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均質化される快適な都市と、東京・日本の競争力

松村太郎ジャーナリスト/iU 専任教員
VIVA Japan浜田寿人氏。世界のライフスタイルを俯瞰し日本の競争力を指摘。

VIVA Japanの浜田寿人氏はシンガポールと東京を中心にしながら半分以上を海外で過ごしています。世界の各都市で均質化される「心地よい」ライフスタイルとその中での日本のポジションについて議論しました。

浜田さんは、日本の良い物や良いワザによって作り出されたプロダクトを世界に紹介するECサイト「VIVA Japan」を運営しています。日本の素材や加工技術を生かした小物や、日本が世界に誇る食は、日本人の我々からしても魅力的に感じます。

海外の「都市」と、海外から見た「日本」について、アイディアを交換しました。

「心地よさ」がグローバル化されている

ちょうど直前までシドニーにいた浜田さんは、ニューヨークやシンガポール、そして東京の都市としての共通性について指摘します。これまで、異国の地は全く違った体験が待っていたり、だからこそ観光で訪れて楽しめるといったこともあったでしょう。

しかし違った視点、例えば短期・長期の生活者としてこれらの都市に入っていくと、例えばIKEAで簡単に安く家具が揃えられ、取りあえずスタバでコーヒーが飲め、iPhoneを契約してネットやコミュニケーションの環境を整えるといった都市の均質性に気付かされます。

「グローバリゼーションとテクノロジーが、都市でのライフスタイルのある面を均質化しています。特にインターネットとスマートフォンは、世界中から同じワークスタイルを実現しました。世界を飛び回って、世界中で仕事ができちゃう人は、世界中で同じようなインフラを求めるようになってきています」(浜田さん)

そうしたグローバルで仕事のしやすい環境が整っている都市の中で共通している要素として浜田さんが指摘しているのは、おいしいレストランが牽引するフードカルチャー、ウォーターフロント、ラウンジの3つを挙げています。

シンガポールのランドマーク、マリーナ・ベイ・サンズ。
シンガポールのランドマーク、マリーナ・ベイ・サンズ。

「ラウンジとは、人が集まる場所のことです。もちろんおいしい料理やお酒を飲みながら話ができる場所であることはもちろんですが、都市のライフスタイルや人のハブになる役割として重要な機能を占めています。

例えばシンガポールには、日本でも話題になったMarina Bay Sandsがあり、ランドマークをめがけて人が集まってきます。またシドニーも同じような作り方です。例えば金沢は、金沢21世紀美術館をみんな見に行く求心力がありますよね。その都市を訪れたらどこに行けば良いか、という拠点が、街を引っ張っていると見ています」(浜田さん)

東京のユニークはいかに作り出されているか?

こうした均質化するグローバルの都市の機能の中で、仕事を中心に、食、気候、文化などから好みの都市を選ぶことができますが、そうした中で東京は現在、どんなポジションにあるのでしょうか。

例えば私が取材するサンフランシスコの若手のスタートアップ創業者の中で、日本への興味は最高潮に達していると言えます。アジア進出を考えるとき、中国や、インド・インドネシアは巨大市場になりますが、出張に必ず東京を含めて滞在し、食を楽しみ、街を楽しもうとしています。

北京でも上海でも香港でもソウルでもない、東京へ注がれる興味はなぜ起きているのでしょうか。

「グローバル化する心地よさの中で、東京はその条件を満たしつつあります。しかしそれだけではなく、日本人が感じる「心地よさ」はまた別の尺度があります。世界一おいしい世界各国の料理だけでなく、日本食も奥深い物があります。またインフラや家電などの過剰なまでの発展は、「珍しい」「ユニーク」という評価を受けています。

グローバルな心地よさには「どんな1日を過ごしたいか」という取り入れられる要素がたくさんあることがポイントになりますが、世界の都市の中でユニークなラインアップが手に入るのが東京の現在です。過去にパリを知っていることが知的ファッションだったかも知れませんが、現在の東京を知っていることは、それに匹敵する価値を帯びてきているといっても過言ではありません」(浜田さん)

例えば日本でもスターバックスは人気ですが、東京の街からスターバックスや類するコーヒーチェーンを取り除いても、明治以降から発展してきた喫茶店文化が残ります。他の都市を見渡してみると、150年単位で育んできた文化がきちんと残っている都市は、欧州へ行かなければ難しくなります。均質化されるモダンな快適さある都市で多様な歴史を兼ね備え、新しい物も体験できる。これが東京が誇るユニークさの正体なのでしょう。

モノを通じた日本の流通への挑戦

本田直之氏とFUJITAKAのコラボレーションで生まれたカードケース。
本田直之氏とFUJITAKAのコラボレーションで生まれたカードケース。

VIVA Japanで人気を集めているのが、キュレーターと技術を持つ製造者とのコラボレーション商品です。写真は、東京とハワイのデュアルライフを実践する本田直之さんのアイディアから、海外のブランドからも声がかかるほどの技術を誇るカバン製造を手がけるFUJITAKAによって作られたカードケースです。

ライフスタイルの中で、あるいは海外で暮らしている中で、どんな商品が便利で、また世界に受け入れられるのか、というアイディアを、日本の確かな技術で現実のものにするプロセスによって、モノを通じて日本を世界に流通させようとしています。

「MAKERSの本には衝撃を受けましたが、海外ではものづくりの起爆剤として3Dプリンタを強調しています。ただ、印刷が活版からDTPに変わっても編集が変わらなかったように、3Dプリンタを使う人がどのように変わるかが重要です。

日本の工房とディスカッションをすると、経験や技術に裏付けられた、試していないアイディアをたくさん聞くことができます。アイディアを実現しつつ、デザインと機能性を兼ね備えたモノを作り上げることができるのです。そして出来上がったモノは美しい。これは、3Dプリンタをいかに使いこなしても、実現できない日本に宿る価値だと思います」(浜田さん)

日本のモノの素晴らしさ・美しさを深く理解し、グローバルの心地よさにフィットさせて海外に伝えていく。そうした媒介者になるためにも、複数のものさしを持って、日本のユニークさを生かしつつ、ギャップを埋める役割を担っていかなければならない。浜田さんの世界へのチャレンジは続きます。

ジャーナリスト/iU 専任教員

1980年東京生まれ。モバイル・ソーシャルを中心とした新しいメディアとライフスタイル・ワークスタイルの関係をテーマに取材・執筆を行う他、企業のアドバイザリーや企画を手がける。2020年よりiU 情報経営イノベーション専門職大学で、デザイン思考、ビジネスフレームワーク、ケーススタディ、クリエイティブの教鞭を執る。

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米国カリフォルニア州バークレー在住の松村太郎が、東京・米国西海岸の2つの視点から、テクノロジーやカルチャーの今とこれからを分かりやすく読み解きます。毎回のテーマは、モバイル、ソーシャルなどのテクノロジービジネス、日本と米国西海岸が関係するカルチャー、これらが多面的に関連するライフスタイルなど、双方の生活者の視点でご紹介します。テーマのリクエストも受け付けています。

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