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ガソリンスタンドで毎回30分待てますか?(最終編)

田代真人編集執筆者
千客万来!?

今回は『コミュ障だと乗りこなせない電気自動車(最終編)』をお送りする。

東京から伊豆高原までを電気自動車「日産リーフ」でドライブしようという小旅行の話をさくっとするつもりが、私がほかの仕事に追われてしまい、2か月も掛けて最終編に辿り着くということになってしまった。やれやれ。(前編はこちら。中編はこちら

さて、恩賜箱根公園の駐車場で充電が終わり、山道を避けて、海沿いの道に進路を変えた私は、次の目的地、いや充電「地」、河津町にある「河津桜観光交流館」に無事到着。だれにも使われていない充電スポットに安心して、事務所に声を掛け、充電を始めた。ここは事務所の方からカードを借りないと充電できない。

充電終了までの30分間は散歩することに。すでに河津桜も散ってしまい、かといって夏もまだなので海まで歩く気も起こらず、観光交流館の周りを散歩するだけになった。酒でも飲めれば時間はいくらでも潰せるのだが、なんと言ってもドライブの旅だ。そういうわけにはいかない。困った……本当になにもない。結局、10分程度の散歩で切り上げて交流館に戻り、充電終了まで15分程度、スマホをいじって待つ。そのうち無事に充電は終わり、その日は伊豆高原の旅館に一泊となった。

翌朝、チェックアウトして宿を出た。クルマはほとんど走らせていないので、ほぼ満充電だ! とはいえ、観光気分で周りをドライブしようにも復路を考えるとそうは言っていられない。少しでも電気を節約するために遠回りはできない。

かといって、山道は避けなければいけない。往路のときのように坂道を上れば、電池の残量がグングン減っていく。もちろん、坂道を上れば下りもあるので、上りで残量が減った分、アクセルを踏まず、いわゆるガソリンエンジン車でエンジンブレーキがかかるようなときに充電される「回生ブレーキ」を利用すれば、下りで充電されるはずなのだが、なんといっても心臓に悪い。ここはおとなしく海沿いの135号線を通って帰路に着くことにした。

しかし、山道以外ではこの海沿いの道しか東京への道路はないので、当然ながら、この道は混む。おまけに休日の午後。スムーズにドライブを楽しむことは難しい。真夏の観光シーズンほどではないが、天気に恵まれたおかげで、行楽に出かけた人も多く、ところどころ渋滞模様の135号線となった。

日も照りはじめ、直射日光でじわじわと熱くなっていく腕に汗がにじみ始める。通常ならば、ここで窓を閉めてエアコン! といきたいところだが、電気自動車ではそうもいかない。なにしろただでさえエコ運転をしているし、また、渋滞で回生ブレーキも使えない。電気を消耗するだけの環境でエアコンでもつけようものなら自殺行為でしかない。

夏前の季節だから、まだ我慢できるが、さすがに夏真っ直中、たとえ初夏であっても、その季節はきっとドライブどころではないだろう。日が落ちた夜にしかドライブできないことは容易に想像できる。

そんな渋滞模様を切り抜けながら、往路で立ち寄った小田原のショッピングモールにある充電スタンドに到着したのは、16時過ぎだった。時間が悪かったのか、先客は2台。充電スタンドの右に、プラグを差したままのシルバーのリーフ。運転手はいない。左には別のリーフが停車。運転席には初老のおばさま。さりげに充電スタンドをのぞき込むと、なんと充電は終わっている。

左のリーフのおばさまに「終わってますよね?」と声を掛けると、「そうなんだけど帰ってこないのよね」と。「プラグ抜いて自分のクルマに差さないのですか?」と聞くと「以前、それでトラブルになって、それ以来、自分で他人のクルマのプラグは抜かないようにしてるんです」とのこと。

いやいや、それは困るだろう、いつまで待っているんだ、なにより私が困る、と瞬時に感じた私は、「じゃあ、僕が抜いて、あなたのクルマに差してあげますよ」と言って、そのとおりにしてあげた。おばさまは「ありがとう」と言ってはくれたが、心配そうだったので、クルマの主が帰ってくるまで、私もそばで待っていた。

