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トランプ大統領就任前夜祭に見る米国の分裂

立岩陽一郎InFact編集長
大統領就任式の前夜祭(撮影:加藤雅史)

トランプ氏の大統領就任式を前に、首都ワシントンで19日、前夜祭が開かれた。トランプ氏はそこで国民の統合を訴えたが、そこで見られたのはこの国の紛れもない分裂だった。

●アメリカを再び偉大に

「Make America Great Again(アメリカを再び偉大に)」というトランプ氏の選挙スローガンを掲げた前夜祭は、米国の聖地とも言えるリンカーンメモリアルで現地時間の19日午後4時から始まった。

トランプ支持の赤いキャップ帽をかぶる女性
トランプ支持の赤いキャップ帽をかぶる女性

周辺をフェンスで囲んだ敷地には手荷物検査を受けた人々が集まり、国歌斉唱や軍の行進曲など陸軍音楽隊の演奏でイベントは始まった。会場にはトランプ氏も訪れ、ミュージシャンの演奏や歌に聞き入った。

壇上に立った俳優のジョン・ボイド氏は、「みなさんも、この長い選挙戦での根も葉もないトランプ氏の中傷に嫌気がさしているでしょう」と一連のトランプ氏に対するマスコミの報道を批判。それに集まった人々が大きな歓声で応えていた。

●白人だけの集会

しかしこの前夜祭、やはり異様だった。トランプ氏を応援する若者やトランプ支持が書かれた赤い帽子を被った老夫婦など見渡す限り白人で、黒人やヒスパニック、アジア系といった人々は数えるほどだった。

白人の集会と化した前夜祭
白人の集会と化した前夜祭

集まった白人の人々に話をきいた。コネチカット州から来たというアンドレア・ティーソン氏は、「勿論、トランプ氏の当選を祝うために来たわよ。私たちは彼を信じているわ」と話した。「白人ばかりだが?」と水を向けると、「そうかしら」と関心無さそうに答えた。

ジョージアから来たという大学生の男女の集団がいたので話をきいた。トランプ氏は自らの正当性に疑問を呈したジョージア州選出のジョン・ルイス議員をツイッターで揶揄した際に、ジョージア州についてもひどい場所だと中傷している。大学2年生のジェームズ・バーク氏は、「まったく気にしていない。トランプ氏はルイス議員の発言に腹を立てただけで、別にジョージア州を非難しようとしたわけじゃない。そんなことより、彼への期待の方が大きい」と話した。

見渡す限り白人という光景は、首都ワシントンでは極めて珍しい。普通の生活をしていて、様々な人種が混じった光景しか目にしないからだ。そこに見たのは明らかに、この国が今後向き合わねばならない分裂の姿なのだと感じた。

現場の警備にあたっていた警察官に来場者は何人になるのかと尋ねると、「数えられないが、8年前とは比べ物にならない。8年前はこの数倍は来ていたから」と話した。

会場でトランプ氏の旗を振る若者
会場でトランプ氏の旗を振る若者

8年前とはオバマ大統領の最初の就任式だ。その時のイベントは、白人だけの集まりではなかった筈だ。黒人を奴隷制度から解放したことで知られるリンカーン大統領の像の前で、まさか白人による白人のための行事が開かれるとは。リンカーン大統領も複雑な心境なのではないかと思った。

●統合を呼び掛けたトランプ氏

壇上に上がったトランプ氏は、「アメリカを再び偉大な国にするという我々のスローガンが指すアメリカとは、全てのアメリカ人を含んでいる」と統合の重要性を呼びかけた。しかしその言葉はフェンスの向こうには届いていない。

首都ワシントンの警備当局は、20日の就任式に一般参加する人の数は多くても90万人と見積もっている。これは8年前のオバマ大統領の就任式の参加者の半分ほどだ。一方、その翌日に予定されているトランプ氏の大統領就任に抗議する人々も、数十万人規模と見ており、不測の事態に備えて厳重な警備体制をとっているという。

反トランプの象徴となっている猫の耳のニット帽をかぶった女性達
反トランプの象徴となっている猫の耳のニット帽をかぶった女性達

首都ワシントンには、既に抗議集会に参加する人々も来ており、反トランプの象徴として広まっている猫の耳のついたピンクのニット帽をかぶった人々の姿も目に付いた。

トランプ氏は現地時間の20日の正午に注目の宣誓を行い、その後、この国のリーダーとしての初めてのスピーチをすることになっている。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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