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トランプ次期大統領に同盟国防衛で有力紙が苦言?

立岩陽一郎InFact編集長
記者に質問されて応じるトランプ次期米大統領(写真:ロイター/アフロ)

トランプ氏の第45代大統領就任が秒読みとなっている米国だが、トランプ氏の発言やツイートに対する批判が高まるなど、かつてない異常な事態となっている。こうした中、有力紙が、「米国が同盟国防衛から得ているもの」と題する記事を載せた。同盟国の防衛に疑問を投げかけるトランプ氏に向けたものと受け止められている。

記事はニューヨークタイムズ紙が15日付日曜版のほぼ1ページを使って掲載した。タイトルは「米国は同盟国と海外での利益を守ることで何を得ているのか」。地域ごとの状況、米国が行っていること、その見返りとして米国が得ているものを、図を入れてわかりやすく説明している。

このうちアジアについては、米中間の貿易額が5990億ドルと中国がEU圏に次いで2番目に大きな貿易相手国であること、日本が1940億ドルと5番目、韓国が1150億ドルでそれに続いていることが紹介されている。

特にアジアについては北東アジアと東南アジアに分けて解説。このうち北東アジアについては、日本に米兵45000人が駐留し第七艦隊が基地をおいていること、韓国に米兵28500人が駐留していること、米国は日韓を防衛する義務を負っていることが書かれている。

(参考記事:トランプ氏が「カード」にする米軍おもいやり予算

そして、米国がその見返りに得ている点については、中国と北朝鮮に近い場所に基地を得られていることとし、日本政府が駐留経費の75%を負担しておりその額は年間で44億ドルにのぼることが書かれている。

因みに駐留経費の負担については各国の状況が記されている。韓国政府は40%で8億4300万ドルを、イタリア、ドイツに米軍が駐留する欧州では両国政府が駐留経費の34%、25億ドルを負担していると書かれている。特に説明が有るわけではないが、日本政府が突出して駐留経費を負担していることが一目瞭然となっている。

トランプ氏はこれまで再三、日本など豊かな同盟国を米国が防衛することに否定的な見解を示してきた。記事の趣旨について、トランプ次期大統領が同盟国を防衛することについて疑問を投げかけているためにまとめたとしている。

トランプ氏をめぐっては人種差別に反対した公民権運動の象徴的な存在とされるジョン・ルイス議員をツイートで揶揄するなどして批判されている。利益相反の問題も絡んで大統領としての適格性に疑問の声が出るなど、就任まで1週間を切ったこの時期としては異例の事態となっている。

ニューヨークタイムズ紙はマスコミ批判を繰り返して当選したトランプ氏が真っ先に訪問して編集幹部と意見交換をした米国の有力紙。トランプ氏を取材してきた米国人雑誌記者は、この記事について、「(ニューヨーク)タイムズの読者を想定しているとは思えないほどわかりやすい書き方をしているのを見ると、恐らく次期大統領に向けて書いたのだろう。この期に及んでトンチンカンな発言を繰り返す彼に、『恥ずかしいから勉強しろ』と苦言を呈したんじゃないか」と話している。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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