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月曜ジャズ通信 スタンダード総集編vol.3

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

月曜ジャズ通信で連載している「今週のスタンダード」<総集編>シリーズの第3回です。

<総集編>では、月曜ジャズ通信で連載している「今週のスタンダード」だけを取り出して、まずはスタンダードからジャズってやつを楽しんでみてやろうじゃないか!――と意気込んでいる人にお送りします。

♪ラインナップ

アズ・タイム・ゴーズ・バイ

オータム・イン・ニューヨーク

オータム・リーヴス

アヴァロン

スタンダード総集編vol.3
スタンダード総集編vol.3

※<月曜ジャズ通信>アップ以降にリンク切れなどで読み込めなくなった動画は差し替えるようにしています。

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●アズ・タイム・ゴーズ・バイ

この曲が流れると、ロマンス映画の名作「カサブランカ」を思い出すという人も多いでしょう。

ハンフリー・ボガート扮するリックが経営するバー「カフェ・アメリカン」に、理由もなく姿を消した恋人のイルザ(イングリット・バーグマン)が偶然来店して再会する場面を効果的に盛り上げてくれるのが、この曲です。

実はこの曲、1942年公開(日本公開は1946年)の映画のために作られたものではありませんでした。

オリジナルは、1931年のブロードウェイ・ミュージカル「エヴリバディズ・ウェルカム」のために書かれたものです。作詞・作曲はハーマン・フップフェルド。

フップフェルドはドイツ在住の9歳からヴァイオリンを習い始め、20代前半にあたる第一次世界大戦時は従軍、第二次世界大戦時はエンタテイナーとして基地や病院で活躍していたようです。

ミュージカルを丸々担当することはなかったのに、印象的なメロディと歌詞でブロードウェイでは知られた存在で、なかでもこの「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」は代表作として知られています。

1931年当時歌ったのはフランシス・ウィリアムズ。映画ではドーリー・ウィルソンが歌いましたが、ウィルソン版は当時のミュージシャン・ストライキの影響で録音できなかったというエピソードが残っています。

邦題は一般に「時の過ぎゆくままに」となっていますが、歌詞を見ると「世の中は相対性理論だとか科学の発達で変化の時代だとか言っているけど、キスの仕方が変わるわけじゃないし、ため息つくときは同じため息なんだよ、時が流れてもね……」というものなので、ちょっとニュアンスは違うかもしれませんね。

♪Casablanca 1942 As Time Goes By Ingrid Bergman Humphrey

映画「カサブランカ」で「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」が歌われる場面です。ハウス・ピアニストのサムに扮したドーリー・ウィルソンがピアノの弾き語りで歌っています。

♪As Time Goes By- Teddy Wilson

スウィング時代のトップ・ピアニストとして知られるテディ・ウィルソンによるヴァージョン。軽快ななかにもメロディを引き立てる絶妙な“味”を感じさせる演奏です。

♪As Time Goes By- Rod Stewart & Chrissie Hynde

ジェフ・ベック・グループやフェイセズといったバンドのヴォーカリストとして1960年代のロック・シーンを席巻したロッド・スチュワート。その後もロック系のポップス・シンガーとしてヒットを飛ばし続けますが、2002年から2005年にかけてスタンダードをカヴァーした『ザ・グレイト・アメリカン・ソングブック』シリーズ全4作をリリースして注目を集めました。この動画でデュエットしているクリッシー・ハインドは1979年デビューのバンド“プリテンダーズ”のヴォーカリスト。

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●オータム・イン・ニューヨーク

この曲は1934年のレヴュー「サムズ・アップ」のためにヴァーノン・デュークが作詞・作曲しました。

ヴァーノン・デュークは、1903年にロシア帝国下のミンスク(現・ベラルーシ)で生まれ、1929年からアメリカに拠点を移してブロードウェイで活躍した作家です。「エイプリル・イン・パリ」も彼の作曲だったので、<月曜ジャズ通信 2014年2月24日 五輪も終わった早く寝ろ号>でもちょっと触れていましたね。

「サムズ・アップ」のためにデュークが提供したのは3曲で、1曲はタップで踊るためのダンス・ナンバー、もう1曲はタンゴ調のものだったそうです。

そして残りの1曲がこのバラードなのですが、チャーリー・パーカーをはじめ多くのジャズ・ミュージシャンに取り上げられ、フランク・シナトラの歌でヒット・チャートもにぎわすようになったのは、レビューが終わってから10年以上も経った1940年代後半のこと。

♪Charlie Parker "Autumn in New York"

ジャズ・シーンで早い時期にこの曲に興味をもったのがチャーリー・パーカー。彼がクラシックの現代音楽好きだったというエピソードは有名ですが、実はこの曲を作ったヴァーノン・デューク、ロシア時代に師事していたグリエール門下の先輩であるプロコフィエフの助言を胸に、アメリカに渡ってからもクラシックへの情熱をもち続けた音楽家としての一面があり、それがパーカーのアンテナを刺激したんじゃないかと思うのです。

