論誘導です。権力を取材すればするほどメディアは情報操作に操られ、メディアには日々洗脳情報が流れます。その嘘を見抜いてみんなでこの国を学び直す。そこから世直しが始まる。それがフーテン老人の願いで、これはその実録ドキュメントです」

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