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ネットに匿名で虚偽や暴言を投稿する行為には、実はリスクしかないことを知ってますか?

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
匿名だからといって何をしても大丈夫と思うのは大きな間違いです(写真:ロイター/アフロ)

熊本地震の報道の関連で、マスメディアの方々の行動がやり玉に挙がるケースが増えているようです。

特に大きな話題になったのは、毎日放送のアナウンサーが現地で入手したらしきお弁当の写真を投稿した騒動と、関西テレビの中継車がガソリンスタンドに割り込んだ騒動ですが、個人的に最も気になったのがこちらの話題。

関連会社の社員が「関テレのガソリンスタンド横入り」にデマを流して擁護!? フジテレビ系列の仙台放送がお詫びを掲載

前述の関西テレビの中継車がガソリンスタンドに割り込んだ騒動に関して、仙台放送エンタープライズの社員が擁護のツイートを投稿していたようなのですが、実はそれは虚偽のツイートだったことが判明したということで仙台放送がサイトにお詫びを掲載したというのです。

実際のツイッター投稿は削除されていますが、中身はこういう文章だった模様。

熊本でテレビ局の中継車がガソリン給油で横入りしたと騒ぎが出ていますが、話を調べると自分たちの燃料をドラム缶等で持ち込んで来ていて、危険物の管理をGSにお願いしているらしいです。五年前の東北の地震の時も同じような事が流れたので直接調べました。

この仙台放送エンタープライズの社員が、何を考えてこの投稿をしたのか、関西テレビの中継車が知り合いだったからかばおうとしたのか、マスメディアに対するバッシングが見てられなくてつい筆が滑ったのか、既にアカウントも削除されていますし、仙台放送の謝罪文には詳細が書かれていないので真相は全く分かりませんが。

謝罪文に勘違いで投稿とは書かずに「虚偽の投稿」と書いてあることから、投稿した時点で自らウソであることを認識して投稿していたのは間違いなさそうです。

そもそもこの社員はツイッターアカウントを匿名で運用していたようですが、過去の投稿からテレビ局関係者であることを推測され、最終的には本名も突き止められたということのようです。

繰り返されるマスメディア関係者による匿名での暴言や虚偽投稿

マスメディア関係者による匿名ツイッターによる虚偽の投稿という話でメディア業界関係者の方々の記憶に新しいのが、昨年11月に話題になった新潟日報報道部長の暴言アカウントでしょう。

Twitterで「クソ馬鹿ハゲ野郎」 匿名アカウント、実は新潟日報の報道部長だった

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ツイッター上で匿名で暴言を連投していたアカウントが、実は新潟日報の報道部長だったということで、業界に衝撃が走った騒動でしたが、残念ながら、この時の教訓は少なくとも仙台放送では活かされていなかったようです。

ネット上では匿名の投稿が多く情報の真偽の判断が難しいのが問題であるという論評は、マスメディアの方々がネットを批判する際によく使われるテンプレ的な発言という印象があります。

実際、ネット上では匿名でマスメディアを批判する声も多数見られますから、マスメディアに勤める方々からするとネットの匿名発言に良い感情を持っていないケースは多いでしょう。

ただ、一方でそういうネットの匿名発言に対するイメージからか、マスメディアの方々自身が匿名でネットで発言すると、上記の事例のように過度に暴言に走ってしまったり、虚偽の投稿を平気でしてしまったりという事例が昔から散見される印象もあります。

個人的にそういう人が勘違いをしているのでは無いかなと思うのは、ネット上の匿名の発言は実名のように会社の看板を背負って発言するのに対して「安全」だ、と思い込んでいるのではないかという点です。

ネット上の匿名は、「無敵の人」なのか?

