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80周年を迎えるフュージョン料理はどのようにして生まれたのか?

東龍グルメジャーナリスト
トレーダーヴィックス「TASTE THE WORLD」メニュー

様々な食文化の融合

フュージョン料理をご存知でしょうか。

「fusion」=「フュージョン」という英語は、辞書を引くと「融合」「溶解」といった意味があります。

フュージョン料理という場合には、どこか特定の国の料理として分類することが難しく、様々な国の食文化が組み合わされた料理を指します。多国籍料理や無国籍料理と表現されることもあり、「多国籍」と「無国籍」という反対方向の言葉で同じ料理を指しているあたりが、混沌としたイメージを想起させます。

フュージョン料理の先駆け

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今でこそ無国籍料理や多国籍料理はチェーン展開する大衆居酒屋で展開されるまでとなり、フュージョン料理は珍しいジャンルではなくなりましたが、いつ頃から作られるようになったのでしょうか。

コンチネンタル料理と中国料理を組み合わせた料理を提供し、フュージョン料理の先駆け的な存在となったレストランがあります。それは1937年にオープンして、今年2014年でちょうど80周年の節目となる「トレーダーヴィックス」です。

ラム酒好きが高じてバーをオープン

トレーダーヴィックスはアメリカのサンフランシスコに本店を構え、全世界に28店舗を展開しています。

「ホテルニューオータニ「ベッラヴィスタ」料理長にトップシェフが就任した背景とは?」でもご紹介した、ホテルニューオータニにある東京店はロンドン、ミュンヘンに次いで3番目にオープンした海外支店で、今年で40周年の節目を迎えます。

広報マネージャー 今井章江氏は「創設者のビクター・バージェロ氏はラム酒好きが高じて1934年にバーを開いた。バーに訪れたお客さまがお金を持っていない場合には、何か物をもらい、お酒を提供していた。このように物とお酒を交換したことから、商人を意味する<トレーダー>を店名に冠するようになった」と由来を説明してくれます。

様々な食材やスパイスを独自にアレンジ

ポリネシアン風の店内
ポリネシアン風の店内

バーからフュージョン料理への変遷を問うと、「バージェロ氏は世界中を旅する度に、様々な食材やスパイスを持ち帰った。独自にアレンジしていき、次々と新しい料理を生み出していった」と答え、「フランス料理のエスカルゴをクレオール風にアレンジしたり、ホタテのグリルに東南アジアのチリソースを合わせたり、豆鼓を使って羊肉を四川風に仕上げたりした」といくつか例を挙げます。

続けて「チャイニーズオーブンで焼き上げるポリネシアン風のグリル料理は人気が高く、定番となった。遠火でじっくりと焼き上げながらも、燻されて余計な香りがつかず、魔法の薪窯とも呼ばれている」と店の中央に構えたチャイニーズオーブンについて説明します。

マイタイが生まれる

「あまり知られていないが、ラム酒を研究していった末に完成させたのが、ラム酒ベースのカクテルとしてよく知られているマイタイ。タヒチ語で『最高』を意味する。1944年に生まれて、今年で70周年の節目を迎える」と話します。

さらには「ホテルニューオータニは今年で50周年の節目。様々な節目が重なっているだけに、トレーダーヴィックスにも非常に力を入れている」と熱を込め、「日本のお客さまにもトレーダーヴィックスの伝統的な味をお楽しみいただく機会をご用意した。1989年からトレーダーヴィックスで料理を作り、国賓もおもてなししてきたロンドン店シェフのテレサ・アルバート氏を招聘し、『TASTE THE WORLD』(世界のおいしさを味わう)フェアを行っている」と述べます。

80周年を迎えるトレーダーヴィックスの味を支えるテレサ氏の料理をご紹介しましょう。

有頭海老のガーリック焼き

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大きな海老が3尾載せられており、デミグラスソースにガーリックを効かせたソースを合わせています。洋風のデミグラスソースをベースにしているところが面白いでしょう。ピーマン、ニンジンの細切りを散らして、彩りも華やかにしているのは、南国風です。

クリスピーダックサラダ ホイシンソース

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たっぷりのダックにクリスピーなフリットが加えられており、よくかき混ぜて食べると複雑な食感がします。ホイシンソースは海鮮醤のことで、ゴマ、ニンニク、八角などを使った広東風の甘い味噌です。混ぜて食べるポリネシアンサラダに中国の調味料という組み合わせ。

ロブスターとアボカドのサラダ マンゴードレッシング

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マンゴーと紅芯大根でハサミを、チャイブで触角を模した、ロブスターの冷前菜です。アボカドやマンゴーを使っているところやプレゼンテーションのダイナミックさが南国風です。

シーフードのグリル サフランバターソース

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特大ポーションのサーモンやホタテ貝は、しっかりこんがりとグリルしています。サフランバターソースを合わせており、プロヴァンスなどの地中海料理やアジア料理の雰囲気をまとっています。

牛フィレのクレオールトマトソース

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クレオールトマトソースはタマネギの甘味が凝縮されていて、酸味がしっかりと感じられます。クレオール料理はそれ自体がフランス、スペイン、イタリア、アフリカの影響を受けたアメリカ南部の料理です。

スパイシーパイナップルと栗の渋皮煮 バニラアイスクリーム ピニャコラーダクーリとともに

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スパイシーにコンポートした厚いパイナップルの上に栗を配して、さらにはバニラアイスクリームを据えています。周りにはピニャコラーダのクーリとローストしたココナッツロング。フルーツを大胆にカットしているた南国風のプレゼンテーションに、栗の渋皮煮が合わせられているのは面白いでしょう。

フォーチュンクッキー

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最後の小菓子としてフォーチュンクッキーを添えているところが特徴的です。今井氏は「バージェロ氏は笑いやサプライズを大切にする人なので、最後にこういった演出をしている」と説明します。

カクテルとフュージョン料理

プレミアム 東京サワー
プレミアム 東京サワー

トレーダーヴィックスはマイタイを発明した店らしく、オリジナルカクテルもたくさんあります。海外展開している地域をイメージしたカクテルもあり、ロンドンサワー、ミュンヘンサワー、東京サワーを作っています。

アニバーサリーイヤーを祝し、期間限定で、日本が世界に誇るウイスキー「山崎」をベースにオレンジとレモンジュース、アーモンドシロップで仕上げたプレミアム 東京サワーを提供しており、記念に特製グラスもプレゼントするというこだわりようです。

カクテルはベースとなるお酒に何かを加えて作る飲み物で、何百何千と種類があり、逸話もたくさん残されています。トレーダーヴィックスが提供しているフュージョン料理は、ある国の料理に他の国の文化や食材や技法を取り入れているところが、カクテルに似ていると言えるでしょう。

世界中の料理が集まり、日々各国の料理が影響し合っている東京で、フュージョン料理の先駆けとなり、80周年を迎えたトレーダーヴィックスが、今後どのような「TASTE THE WORLD」を提供してくれるのか楽しみです。

情報

詳しくは公式サイトをご確認ください。

参考

トレーダーヴィックスについてはレストラン図鑑スイーツ図鑑もご参考にどうぞ。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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