♪Tal Farlow- Autumn in New York

名手タル・ファーロウの手にかかると、スローなバラードとグルーヴの躍動感という両極端の要素が、喧嘩せずに共存してしまいます。冬支度を始めた秋のニューヨーク、しかしそこでは生命の準備のための営みが粛々と行なわれ、春に備えているというイメージを浮かべてしまう圧倒的な表現力です。

♪Sheila Jordan- "Autumn In New York"

1928年生まれのジャズ・シンガー、シーラ・ジョーダンの2012年1月のライヴです。彼女はチャーリー・パーカーとの共演歴もあるというプレミアムな歌手。冒頭のコメントといい、エンディングのアドリブといい、実にオシャレだなぁ。

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●オータム・リーヴス

もともとはシャンソン、すなわちフランス語で歌われるポピュラー・ソングです。余談ですが、フランス人ミュージシャンに「フランスの音楽シーンでシャンソンはいまどうなっているの?」と聞いたら、「え? シャンソンって“歌”って意味だけど、君の質問の意味がよくわからないな。“歌”ならいまでも歌われているけど……」と言われて会話がしばらくフリーズしてしまった苦い想い出があります。彼ら(とくに若い世代)にとって“シャンソン”というジャンルの音楽は存在しないことが判明したエピソードでした。

一般的に日本ではフランスの小唄風の流行曲をシャンソンと呼んでいて、そのスタイルを踏襲したものも含まれているようです。イヴ・モンタン、エディット・ピアフあたりが代表的なシャンソンの歌い手として知られていますが、1960年代あたりまでにフランスで流行歌を歌っていた人の楽曲を“シャンソン”と逆定義するような傾向もありますね。

「枯葉」は1945年にローラン・プティ・バレエ団のステージ「ランデヴー」の伴奏音楽としてジョセフ・コズマが作曲。翌1946年に、このバレエに触発されて製作された映画「夜の門」の挿入歌として、脚本家のジャック・プレヴェールが詞を付けました。

コズマはハンガリー出身の作曲家で、ナチスのユダヤ人迫害から逃れるためにフランスに移住、“フランス映画音楽の大家”と呼ばれるようになった人物です。

残念ながらこの映画はヒットしませんでしたが、この曲に眼をつけたのが当時ハタチそこそこで注目を浴びていたシンガーのジュリエット・グレコ。レジスタンス運動に身を投じ、知性派として注目されていたグレコが歌うことで「枯葉」も話題となり、1950年代にかけて多くの歌手に歌い継がれ、シャンソンを代表する1曲になりました。

と、ここまではフランスでの話。「フランスでこんな曲が流行っているぞ」と、アメリカの大手レコード会社キャピタル・レコードの経営会議で話題になったかどうかは定かではありませんが、「よし、アメリカでも売り出そう」と決まったのが1949年。その際、アメリカではフランス語では売れないからと英語詞を付けることになって、それを担当したのがキャピタル・レコードの創立メンバーでもあったジョニー・マーサーでした。彼は数々のヒット・ナンバーを手がけていた売れっ子の作詞家でもあったのです。

英語詞になった「枯葉」を最初に歌ったのはビング・クロスビーで、その後もナット・キング・コールなどヒット・メーカーたちが取り上げたのですが、思うように売り上げが伸びずにいたところ、“大統領のピアニスト”ことロジャー・ウィリアムスが抑揚たっぷりの演奏で仕上げるとこれがヒットして、1955年の全米ヒット・チャート4週連続第1位を達成してしまいました。ビルボードのチャート1位をピアノ曲で獲得したのはいまだにこの1例のみとか。

このヒットにジャズ界も反応、マイルス・デイヴィス(キャノンボール・アダレイ『サムシン・エルス』1958年)やビル・エヴァンス(『ポートレート・イン・ジャズ』1959年)といった名演が生まれ、その後も多くのジャズ・ミュージシャンに愛されるようになりました。

またまた余談ですが、フランスで最初に「枯葉」を歌ったジュリエット・グレコはマイルス・デイヴィスと恋愛関係にあり、マイルスが渡仏した1949年に彼女が歌う「枯葉」を聴いていたと思われます。

♪Autumn Leaves(枯葉)- cannonball adderley

名目上はアルト・サックスの巨人キャノンボール・アダレイのリーダー名義ですが、実際はマイルス・デイヴィスが仕切ったと言われているアルバムの冒頭を飾る名演です。いま聴き比べると、キャノンボールはこの6年前(1952年)に同曲を録音しているスタン・ゲッツを意識した演奏をしているなという気がします。一方のマイルスは、恋人だったグレコを思い出しているのでしょうか、絶品のソロを披露してくれています。