聞くところによると、車種によってはプラグに鍵がかけられるものもあり、そんなときはまったくもってお手上げ状態とのこと。運転手から置き去りにされると、いつ帰ってくるかわからない運転手を待つことになるのだ。1人のドライバーのモラルで旅の予定が狂ってくる

結局、件の運転手はその後10分ほどして戻ってきた。そうして自分のクルマの充電口が閉まっていることを確認して、クルマを出した(冒頭の写真はそのときのもの)。私は「なにも言わないんですね」と声を掛けた。おばさまは「そうね。私もあまり気にしなくなっちゃったわ」……。私は苦笑しながら、残りの小一時間をモール内で食事を済ませるために、その場を離れた。

この事件にもならないような小さな出来事は、しかし、私を電気自動車への想いから遠ざけるのに十分だった。なにしろこの2日間、計画通り、時間通りに旅行を楽しめなかった。いつも電気残量を気にしていて、進路さえも変えざるをえなかった。しかも充電スポットに着くまでは、空いているかどうかわからないし、何台待っているかわからない。つまりは充電にどれだけ時間がかかるのかがわからないのだ。

また非常識な人が1人いるだけで、気分は悪くなるし、一触即発の事態が起こりうる。腹が立ってもにこやかに。場合によっては、こちらから声も掛けなければならない。対人恐怖症の人にはできないワザである。

帰京して、お借りした販売店の方ともお話しして、購入者には日産ゼロ・エミッションサポートプログラムというサービスが月額1543円(税込)で利用できると言われたが、充電スポットの検索などができたり、スマホでクルマを管理できたりするだけで、実質的なメリットは初回の車検費用と定期点検費用がかからないことくらいのようだ。入会には別途、年会費を支払って日産系のカードの会員になる必要もある。

ただ、電気自動車を販売するメーカーとしての責任を考えると、彼らはまだまだプレミアム的にサービス料を取るレベルになってはいない。無料でサポートすべきことが数多く残っている。つまり、実体験として、充電に30分も掛かるようでは、長距離利用のクルマとして販売するレベルにないのだ。

想像してみてほしい。給油口が1つしかないガソリンスタンドを。しかも、1台に付き30分以上給油時間が掛かるのだ。そういうガソリンスタンドが、何十キロに1か所くらいの場所にしか整備されてない状態で、あなたは安心してクルマに乗れるだろうか。

あえて断言させていただくならば、現状では「1日往復100kmの走行距離しかクルマには乗らない(長距離は乗らない)」、「自宅に充電器を装備できる」という人にしか乗れないクルマであり、それ以外の利用者はオウンリスクで、ということだと思って購入したほうがいい。

もちろん乗り心地はいいので、上記の2条件が整うのであれば、いま乗っているどんなクルマよりも満足するであろう。ガソリン高騰の昨今では、とくにそうだ。だが、電気自動車は、ただマシンのみを開発するのではなく、不必要な諍いを起こさないためにも、せめてセルフガソリンスタンドくらいのインフラ整備が必要だろう。

前述したように、不必要なコミュニケーションを強いられる場面も出てくる。コミュニケーションが苦手な人が多いと言われる昨今、そのような人でも安心して充電できるインフラ・サポートも必要ではないだろうか。

それがそろうか、でなければ、充電時間は5〜10分、航続距離300kmの電気自動車が開発されるまで、私たちがイメージする“自動車”だとは思わないほうがいい。現在の率直な感想だが、もちろん私は、まともな電気“自動車”が開発されることを首を長くして待っているユーザーの1人でもある。

(了)

編集執筆者

1963年福岡県出身。86年九州大学工学部卒業後、朝日新聞社入社。その後、学習研究社にてファッション女性誌編集者、ダイヤモンド社にてWebマスター、雑誌編集長、書籍編集などを経て、2007年メディア・ナレッジ設立。代表に就任。出版&電子出版、Webプロデューサー、PRコンサルタントとして活動。現在は、駒沢女子大学教授、桜美林大学非常勤講師を務める。専門は「コミュニケーション」「編集論」。

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