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黄金に比すべき資質を備えたトランペット来臨!|マーキス・ヒル・ブラックテット@丸の内コットンクラブ

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

ジャズの“現代史”においては、1980年代にマルサリス一派によってニューオーリンズをルーツとするストレート・アヘッドなジャズの再構築が行なわれ、現時点でもメインストリームの地位を保っている。

しかし彼らは、ニューオーリンズこそがジャズの“聖地”であり、ジャズの正当性を示すための拠り所であるといった主張のためにその地名を用い、ブランディングしようとしているわけではない。

もちろん、“ニューオーリンズ”というイコンには、ジャズのみならずアメリカが抱える多民族国家の“闇”も当然のことながら含まれていて、ジャズをそれと切り離して語ることは「気の抜けた炭酸水をありがたがって飲んでいるのに等しい」という主張がないわけではないだろう。

一方で、それがたとえ「気の抜けた炭酸水」であっても、新たに炭酸を注入するだけでなく、初期状態では味わうことができなかった“妙味”を加え、まったくの別物と呼べる飲み物が誕生することも、世の中ではそれほど珍しいことではない。

話をジャズに戻せば、ニューオーリンズで芽生えたコレクティヴ・インプロヴィゼーションを織り込んだ自由形式の室内楽は、その種子をアメリカ合衆国の開拓と発展に乗じるようにして各地へ拡散させ、花を咲かせることになる。

それは、同じ遺伝子をもちながらも、風土や気候によって変態を遂げていた。

19世紀のアメリカ合衆国で、急速に発展していた東北部と、“新大陸”の玄関口だった南部を結ぶ交通の要所であったシカゴは、文化の面でも得意な立ち位置を得ることになる。かくして、20世紀前半に飛躍的な展開を見せることになったジャズという音楽文化にとって、シカゴは最も重要な、“揺り籠”と称しても過言ではないシティになったのだ。

こうした歴史的背景をもったシカゴから現われたのが、マーキス・ヒルである。

マーキス・ヒルというトランペット奏者について

Marquis Hill『The Way We Play』
Marquis Hill『The Way We Play』

1987年にシカゴで生まれたマーキス・ヒル。ノーザン・イリノイ大学で音楽を専攻、デポール大学のジャズ教育学の学士号を習得するころには、すでにいくつかのコンペティションで優勝したり、ベニー・ゴルソン、ロドニー・ウィティカー、スティーヴ・ターレらとの共演も果たし、ファースト・アルバム『ニュー・ゴスペル』(2014年)もリリースしている。

世界的な注目を浴びるきっかけとなったのは、2014年のセロニアス・モンク国際ジャズ・コンペティションにて、トランペット部門の最優秀賞を受賞したこと。

実は、2017年早々に、マーカス・ミラーの来日に同行して、その“黄金に比すべき資質を備えたトランペット(Trumpet Sound Quality of Gold)”の片鱗を日本でも披露してくれていたのだが、あいだを置かずに自らのバンドを率いての来日が実現。

名門コンコード・レーベルからリリースした最新作『The Way We Play』のリリース記念とも言えるこのステージで、“マーキス・ヒルならではのサウンド”そして“シカゴ・ジャズの伝統に根ざした現代のジャズ”を堪能させてくれるはずだ。

公演詳細は、コットン・クラブ(http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/marquis-hill/)のサイトを参照。

では、行ってきます!

♪ MARQUIS HILL BLACKTET: COTTON CLUB JAPAN 2016 trailer

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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