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紙パック入りの水が売られている米国

松村太郎ジャーナリスト/iU 専任教員
紙パックに入った水。ペットボトルの廃棄による環境負荷を知らせるには大きな役割か?

私の暮らすカリフォルニア州バークレー周辺で、最近、スーパーやカフェなどでよく見かける「紙パック入りの水」。「BOXED WATER IS BETTER」と真っ白の紙パックに黒い文字で書かれたシンプルなデザインですが、中身はフィルターに通された浄水です。

-Boxed Water Is Better

プラスティックによる環境破壊を防げ?

この製品「Boxed Water is Better」は、500mlの紙パック24本入りで39ドル。1本あたり約1ドル60セントです。

米国ではペットボトルがほとんど埋め立てに回されているという米国の貧弱なリサイクル事情が背景にあります。ペットボトル入りの水は、とにかく安いのです。例えばCostcoなどでは、500ml×24本入りの「炭酸水」であっても8ドル程度で売られており、単なる水は半額程度、というところでしょう。

米国だけで、毎年500億本のペットボトルが埋め立てられているという現状を変えよう、という声が強いのは、ペットボトルの水が身近で分かりやすい例だから、ということもあるかも知れません。

そんな中、サンフランシスコ市は、米国の都市で初めて、ペットボトル入りの水を公共の場で販売してはいけないという法律が通りました。今後、代替する手段がない限り、21オンス(約595ml)以下の容量のペットボトルの水は販売できないことになり、販売すると1000ドルの罰金になるとのことです。

ペットボトルの代わりに、再利用できるガラスなどのボトルを使うことを奨励していこう、あるいは、水筒など、捨てないボトルで水を持ち歩けば良いじゃないか、という代替案があります。

そんな背景もあり、自分で持ってきたボトルに給水できるウォータークーラーのようなスタンドがより目につくようになりました。

近所のUC Berkeleyや、モントレーベイ水族館にも設置されていたのは「Elkay ezH2O」という給水マシン。ボトルを置くとセンサーで自動的に水が出てくる仕組みでした。

また、以前参加したTEDにも設置されていたのが、S'wellのウォーターサーバー。S'wellは、持ち歩くボトルをスタイリッシュなデザインに変えて、アイテムとして楽しめる存在に変えようというアイディアです。こちらも、ペットボトルの削減という考えが核にあります。

陳列されただけで勝利

人々の習慣を変えるのは、なかなか大変です。しかしそれを変えることができれば、劇的に世界が変わるんだ。これが、活動の原動力であり、賛同する人々を産業や政治へと拡げていくことで、理想的な世の中を作っていこうとする。米国にいると、そういう事例を身近にいくつも発見することができます。

同時に、そうした「アクティビズム」はビジネスにもつながります。箱入りの水も、まさにアクティビズムに寄り添う新しいビジネス、と位置づけることができます。

この商品がスーパーに並ぶこと自体が刺激的です。というか、陳列されただけで勝利、といえるかもしれません。

バークレーのスーパーではまだペットボトルの水が禁止されていませんので、この紙パックの水は、周りには平然と売られている大手メーカーのペットボトル入りの水と並ぶわけです。

商品として並べられているのに、水を買おうと思った人は「おや?」と思いますし、もしもペットボトルが埋め立てられているという事実を知れば、ボトル入りの水を買う事を躊躇したり、辞めてしまったりするかもしれません。

そういう意味で、流通に乗ってしまえば、売れようが売れまいが勝ちだな、と思った次第です。

でも、もっと他の解決策も追究すべし

外出先でボトル入りのきれいな水を買う事、あるいは売ることが、完全なる悪だとは思えません。例えば子育てをしている場合、外出先で新しい水が買えることは、結構重要です。確かに大量消費と便利さの追究の結果、1本25セントみたいな値段になってしまっているのですが。

陳列されただけで勝利。とはいえ、じゃあこのBoxed Water is Betterのパッケージを喜んで買いたいか、といわれると、そうではありません。これを買うことは、どこか滑稽で、格好悪くて、本質的な問題から目を背けて済ませよう、という感じがするのです。

確かに環境負荷は低いけれど、それでもやっぱりこの水をパッケージして運んでくる時の環境コストはかけているじゃないか、と。まあ、商品名は「Best」ではなく「Better」と逃げている部分もありますし、自覚はしていると思いますが。

紙入りのペットボトル他の方法ももっとあるはずです。使い捨てを前提とするなら生分解性プラスティックを用いるとか、「いや捨てないんだ」というならリサイクルのシステムをより厳格に整備するとか。

確かにコストはかかるようになりますが、水のボトルと紙パックの話の場合、そうしたコストを理解する人を増やしたほうが良いし、そのコストを劇的に減らせる技術こそ革新的で賞賛されるべきだと思います。

お金と時間がかかりますが、だからといって紙パックの水で済ませようとは、一消費者としてどうしても納得がいかない部分があるのです。

追伸:

もしも、この紙パックの水がおしゃれだ、として日本に輸入してエビアンやボルビックと並べて売ろうと考えているお店があったら、絶対辞めた方が良いと思います。この製品そのものの思いを踏みにじるだけなので。

ジャーナリスト/iU 専任教員

1980年東京生まれ。モバイル・ソーシャルを中心とした新しいメディアとライフスタイル・ワークスタイルの関係をテーマに取材・執筆を行う他、企業のアドバイザリーや企画を手がける。2020年よりiU 情報経営イノベーション専門職大学で、デザイン思考、ビジネスフレームワーク、ケーススタディ、クリエイティブの教鞭を執る。

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米国カリフォルニア州バークレー在住の松村太郎が、東京・米国西海岸の2つの視点から、テクノロジーやカルチャーの今とこれからを分かりやすく読み解きます。毎回のテーマは、モバイル、ソーシャルなどのテクノロジービジネス、日本と米国西海岸が関係するカルチャー、これらが多面的に関連するライフスタイルなど、双方の生活者の視点でご紹介します。テーマのリクエストも受け付けています。

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