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過去を振り切り決意を胸に 鈴木聡美は次のステージへ

田坂友暁スポーツライター・エディター

2月22日、東京辰巳国際水泳場で行われたコナミオープンの100m平泳ぎ決勝終了後、苦しいシーズンを乗り越えて、ようやくいつもの笑顔が戻ってきた。

2012年のロンドン五輪、競泳女子ではじめて3つのメダルを手にした鈴木聡美(ミキハウス)は、2013年以降、苦しいシーズンが続いていた。五輪メダリストとして臨んだバルセロナ世界水泳選手権では、100m、200mともに決勝に進めず、2014年シーズンには渡部香生子(JSS立石)に100mの日本記録を破られた。アジア大会の前日練習時のインタビューでは笑顔も見られず、記者の前ですら不安を隠しきれなかった。

しかし、そのアジア大会の50m平泳ぎで自身も驚きの優勝を遂げてから、少しずつ鈴木に変化が出始める。そして今年の2月、ひとつの答えに辿り着いた。

「私は誰よりも練習を積んでこそ、結果が出せる」

本当の意味で取り戻した積極性

コナミオープン2日目、100m平泳ぎ決勝後の鈴木の言葉が印象に残っている。

「神田(忠彦)コーチと話していて、自分が勘違いをしていたことに気づきました」

鈴木は以前、前半からとにかく飛ばして、後半バテて失速するレースが多かった。それが大学に入り、厳しい練習を積んだからこそ、後半に失速することなく泳ぎ切れるようになった。しかし、大学に入学してから6年が経ち、厳しい練習をこなすことで自信が生まれ、積極的なレースができていたことを忘れてしまっていたのだ。

「どこかで後半バテてしまうのを気にする自分がいて、前半から飛ばすことを恐れていた。それでも何とかなるんじゃないか、という気持ちもあったと思います」

2014年のジャパンオープンで2年ぶりに1分06秒台を出したときは、前半の50mを31秒57で入っている。だが、バルセロナ世界水泳選手権、ゴールドコーストでのパンパシフィック選手権、アジア大会と、国際大会ではいずれも前半は32秒台。鈴木は本来、前半のスピードに乗った勢いそのままに後半50mを押し切るようなレースが持ち味だ。自分から、その持ち味を消すようなレースしかできていない。

ところが、コナミオープンのときの鈴木は違った。1日目に行われた50m平泳ぎの結果は、31秒32。2日目の100m平泳ぎの前半は、31秒86。記録だけを見れば、明らかに無謀なレース展開かもしれないが、鈴木にとってはようやく本当の意味で『前半から積極的にいく』レースができた証だった。

「思いっきり前半からいって、後半に勝負ができるかどうか。こういうレースをしてこそ、練習の成果が出せるはず。今日の(100mの)決勝は、気持ちを振り切って全力が出せた手応えがあった」

そう取材に応じる鈴木の目には、過去を振り返ることをやめ、見つけ出した答えの先を目指す決意が込められていた。

安定したキック力を生かすストロークができるかどうか

鈴木の泳ぎの要は、キックにある。一般的な水を捉えられる平泳ぎのキックは、蹴り出す瞬間、足の内側が平らな板のようになって足先が真横を向く。しかし、鈴木のキックはこの瞬間、足先が少しだけ前を向く。足首がさらに開く、と言ったほうが分かりやすいかもしれない。この一瞬の足首の柔らかいしなりが、鈴木のキックの特徴でもある。この足首のちょっとした動きが、ほかの種目で蹴り出す瞬間に足首がしなるのと同じような動きになっているため、多くの水を捉えるだけではなく、効果的に後ろに水を押し出すことができている。

このキック力をうまく引き出すためにも、上半身の動きに注目したい。調子の悪いときは、上半身(特に肩周り)が水を被り、プルがキックの邪魔をして力を止めている。反対に調子が良くなると、プルの動きがシンプルになってキックの邪魔をせず、あきらかに1ストロークで進む距離と勢いが変わるのが目に見えて分かる。

2月のコナミオープンから2カ月の間に、気持ちを吹っ切った鈴木が、持ち味が最大限生かせるフォームを作り上げ、断固たる決意と自信が持てる練習を積んでこれたかどうか。その結果を、今は楽しみに待ちたい。

スポーツライター・エディター

1980年、兵庫県生まれ。バタフライの選手として全国大会で数々の入賞、優勝を経験し、現役最高成績は日本ランキング4位、世界ランキング47位。この経験を生かして『月刊SWIM』編集部に所属し、多くの特集や連載記事、大会リポート、インタビュー記事、ハウツーDVDの作成などを手がける。2013年からフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。水泳の知識とアスリート経験を生かして、水泳を中心に健康や栄養などの身体をテーマに、幅広く取材・執筆を行っている。

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