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トランプ氏の大統領就任式に民主党議員が大量欠席 途中退陣したニクソン大統領以来の事態

立岩陽一郎InFact編集長
マーチン・ルーサー・キング牧師の三男と面会して融和をアピールするトランプ氏(写真:ロイター/アフロ)

トランプ氏の大統領就任式まで数日に迫った米国で、民主党議員が数十人規模で式への欠席を表明する異常な事態となっている。選挙時に対立しても結果が出たら新政権の誕生を全国民で祝うのが伝統だっただけに人々に衝撃が広がっている。政権移行チームは民主党議員に参加を呼び掛けているが、欠席者数は逆に増える状況だ。こうした事態は、その後退陣に追い込まれたニクソン大統領以来とされる。

●欠席者は60人ほどに

ドナルド・トランプ氏は今月20日に第45代米大統領に就任する。しかし、これまでの度重なる社会的少数者に対する暴言や女性蔑視発言に加えて、ロシアとの不透明な関係や本人の経営する企業と大統領職の「利益相反」が指摘され、批判はおさまる気配に無い。

こうした中で、民主党議員多数が就任式を欠席することを表明。ワシントン・ポスト紙はその数は60人ほどになるとみられると伝えている。

●公民権運動の象徴を揶揄したトランプ氏

この動きに拍車をかけているのは、トランプ氏が民主党のベテラン黒人議員、ジョン・ルイス氏を揶揄した問題だ。ルイス議員は人種差別と闘った公民権運動の象徴的な存在。NBCテレビのインタビューに対して、トランプ氏の大統領の正当性に疑問を呈し就任式への出席を見送ることを表明。

これに対してトランプ氏がツイートで、「ルイス議員はしゃべるだけ。ひどい状態にある自分の州を何とかすべき」などとルイス議員と地元のジョージア州を揶揄したため、ここに来て黒人を中心に怒りが一気に噴き出した状況だ。ジョージア州を犯罪の巣窟のように語ったことが事実に基づかない批判を繰り返すトランプ氏のイメージを更に印象付ける結果となっており、州最大の新聞が一面で「How dare you(なんて奴だ!)」と次期大統領を批判する事態にもなっている。

政権移行チームはルイス議員や民主党議員に対して就任式への参加を呼び掛けているが、ルイス議員はその後に姿を見せた公式の場で、「我々は立ちあがる必要のある時には立ち上がり、声を出さなければいけない」と語るなど、呼び掛けに応じない姿勢を示している。

●過去には途中退陣したニクソン大統領時に

首都ワシントンを拠点にトランプ氏を取材しているベテラン記者は、「こんなことは経験したことがない。どんなに激しい選挙戦が闘われた後も大統領に対してはどちらの側も敬意を表すのが伝統だった。こうなったのは残念だが、こうなったことにはそれなりの理由があり、今後どうなるのかわからない」と話している。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (5)~米トランプ次期政権に娘婿入りで「利益相反」も問題に)

就任式への議員のボイコットが記録されているのは、ウォーターゲート事件でその正当性に疑問が呈されていたニクソン大統領の1973年の二期目の就任式。その時、民主党議員に大量のボイコットが出たという。ニクソン大統領はその後、間もなく退陣した。

大統領就任前に早くも暗雲が垂れ込めるという状況のトランプ氏。就任式の翌日にも大規模な反対集会が首都で予定される。自ら招いた形の批判とどう向き合うのかが今後の政権運営の焦点になってきている。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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