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静かに、だが確実に広がりを見せている反トランプの動き

立岩陽一郎InFact編集長
地下鉄に立ち続けるエリザベス・ワーリーさん。

イスラム教徒の入国を制限したトランプ大統領の命令が多くの米国人に衝撃を与えている。土曜日の午後、首都ワシントンの地下鉄に1人の女性が立っていた。

「朝起きて、これは怖いことだと思った。で、私に何ができるのか問い掛けたの。そして、いてもたってもいられなくて・・・」

そう話す女性はエリザベス・ワーリーさん(28)。首都ワシントンの会社に勤めるOLだ。

土曜日の朝、ワーリーさんは1人サインボードをもって地下鉄に乗った。そして電車を乗り換えて立ち続けているという。

サインボードには「イスラム教徒を守ろう、難民を救おう」。

誰かに話しかけるわけではない。ただひたすらサインボードを掲げて立ち続ける。

「この国の今の姿に、言いようのない恐ろしさを感じる。移民の制限や特定の宗教を攻撃することは、この国の理念とはかけ離れている」

トランプ大統領の発したイスラム圏からの入国を制限した大統領令は、イスラム教徒が多数を占める7ヵ国からの人の入国を禁止するというもの。難民の入国は勿論、米国の市民権を取得している人も対象となっている。

衝撃を受けているのは入国を禁じられたイスラム教徒だけではない。米国人の多くが衝撃を受けている。憲法違反だとの指摘も出ている。大統領令を受けて空港で多くのイスラム教徒が拘束され強制送還の措置がとられることになっているが、これに対して連邦裁判所が強制送還を禁じる判断を示した。裁判所が週末に判断を出す異例の対応だ。

ワーリーさんはカトリック教徒だ。生まれも育ちもワシントン近郊だという。でも、自分が守られているとは思わないという。

「この国は1930年代に戻ろうとしているように感じる。そうなれば、あらゆることが抑圧される。私は自分の国がそうなることに耐えられない」

最初は遠巻きに彼女を見ていた乗客。私が彼女に話しかけて暫くし、人々が彼女に声をかけ始めた。謝意を述べる彼女。その時、黒人の女性が彼女に声をかけた。

「お礼を言うのはあなたじゃない。みながあなたに感謝している」

トランプ大統領への反発は静かにだが、確実に広がっている。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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