♪Autumn Leaves/Bill Evans Trio

ビル・エヴァンスがピアノ・トリオを芸術の域にまで高めたと言われる背景には、この「枯葉」の演奏があったと言っても過言ではありません。マイルスの演奏にはまだ少し“甘さ”が残っていますが、エヴァンスはドライそのもの。そんなテイストの違いを楽しんでみてください。

♪Juliette Greco- Les Feuilles Mortes

ジュリエット・グレコの1967年のライヴ映像です。バースと呼ばれる前奏部分も長く、テーマも地味ですが、ブロードウェイやハリウッドで生み出されたアメリカのスタンダードにはない斬新さが当時のジャズ・ミュージシャンの琴線に触れたに違いありません。

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●アヴァロン

「アヴァロン」は、1920年のショー「シンバット」のために作られた曲です。

このショーのために、シンガーのアル・ジョルソンがバディ・デシルヴァの手を借りて作詞、ヴィンセント・ローズが作曲を担当しました。デシルヴァもローズも、ブロードウェイで活躍したショー・ビズ界のクリエイターです。

このショーは人気を博して、「アヴァロン」もヒットを記録。当時は、プッチーニの歌劇「トスカ」のアリア「星に輝く」をパクったのではないかというゴシップ騒ぎも巻き起こしたほど注目を浴びたショーだったようです。

1930年代になると、スウィングが流行するなかでこの曲もカヴァーされるようになります。なかでも1938年にベニー・グッドマンがカーネギー・ホールで開催した記念すべきコンサートで演奏されたことにより、“スウィングの定番”という評価も定着しました。

映画「カサブランカ」のなかで名場面となっている、サム(ドゥーリー・ウィルソン)が「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」を弾き語りする前に、ほんの触りだけ弾いているのが「アヴァロン」です。

歌詞を読むと、どうやらアヴァロンは地名を指しているようなのですが、だとすれば、アーサー王物語の舞台となったイギリスのどこかにあるとされる伝説の島のことじゃないかと思われます。おそらく、厳密に「これ!」というイメージがあって用いたのではないと思うんですが……。

♪Al Jolson- Avalon (1920)

オリジナルのアル・ジョルソンによる音源が残っていました。

♪The Benny Goodman Quartet 1959-Avalon

こちらが、「アヴァロン」をスタンダードとして決定づけたベニー・グッドマンによる演奏です。

♪Nat King Cole Avalon

ナット・キング・コールの十八番でもあったので、1991年に娘のナタリー・コールがリリースした『アンフォゲッタブル』にも収録されています。

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♪編集後記

先日、音楽とは縁もゆかりもない会合で知り合った人が、実は学生時代にジャズ研でピアノを弾いていたという話題になって、それまでのよそよそしい雰囲気が一変してしばし盛り上がってしまいました。

話を聞いていると、その人は最近当時の仲間とスタジオを借りて演奏活動を始めたのだとか。

「なにを演奏しているんですか?」と聞いてみると、「スタンダードですよ」という答え。ところが、この答えが意外にクセモノなのです。

「どんなスタンダード?」とさらに突っ込んでみると、「え、まあ、フツーの……」と、いわゆる1930年代から50年代にかけてのブロードウェイ・ミュージカルやハリウッド映画をオリジナルとするナンバーをいくつか挙げていました。

アラ還=60歳前後ならあえてそう聞くまでもないかもしれませんが、アラフィフ=50歳前後となるとちょっと微妙。というのも、ボクもそうですが、1970年代からジャズにハマっていった人には、ボサノヴァやフュージョンという選択肢もあるからなのです。

その人が“フツー”と思っている範囲は、意外に狭いもの。ボクの学生時代、ジャズ研で最初に与えられた練習曲はFのブルース(「ナウズ・ザ・タイム」だったかな)と「サテン・ドール」でしたが、チック・コリアの「スペイン」とかT-SQUARE(当時はTHE SQUARE)の「ア・フィール・ディープ・インサイド」がかっこいいなぁと思って、一所懸命コピーしようとしてました(難しくてできなかったけど)。

“今週のスタンダード”では、スタンダードを俯瞰しながらジャズの楽しさを探っていこうと思っています。なので、ときどき「これもスタンダードって呼べるの?」という曲が入っているかもしれませんが、“スタンダードは世につれ、世はスタンダードにつれ”と思って、試しに味わってみてください。

♪T-SQUARE  A FEEL DEEP INSIDE

ボクがコピーしようとしたのは、1978年リリースのデビュー・アルバム『ラッキー・サマー・レディ』収録のヴァージョンでした。これは1990年代のT-SQUAREのヴァージョン。

富澤えいちのジャズブログ⇒http://jazz.e10330.com/

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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