確かに、勤務先の会社名を明記してネット上で発言することには明確にリスクが存在します。特にマスメディア企業の人が会社名を明記して発言すると、マスメディア側の人間であること自体で批判されるケースは確かにあるようです。

また、一部のマスメディア企業においては、ソーシャルメディアの実名での利用が禁止されているケースもあるように聞いています。

ただ、問題は匿名であれば「安全」なのか?という点です。

もちろん、日本においてはどちらかというと実名よりも匿名でのネット投稿の方が主流の印象もありますし、その関係で匿名での罵詈雑言や誹謗中傷も多数あります。

ネット上ではそういった人達を「無敵の人」と表現することもあり、ある意味マスメディア企業に勤める方々からすると、そういったネット上の匿名に対する憧れのようなものがあったりするのかもしれません。

でも、実はそういった多くのネット上の匿名の投稿が「無敵の人」なのは、いわゆるニートのように本当にその人達が何も失うものがない立場の場合だけなんです。

マスメディア企業のような社会的地位に勤める人が、そういった無敵の人達と同様の暴言や虚偽の投稿を行って、今回のように実名や勤務先がばれてしまうと、当然のようにその個人だけでなく勤務している会社にも社会的批判が殺到することになります。

前述の新潟日報の報道部長は、無給・無期限の懲戒休職処分になっていますし、2013年には、復興庁の参事官がツイッターで暴言を投稿していて処分されたケースもあります。

水野靖久復興庁参事官、30日間の停職処分、この処分は重いのか

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実は、ネット上で匿名で暴言や虚偽の投稿をするという行為が「安全」に見えるのは、匿名の状態がばれないという「仮定」の上に成り立っていますが、この「仮定」にはほとんど根拠がありません。

今回のようにツイッターで匿名で長く投稿を続ければ、その内容を分析することで身バレする可能性が高まることになります。

2ちゃんねるのような匿名掲示板に書き捨てたとしても、殺人予告等の深刻なものであれば、警察が調査することでIPアドレス等から本人特定することが可能です。

つまり、ネット上の匿名の投稿が「安全」というのは幻想でしかなく、実はネット上で匿名で暴言や虚偽の投稿をするという行為にはリスクしかないのです。

実名よりも匿名の方が実はリスクが大きくなる

そもそも実名で会社名を開示して投稿をしていれば、当然そんなに無茶苦茶な発言はしないはずです。

ネット上では暴言を吐いているから怖い人かと思っていたら、実際会ってみたら優しい人だったというケースは皆さんも経験あるでしょう。

日本では、会社の事情とかで実名で活動できない人がまだまだ多いのは事実ですし、匿名自体を否定するものではもちろんありません。

ただ、匿名なら大丈夫と思い込むことで、実名がばれたら問題になる暴言や虚偽をネットに投稿しまくるというのは、実際にはばれたときに大きなリスクを抱え込む行為をし続けていることになります。

失うものがあるのであれば、匿名であっても、ばれても胸を張れるように実名で書いているつもりでネットに投稿するべきなのです。

この話は当然、マスメディアに勤める人達だけの話ではありません。

企業に勤めているサラリーマンであれば同様に会社に批判が殺到すれば職を失うリスクがありますし。

大学生であっても大学に批判が殺到すれば退学になるリスクがあります。

今回の熊本地震においても、普段のうっぷんばらしなのか、愉快犯なのか、ネット上に虚偽の噂やガセネタを投稿している人が散見されました。投稿した本人は、遊びのつもりかもしれませんが、もしそれによって誰かが何らかの被害に遭った場合、今回のように投稿者の実名探しが始まる可能性もありますし、過去の投稿のログを辿って訴えられるリスクも存在します。

匿名で暴言や虚偽の投稿をするのは、その瞬間は少し気分が晴れるのかもしれませんが、所詮それだけです。

最終的には、投稿した人には何のメリットも無くリスクしかありません。

匿名のハッカー集団よろしくそのリスクを理解した上でやるのだ、というのであれば止めませんが、その覚悟と匿名を隠し続ける才能があるのであれば、暴言とか虚偽投稿ではなく、もっと有意義なことができるはず。

もし、皆さんのまわりにネットの匿名の無敵神話を信じて暴言を投稿し続けている人がいるようでしたら、是非今回の騒動を参考に思い直すよう説得して頂くことを強くおすすめしたいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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