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2012年の極私的ジャズ重大ニュース解説 怒涛の連続3アップ その2

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

2012年のジャズ的なニュースを振り返って解説を加えるというコラムの第2弾です。

本題に入る前に、2012年のベスト・セールスという観点からジャズを眺めてみましょうか。今回取り上げる情報ソースは、タワーレコードとビルボードの2つ。まずはタワーレコードから。

JAZZ、CLASSICALランキング!   TOWER RECORDS
JAZZ、CLASSICALランキング! TOWER RECORDS

12月3日付でタワーレコードのサイト「TOWER RECORDS ONLINE」にアップされた「【2012ベストセラーズ】年間チャート大発表」という記事(キャプチャー右=引用:TOWER RECORDS ONLINE|JAZZ、CLASSICALランキング!)では、「2012年にタワレコで売れたアイテム」をランキングにして発表しています。

ジャズ部門ではノラ・ジョーンズ関係が1~2位を独占、10位にも旧作が入るという「独り勝ち」状態と言えます。ロバート・グラスパーやエスペランザ・スポルディングが上位に食い込んでいるのはタワーレコードの購買層を反映していて興味深いのですが、もしかしたら一般的でなかったりするから、ちょっと割り引いて眺めておきましょう。それより、意外に旧譜の再発が目立たなかったというあたりが、新たなジャズ・ブームの兆候なのかもしれません。

Billboard JAPAN Music Awards|Billboard JAPAN
Billboard JAPAN Music Awards|Billboard JAPAN

洋楽のヒットチャートの代名詞にもなっているビルボードの日本版サイトでは、今年で4回目となる「MUSIC AWARDS」(キャプチャー右=引用:Billboard JAPAN MUSIC AWARDS 2012|アワード全部門受賞者発表)を設置して表彰を行なっているのですが、こちらもアーティスト部門の優秀ジャズアーティスト賞はノラ・ジョーンズ。チャート部門のアダルトコンテンポラリーエアプレイチャート年間1位もノラ・ジョーンズが、5月にリリースした新作『...Little Broken Hearts』から「ハッピー・ピルズ~幸せの特効薬」で射止めているという状態。ジャズアルバムチャート年間1位に上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクトの『MOVE』が食い込んで、なんとか一矢を報いているという感じになっていました。

では、ニュースを振り返ってみましょう。

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ジャズ歌手・八代亜紀、世界75カ国でデビュー (BARKS)
ジャズ歌手・八代亜紀、世界75カ国でデビュー (BARKS)

ジャズ歌手・八代亜紀、世界75カ国でデビュー|BARKS 9月26日(水)11時53分配信

演歌の女王と呼ばれていた八代亜紀が「本格的にジャズに挑戦!」という話題は、夏前のエンタメ界を席巻したエポック。彼女が出場したジャズ・フェスティヴァルも話題になったことは記憶に新しい。そこへきて、10月にリリースしたジャズ・アルバムが「iTunes、Spotifyなどを通じ世界75カ国で同時配信され」て、「邦人アルバムとしては史上最大級の規模でのリリース」なのだから、彼女のジャズ・プロジェクトがいかに本気だったかが伝わってくるのではないだろうか。来年のチャートで、ノラ・ジョーンズと八代亜紀がデッド・ヒートを演じている、なんて結果を想像するのは鬼が笑うかもしれないけれど、日本のジャズ・ファン冥利につきるような展開を期待したいな。

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レディー・ガガ、トニー・ベネットとジャズ・アルバムを制作へ (bmr.jp)
レディー・ガガ、トニー・ベネットとジャズ・アルバムを制作へ (bmr.jp)

レディー・ガガ、トニー・ベネットとジャズ・アルバムを制作へ|bmr.jp 9月29日(土)23時42分配信

86歳の現役ジャズ・ヴォーカリストであるトニー・ベネットは、まさに”生きる伝説”という存在。彼は、昨年リリースした『Duets II』のなかの1曲でレディ・ガガとデュエットし、それを発展させるかたちで1枚丸々レディ・ガガと共演するアルバムを作ろうというプランを進めているらしい。ニュースのコメントから察すると、前作ではおそらくベネットはガガとスタジオで顔を合わせずに作品を仕上げたのではないだろうか。シングル・リリースされた反応が好評だったことを受けて周囲も動いたのだろうが、いずれにしても”ジャズの伝説”と”ポップ・アイコン”の「がっぷり四つ」に組んだパフォーマンスは、来年の台風の目になるだろう。

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大江千里、キャリアを投げ打って挑戦したジャズへの思いを熱く語る! (シネマトゥデ
大江千里、キャリアを投げ打って挑戦したジャズへの思いを熱く語る! (シネマトゥデ

大江千里、キャリアを投げ打って挑戦したジャズへの思いを熱く語る!|シネマトゥデイ 10月11日(木)23時0分配信

シンガー・ソングライター大江千里のジャズへの挑戦も本気度の高さが伝わってきた。2008年に47歳で日本での活動を休止して渡米、いちからジャズを学び直して、50歳にして再デビューするという気合の入れようだったのだから。デビュー当時の彼を見て「ユニークな曲を作ることのできるアーティストだ」と思った記憶があるのだけれど、それほどジャズに傾倒しているようには感じたことがなかったので、正直言ってこの報道は意外だった。それだけに、彼には既存のジャズが触らなかったようなニュアンスを表現できるアーティストになってほしいと思っている。これからの動向も注目していこう。

ちなみに、このニュースで触れているミシェル・ペトルチアーニは、ジャズ・ピアノの巨人であるビル・エヴァンスが亡くなった1980年以降、もっとも注目しなければならない存在なので、このニュースとは別に映画「情熱のピアニズム」もぜひチェックしてほしい。

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「クレージーキャッツ」桜井センリさん死去 (東ス・Web)
「クレージーキャッツ」桜井センリさん死去 (東ス・Web)

「クレージーキャッツ」桜井センリさん死去|東スポWeb 11月12日(月)13時24分配信

桜井センリさんの訃報。クレイジーキャッツは日本の20世紀エンタテインメント・シーンを語るうえで欠かせないばかりか、ジャズにおいても重要な地位を占める存在。ジャズの発祥はミンストレル・ショーなど歌と踊りが融合したエンタテインメントであったことを考えると、彼らが実践していたことはまさに「ジャズだった」とも言えるのだ。

ジャズ・ミュージシャンとしての桜井センリは、1952年にアメリカへ留学する穐吉敏子の後任として迎えられるほどの腕をもつピアニストであったことも付け加えておきたい。

(この項まだ1回つづく)

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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