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”ジャズ・ピアノの天才”がたどり着いた”究極の楽器”とは?

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

鍵盤凹凸ない“究極のピアノ” 下田のジャズピアニスト考案

下田市柿崎の下田ビューホテルに“世にも珍しいピアノ”が存在する。通常、白・黒の鍵盤による凹凸があるが、そのピアノは白鍵も黒鍵も同一平面で、かつ等間隔に並ぶ「クロマティック(半音階もすべて演奏できる)ピアノ」と呼ばれるもので、同市大賀茂在住のジャズピアニスト・菅野邦彦さん(77)が考案。このほど完成し、29日に同ホテルで開かれるライブ「未来鍵盤」で初披露される。

出典:鍵盤凹凸ない“究極のピアノ” 下田のジャズピアニスト考案- 伊豆新聞

ボクが“ナマ菅野邦彦”を体験したのは、2003年6月のことでした。もちろん彼が、日本ジャズ界において稀有の才能を有して“唯一天才と呼ばれるピアニスト”であることを知っていて、実際にどんなサウンドを発するのかを確かめたくて、下北沢の小さなレンタル・スペースで開かれた小さなコンサートに足を運んだわけです。

実際に目の前で見た菅野邦彦は、全身をグルーヴさせながら、“七色の音”と表現するのがふさわしいほどの多彩で変化に富んだ“音楽”を絶え間なく生み出し、その創造性の豊かさとヴァイタリティに圧倒されてしまいました。

この記事ではピアノのユニークさがニュース・ヴァリューになっているように見えますが、実はそれ以上にユニークなのがそのピアノを考案した弾き手である菅野邦彦なのです。

菅野邦彦:天才ジャズピアニスト。学習院大学卒業後、当時来日していたトニー・スコットに認められメンバーとなる。その後、松本英彦(T. sax)カルテットを経てトリオを結成。六本木「ミスティー」の初代ピアニスト。72年からブラジル、NYなど8年にわたる放浪の旅に。帰国後、活動を再開。世界唯一の鍵盤を考案し、現在にいたるまで東京を中心に積極的にライブ活動を展開。

出典:プロフィール|ピアニスト菅野邦彦の公式サイト

クロマティックというのは、音楽用語でクロマティック・スケール=半音階のことを指し、平均律では1種類しかないことから、12音技法で作られた音楽であればいちおう演奏が可能であることを意味します。

ピアノは実はクロマティックな楽器なのですが、菅野邦彦考案の“未来鍵盤”はどうやら”平面で等間隔”というところがミソらしいのですね(ボクも実際には未見なのであくまでもニュース情報による推測ですが)。普通のピアノは標準で88個の鍵盤があり、1オクターブすなわち12音階のなかに白鍵が7本と黒鍵が5本、上下食い違いに並んでいますが、”未来鍵盤”はそこが異なるわけです。

ピアノを演奏すると調ごとに弾きやすさ弾きにくさが発生するので、正確にはクロマティックであるとは言い切れないと言う演奏者もいます。調はメロディの響き方に重大な影響を与える要素ですから、弾きやすい調と弾きにくい調が生じる楽器は、演奏者=表現者にとっては深刻な問題を引き起こすこともあるわけです。

もちろん、弾きにくい調を弾きやすいまでに訓練することは、古今の名ピアニストと言われる人が行なってきたはずですが、それでもやはり残ってしまうわずかな差異を許そうとしないところに、菅野邦彦の”天才”たる所以がある――、と言えるでしょう。

♪「平らな鍵盤」開発 菅野邦彦さん 【しずおか音楽の現場】

静岡新聞のニュース動画に、「菅野邦彦と平らな鍵盤」を紹介する映像がありました。実際の演奏は会場でのお楽しみ、ということなのでしょうが、なかなか衝撃的な”未来鍵盤”の姿をぜひご覧ください。

♪菅野邦彦(Kunihiko Sugano)ーAutumn Leaves

1975年のライヴ音源を収めたアルバム『The wine and roses』収録の「枯葉」です。イントロからアイデアとテクニックをフルに詰め込んで、テーマの冒頭で軽い絶頂感を味わわせるこの曲に、”スガチン・ワールド”が凝縮されているんじゃないかと、ボクは思います。菅野邦彦(ピアノ)、守新治(ドラム)、鈴木勲(ベース)、小川庸一(コンガ)。

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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