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ノーベル物理学賞の中村修二氏と平和賞マララさんをつなぐ1本の糸

田代真人編集執筆者

今年、2014年のノーベル物理学賞は、青色発光ダイオード(青色LED)を開発した赤崎勇、天野浩、中村修二の三氏に与えられた。なかでもカリフォルニア大学サンタバーバラ校教授の中村修二氏については、彼の最後の自著『ごめん!』を古巣のダイヤモンド社で編集者として担当した縁でそれからも親しくさせていただいている。この書籍は、中村教授が起こした裁判の和解勧告を受け入れたときの記者会見をテレビで観て、大学でロボットを研究した理系の私としても、この和解に納得できず、ちゃんと世の中に伝えるべきだ、と思った結果、発行できた書籍だ。記者会見を観て「本にしたい」と思った私は、ほうぼうに連絡して、中村教授が仙台にいることを突き止め、その翌日、滞在先のホテルに押しかけて、書籍制作を願い入れた。

最初は「もう本は出さない」と渋っていた中村教授だったが、なんとか私の想いを聞き入れてくれ、最後の自著として発行することができたわけだ。以来、中村教授とはいろいろとお話をさせていただいているのだが、なかでも印象に残っているのが、青色発光ダイオードができたことによって世の中が変わるということだった。

つまり、青色発光ダイオードができたことによって、白色発光ダイオードができる。白色ができれば、それは照明になる。省電力の照明ができれば、たとえば、アマゾンの山奥でも砂漠の真ん中でも、太陽光発電パネル付きの照明を設置すれば、いままで夜真っ暗だった場所に明かりがともるのである。

夜真っ暗だった場所に明かりがともることにどのような意味があるのだろうか?

実は、ここに、今回ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんとつながる1本の糸が見えてくる。

彼女は昨年のマララ・デー、彼女の誕生日である6月12日にニューヨークの国連本部で演説し、「1人の子ども、1人の教師、1冊の本、そして1本のペン、それで世界を変えられます。教育こそがただ一つの解決策です。教育を第一に」という言葉で締めくくった。

つまり、LED照明が世界中に普及することによって、いままで夜は月明かりしかなかった地域に明かりがともされる。明かりがあれば、その地域の人たちは、子どもも大人も夜になっても本を読むことができるのだ。本を読んで勉強ができる。勉強する時間が昼間のみならず、夜にまで伸びることを意味する。

そうすれば、なにが起こるのであろうか?

いままでどんなに才能があってもその才能を伸ばすための勉強をすることができず、また、その才能さえも発見されなかった人々がいるはずだ。そういう地域から新しい才能が芽生えてくれば、もしかしたら世界を変えるノーベル賞級の頭脳の持ち主が現れるかもしれない。彼ら彼女たちが世界をよりよくしていく可能性が出てくる。

教育が多くの人々に浸透すれば、世界を救う力になることは間違いない。マララさんの夢を実現に導くものの一つに「1つのLED照明」をぜひとも加えたい。

編集執筆者

1963年福岡県出身。86年九州大学工学部卒業後、朝日新聞社入社。その後、学習研究社にてファッション女性誌編集者、ダイヤモンド社にてWebマスター、雑誌編集長、書籍編集などを経て、2007年メディア・ナレッジ設立。代表に就任。出版&電子出版、Webプロデューサー、PRコンサルタントとして活動。現在は、駒沢女子大学教授、桜美林大学非常勤講師を務める。専門は「コミュニケーション」「編集論」。

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