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モジュール型スマートフォンの未来:GoogleのProject Ara、初の開発者会議

松村太郎ジャーナリスト/iU 専任教員
発の開発者会議を開いたモジュール型スマホ。新しいハードの進化となるか。

Googleは2014年4月15日〜16日の2日間、シリコンバレーのマウンテンビューにあるコンピュータ歴史博物館で、ある初めての開発者会議を開きました。そのメインテーマとなったのが「Project Ara」、すなわち、モジュール型のスマートフォンのプラットホームです。

Googleは2015年1月に、最低50ドルという価格の同プロジェクト発のスマートフォンを発売するとしています。ウェブサイトには、「60億人のためのスマートフォン」であることが強調されています。

廉価版の携帯電話は、スマートフォンのようなネット接続機能を持たないかわりに、50ドル以下で購入でき、途上国では固定電話よりも早く携帯電話が普及してきました。現在、SamsungとNokia、そして勃興する中国メーカーによって、こうした廉価版の市場が占められています。

Project Araのスマートフォンによって、こうした廉価版の市場がスマートフォン化されたらどうなるか。そんな未来を想像することができるプロジェクトでもあります。

・Project Ara

モジュール型スマートフォン?

モジュールを組み合わせてスマホを組み立てる仕組み。モジュールはオープンに開発可能
モジュールを組み合わせてスマホを組み立てる仕組み。モジュールはオープンに開発可能

モジュール型スマートフォンとはなんでしょう。冒頭の写真を見て頂ければ分かりやすいと思います。ベースとなる画面サイズを決め、フレームにスマートフォンの機能をまるでパズルのように組み合わせて、自分の必要な機能を備えるスマートフォンを組み立てるというもの。

画面の大きさに応じて、1つのスマートフォンに搭載できる機能数が決まります。その機能がモジュールとなっていて、必要に応じて差し替えることができます。各モジュールは本体と10極の端子で接続され、デバイス上のネットワークで通信しながら、そのスマホの1機能として動作し始めます。

今回の開発者会議では、モジュール規格を公開し、開発キットをフリーで配布し始めました。将来的には、まるでアプリを購入するように、Google Playストアのようなオンラインストアからモジュールを購入して機能を向上させることができるようになるでしょう。またKickstarterのようなクラウドファンディングで、今までにないモジュールを開発するための資金調達を行う、といった動きも出てくるはずです。

ちなみにこのプロジェクトは、かつてGoogleが買収したMotorola MobilityのAdvanced Technology and Projects groupに属していました。Googleは既にMotorola Mobilityの会社自体をLenovoに売却済みですが、Project Araを含む先端技術とプロジェクトを行うグループはGoogleに残し、Androidのチームへと移行させました。

Googleは端末メーカーを売却し、全く新しいスタイルの端末メーカーになろう、というわけです。

ハードウェア → ソフトウエア → ハードウエア

Project Araのスマートフォン。機能とデザインも自在に作り出せる
Project Araのスマートフォン。機能とデザインも自在に作り出せる

15年前に大学のゼミで「ケータイの未来を考えよう」という課題が与えられたことを覚えています。そのときに、こうしたモジュールを組み合わせて自分の好きな機能が得られるスマートフォンというアイディアは、わりと多くのメンバーから出されたのを記憶しています。

ただし、現実のものとしてイメージすることは全くできませんでした。

2000年前後は通信速度も遅ければ、デジタルカメラも現在のような性能ではありません。GPSの位置情報を利用したソフトウエアを作ろう…と考えると、パソコンが入ったリュックサックを背負い、そこに円盤状のアンテナを取り付けるといった大がかりなことが必要でした。

しかし現在ではスマートフォンにGPSが標準機能として搭載され、アプリから位置情報を利用することも珍しくなくなりました。140文字のツイートに気軽に位置情報が添付するたびに、あの40kgを超えるアンテナ付きリュックサックの重さを思い出さずにはいられません。

スマートフォン以前、ケータイの時代は、基本的にハードウェアによる進化が中心でした。次々に新しい機能がケータイに追加され、カメラは高画素化し、画面は大きくなっていきました。そしてiPhone登場以降、画面がデザインの主役となり、ハードウェアとOSが統一され、その上で動くアプリによって機能や使い方が増え、スマートフォンがある生活が進化してきました。

ハードウエアによる進化からソフトウエアによる進化へ。これがケータイからスマートフォンへのシフトだった、と振り返ることができます。そしてProject Araは、その進化の方法を再びハードウェアに引き戻してくれるかもしれません。

SDKならぬMDK(Module Developers Kit)をリリースし、ハードウェアのモジュール開発にオープンに関与することができるようにしている点は、ソフトウエア進化を経験したスマートフォンらしい取り組みです。かつてのハードウェア進化で通信会社が仕様を決めていた状況とは違うのです。

現在でも、選ぶアプリでスマートフォンの機能が変わりますが、今度はモジュールを選んで機能を選ぶというアイディアのスマートフォン。

どれだけ使いやすいか、生活の中で、どのような役割になるか。そして各国の無線通信に関する法令とどう向き合うか、課題はたくさんありますが、15年前に考えていた未来が、もうそこまで来ているのです。

ジャーナリスト/iU 専任教員

1980年東京生まれ。モバイル・ソーシャルを中心とした新しいメディアとライフスタイル・ワークスタイルの関係をテーマに取材・執筆を行う他、企業のアドバイザリーや企画を手がける。2020年よりiU 情報経営イノベーション専門職大学で、デザイン思考、ビジネスフレームワーク、ケーススタディ、クリエイティブの教鞭を執る。

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米国カリフォルニア州バークレー在住の松村太郎が、東京・米国西海岸の2つの視点から、テクノロジーやカルチャーの今とこれからを分かりやすく読み解きます。毎回のテーマは、モバイル、ソーシャルなどのテクノロジービジネス、日本と米国西海岸が関係するカルチャー、これらが多面的に関連するライフスタイルなど、双方の生活者の視点でご紹介します。テーマのリクエストも受け付けています。

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