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「トランプ船に乗った安倍総理」 米ジャーナリストから見た日米首脳会談

立岩陽一郎InFact編集長
夕食を楽しむトランプ大統領と安倍総理(写真:ロイター/アフロ)

安倍総理とトランプ大統領との首脳会談は日本では概ね高評価なようだ。確かに、共同記者会見は全米に生中継され、4大ネットワークの1つ、NBCテレビの夜のニュースでも、4項目目という大きな扱いだった。安倍総理の側としては「してやったり」という感触だろう。しかし、米ジャーナリストらの反応からは、そう喜んでいられない現実も見えてくる。

●尊敬されない大統領

言うまでもなく、記者会見が中継されたのも、ニュースで大きな扱いを受けたのも、米国人が日米関係に関心が有るからではない。トランプ大統領のあらゆる発言が注目されている状況が生んだものだ。

大統領令が否定される控訴審判決が前日に出ており、米国の記者の質問もそこに集中。それも予想されたことなので驚くにはあたらない。だから、それをもって安倍総理の狙いが外れたと批判するのは公平ではない。それは安倍総理の側も承知の上だろう。

ただ、日本ではあまり報じられていない意外な反応がある。米国のジャーナリストから示されたツイートだった。これは、米国のジャーナリストの間でかなり共有されているという。

ホワイトハウスに安倍総理を迎えてご満悦なトランプ大統領だが、安倍総理は「やってられないなぁ」という表情を見せる・・・というニュアンスの切り取られ方だ。

当然、これが事実ではないことは、日本人は知っている。しかし、様々な問題を引き起こすトランプ大統領と好んで付き合っている首脳がいるとは米国では思われていない。

首脳会談が開かれた10日、ギャロップ社の最新の世論調査も大きく報じられた。そこには、米国人に、トランプ大統領が世界の首脳から尊敬されていると思うかと問うた結果が示されていた。

尊敬されていると思うは29%。

尊敬されていると思わないは67%。

http://www.gallup.com/poll/203834/americans-world-standing-worst-decade.aspx?g_source=Politics&g_medium=lead&g_campaign=tiles

「尊敬されていると思わない」が「尊敬されていると思う」を上回るのは極めて異例だという。こうした状況の中で、トランプ大統領に無理やり付き合わされる安倍総理というイメージも出てきているのだろう。

●フロリダ滞在と利益相反

もう1つ、トランプ大統領を取材する雑誌記者に尋ねられたのは、「ゴルフにまで付き合わされるということは、日本では問題になってないのか?」

「問題になるどころか、みな大喜びだよ。日本の総理大臣が各国の首脳を差し置いて特別扱いになったと」

彼が言ったのは、安倍総理は大統領の別荘に宿泊するので支払いは発生しないと思われるが、随行職員らはトランプ・グループの施設に宿泊した場合、支払いはどうなるのか?支払いが生じるが、それはこの国で禁止されている外国政府からの大統領に対する利益供与にあたる恐れも出るのだという。

「この問題を日本側に言うのは筋が違うかもしれないが、トランプ大統領をめぐる問題というのは複雑なんだ」

トランプ大統領が自身の経営する企業との公私混同が指摘される「利益相反」の問題。日本側の意図しないところで、日本もこの問題の取材対象に入ったことになる。

●トランプ大統領は理解していた?

翌朝のテレビのニュースでも、安倍総理と一緒にいるトランプ大統領が繰り返し流されている。ホワイトハウス担当の記者がフロリダから中継で、「きょうは2人でゴルフを行う」と話している。

ただ、トランプ大統領と一緒に食事をする安倍総理の映像が流されて伝えられる内容は日米安保でも、日米貿易交渉の内容でもない。

事実上のイスラム教徒の入国制限となっている大統領令が控訴審判決で退けられたこと、そしてそれについての今後の大統領の対応、国家安全保障担当大統領補佐官のマイケル・フリン氏がトランプ大統領の就任前にロシア大使と制裁について話していたとの疑惑、トランプ大統領の長女のイバンカ氏のビジネスへのホワイトハウスの関与の問題などだ。

(参考記事:米記者から「出来レース」批判された安倍首相国連会見

それらが米国のメディアを賑わすニュースであることは間違いなく、それが安倍総理の姿とともに語られるのは仕方がない。また、それがトランプ大統領の頭の中を支配していることも間違いない。新聞もテレビも、トランプ大統領が記者会見で途中まで同時通訳用のイヤフォンをしていなかった事実に触れることを忘れていない。ワシントン・ポスト紙は、「トランプ大統領が安倍総理の発言を理解していたかは明確ではない」と書いている。

●トランプ政権がこけたら安倍政権もこける

そのワシントン・ポスト紙のデスクは次の様に話した。アジアでの取材経験のあるベテラン記者だ。

「安倍総理とその周辺にとっては今回の会談は成功ということになるのだろう。普通なら、これは日米関係の良好さを示すという意味で、誰もがハッピーな話だ。しかし、大統領がトランプだという点を考えると、日本にとってもそれが良いのかわからない」

もう少しはっきり言ってくれないかと頼むと次の様に話した。

「前のめり過ぎないかということだ。最初に首脳会談を行ったメイ(英首相)も、帰国後はトランプ一辺倒でないことを明言している。メキシコやカナダといった正直言って、目下、米国にとってもっとも重要な国・・・日本の皆さんには申し訳ないが・・・の首脳ははるかに距離を置く姿勢を示している」

そして続けた。

「はっきりしていることは、安倍総理とトランプ大統領との友好関係をアピールする場にはなっているということだ。そして、安倍総理の命運がトランプ大統領の手の中に握られたことは間違いない。つまりトランプ政権がこけたら安倍政権もこけるだろう。つまり安倍総理はトランプ船に乗ったわけだ」

(参考記事:名誉毀損か言論封殺か DHC吉田会長訴訟始まる  被告が反論「社会的強者が批判を嫌っての訴訟」)

なるほど、安倍総理はトランプ大統領の船に乗った。もう下船は許されないということなのかもしれない。しかし、と彼は言った。

「しかし、トランプ大統領にとってはどうか?安倍総理がどうなろうとも、トランプ大統領は痛くもかゆくもない。捨てる時は捨てるだろう。そして、彼は平気でそういうことをやってきた人物だ。それは知っておいた方が良い」

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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