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アメリカ大統領選挙を動かす「チェインジ」という魔法の言葉

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(260)

霜月某日

ついにとうとうドナルド・トランプがアメリカ大統領選挙を制した。予備選挙で「ネオコン」を含む共和党主流派を蹴散らして大統領候補に指名された時も「ついにとうとう」と書いたが、本選挙では初の女性大統領を目指すヒラリー・クリントンに予想以上の差をつけて圧倒した。誰もが予想しない驚きの選挙結果である。

何が「ついにとうとう」をもたらしたか。この選挙結果は米国民の中にどれほど既成政治に対する不信と不満が渦巻いていたかを物語る。その不信と不満をアメリカの民主党も共和党もそしてメディアも気づいてはいなかった。実は米国民自身もはじめは気づいていなかったかもしれない。

しかし予備選挙が始まり、民主党のバーニー・サンダース候補や共和党のドナルド・トランプ候補の演説を聞くうちに米国民の目からウロコが落ちた。当たり前だと思ってきた政治の積み重ねを異なる視点で眺めるようになってそこに「覚醒」が起きた。

そして既成政治には「チェインジ(変革)」が必要だという意識が米国民に植え付けられた。「チェインジ」こそアメリカ大統領選挙を動かす魔法の言葉である。フーテンは三度目の「チェインジ」を今年の大統領選挙で経験した。

一度目はビル・クリントンがジョージ・H・W・ブッシュ大統領を打ち破った1992年の大統領選挙である。湾岸戦争に勝利して歴代最高の89%の支持率を誇ったブッシュ大統領に民主党主流派の中から挑戦しようとする者はおらず、アーカンソーという田舎の州知事を務めていた無名のビル・クリントンが戦いを挑むことになった。

その選挙でクリントンが叫んだのは「チェインジ」と「エコノミー」の二つの単語だけである。選対幹部は「余計なことは言わずに二つの単語だけを繰り返せ」と指示した。湾岸戦争に勝利したブッシュ大統領はアメリカが「新世界秩序」を主導すると高らかに謳いあげ、旧ソ連の崩壊もあってアメリカは「唯一の超大国」になった。

しかし湾岸戦争後の景気後退とレーガン政権が作り出した双子の赤字を解消するための増税によって国内には不況感が漂った。国民は高邁な理想と足元の現実を見比べてアメリカには「チェインジ」が必要だと考えた。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:3月31日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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