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トランプ大統領抗議デモに現れた黒ずくめの“群衆”「ブラック・ブロック」とは何なのか

富永京子立命館大学産業社会学部准教授
(写真:ロイター/アフロ)

トランプ新米大統領の就任に際して、全世界で「Women’s March」(ウィメンズ・マーチ、女性大行進・女性の行進)が盛り上がっていますが、海外の報道の中で黒ずくめの集団を目にした人も多いのではないでしょうか。欧米を中心に活動するこうした集団は、WTO閣僚会議やG7サミット、G20サミットといった大規模な国際会議に現れ、警察との暴力的衝突や多国籍企業のチェーン店舗に対する攻撃などを行います。個人が判別・特定不可能なように黒い装束を着て活動する点、また、あくまで同じ装束に身を包んでいるだけで、固定的なメンバーによる組織や集団を指すのではない「一時的集合」であるという点が特徴となっています。このような活動の形態は、しばしば「ブラック・ブロック(Black Bloc)」と呼ばれます。

1980年代ごろに欧州で現れたオートノミズム運動がその源流となっており、もともとは「オートノミスト」といった呼ばれ方をされてきました。グローバルな経済活動に反対するためのマクドナルドやスターバックスといったチェーン店に対する攻撃や、閣僚会議に向かう車輌を通行止めにするといった形での妨害活動が主たるものです。こうした活動を行うことに対しては、同じく「反トランプ」「反グローバリズム」を主張する活動の中でもかなり意見の分かれるところです。同じデモに参加する人々でも、彼らと同じく暴力的な活動とされることを嫌う人々も、暴動のない「平和的なデモ」(Peaceful Protest)として自らの活動を定義する集団も多くあります。

ブラック・ブロックの活動は、1999年シアトルWTO閣僚会議において大々的に報道され、それに影響を受けた人々が同様の活動をおこなうケースもありますが、従来の社会運動従事者からは拒否される事例も数多くありました。ブラック・ブロックは一般市民に危害を加えたり、物品を盗むようなものではありませんし、グローバルな大資本は、多くの人々を搾取する「敵」として捉えられるでしょう。一方で、そこで働く人々は、低賃金の労働者であったり非正規雇用の職にしか就けない人々であったりもします。そういった人々を巻き込む可能性のある暴動(「直接行動」と呼ばれます)が歓迎できないという声は当然根強くありますし、攻撃的な活動のあり方そのものが平等を志向する社会運動にそぐわない、「ブラック」という呼称が差別を連想させる、といった点から、また異なる形で抵抗感を示す人々もいます(L. J. Wood, 2012, “Direct Action, Deliberation, and Diffusion”, Cambridge University Pressなど)。

日本では2008年に行われたG8サミットへの抗議行動でこうした活動が見られるかと危惧されていましたが、筆者による過去の記事(デモはなぜ危険に<みえる>のか)でも論じたとおり、日本では特に攻撃的な市民活動が敬遠されがちであり、警察もまた厳重な警備体制をおこなってきた経緯があります。また、多くの社会運動団体は過去の反省から暴力的な行動と距離をおいてきたという事情もあり、日本の市民団体により暴力的な活動が事前に制止され、暴力行為は見られず、あくまで平和的な活動にとどまりました。

あまり馴染みのない活動に驚かれた方々もいらっしゃるかもしれませんが、ブラック・ブロックが行動するにあたっては一応のところ、こうした事情があるのです。

※この記事は、著者の過去に刊行した著書(富永京子,2016『社会運動のサブカルチャー化』せりか書房)の一部に基づき、2017年1月現在の情報を加筆したものです。

立命館大学産業社会学部准教授

1986年生まれ。社会運動論、国際社会学。著書に『社会運動のサブカルチャー化』(せりか書房、2016年)、『社会運動と若者』(ナカニシヤ出版、2017年)、共著として『サミット・プロテスト』(新泉社)、『奇妙なナショナリズムの時代』(岩波書店)。社会運動を中心とした政治参加が、個人の生活とどのように関連しているかを中心に研究している。

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